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事故

200X年3月21日、その日は異常気象でお彼岸だというのに岐阜県飛弾地方は前日からの大雪にみまわれていた。
陶都市立総合病院診療放射線技師 菊池賢介は恋人である大原桃子の家がある栃尾温泉の桃子の家に愛犬ポチを連れて遊びに行ったその帰りの出来事だった。
彼の車の助手席にポチをのせ平湯トンネルを過ぎ、通称平湯の大カーブにさしかかったときだった。
道路は一面シャーベット状の雪、車はタイヤのグリップを失い滑りはじめ、そのまま反対車線へと走り「危ない!」と賢介が叫ぶと同時に車はガードレールの切れ間から10メートル下の崖へと落ちていった。
賢介は転落しながらも反射的にシートベルトを付けていないポチを守り、抱きしめていた。そしてしだいに意識がなくなっていったのである。
お彼岸とはいえ、標高が1500メートル 周りは一面の銀世界 凍死する可能性だって十分あり得る状況である。
車は大破したが、幸いにもポチは賢介のおかげで無事であった。救急隊員が到着するまでの間ポチは賢介を気遣い、寒い中体温を逃がさないように身をよせて賢介の体を温めて守っていた。
この姿は救急隊員たちを感動させたのであった。
救急隊員たちが賢介を救急車に乗せ救急病院へと走り出すまでポチは賢介のそばから離れようとしなかった。
救急車が走り出すと いつの間にかポチの姿は見えなくなった。
しかし、そこは普通の犬と違うのである。
桃子の家の近くにあるガソリンスタンドの軽トラックが通ると、すぐに荷台に飛び乗り桃子の家に向かっていた。(ポチはこの軽トラックが桃子の家の前を通ることを知っていたのだ)
桃子の家に着くなり、大きな声で吠え続け、桃子たちに異常事態を知らせた。びっくりしたのは桃子の両親であった。さっき帰ったはずのポチがうす汚れた姿で戻ってきているということは「賢介の身にきっと何かあったに違いない」そう感じとった。
それと同時に賢介の友人であるT山赤十字病院の山上君から電話が入った「賢介君が事故で運ばれてきた、意識不明・・・・。」 桃子たちは目の前が真っ暗になり、あやうく倒れそうになりながらも気を取り直し、とるものもとらず病院へと向かったのであった。

ポチのプレゼント(SF短編