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オトシブミの国

チョッキリの国


チョッキリ族(1)
チョッキリ族(2)
イクビチョッキリ族


ケシツブチョッキリ族
 ハダカケシツブ
 ヒメクロケシツブ
 ヌルデケシツブ
 リュウキュウケシツブ
 モンケシツブ
 ミヤマケシツブ
 クロケシツブ


ハマキチョッキリ族
 イタヤハマキ
 ドロハマキ
 トウキョウハマキ
 サメハダハマキ
 ファウストハマキ
 ブドウハマキ

ケシツブチョッキリ族Auletini

 非常に小型の一群で,全世界に分布する.オトシブミ科では最も古い系統にあるが,種の分散はあまり多くはない.筒状の体に,長く直線的な口吻,やや横に張り出す複眼が特徴である.性差は余り大きくはなく,野外で見分けるのは難しい.一般にオスの方が複眼がより張り出し,前胸側面の膨らみが強い.

 生態はよく似ており,新梢,新芽,新葉,つぼみなどに穴をあけ産卵する.産卵した部分の直下に穴をあけ,上部を枯れ死させる.幼虫は土中に潜り蛹化する.多くの種は夏までに羽化し,一部の新成虫が現れ後食する.クロケシツブチョッキリとリュウキュウケシツブチョッキリは年に何回か羽化するようである.

日本には2亜族2属 7種が棲息する.


Auletobiina

ハダカケシツブチョッキリAuletobius (Auletobius) calvus (Sharp,1889)

体長 1.8-2.5(mm),次種より一回り小さい.
色彩 黒色
特徴 幅の割に長さが短く,かなり丸い形をしている.触角は全般に太く短い.触角中間節第2節は第1節の1.1倍.触角中間節第4節は第2節よりかなり短い.上翅の被毛は次種に比べてより細く密度は低い. 雌雄の形態差については,前胸の幅が最大となるのがメスではほぼ中央なのに対し,オスではより後方になるという違いがあるもののかなり微妙である.
近似種 ヒメクロケシツブチョッキリ: 触角中間節第1節と第2節の長さの比,上翅の被毛の濃さ.同所,同時にいることがあり注意が必要
ヌルデケシツブチョッキリ: 触角中間節第2節と第4節の長さの比で判別.
ホスト カラコギカエデ
生態
分布 本州        県別分布表
備考 沢田 1993 では次種のシノニムとされたが,遺伝子はかなり異なっており完全に別種である.ただし,カラコギカエデにつくこの種が A.calvus かどうかは分からない.当面暫定的に割り当てておく.




ヒメクロケシツブチョッキリAuletobius (Auletobius) puberulus (Faust,1882)

体長 1.8-2.5(mm)
色彩 黒色
特徴 幅の割に長さが短く,かなり丸い形をしている.触角は全般に太く短い.触角中間節第2節は第1節の1.3倍.触角中間節第4節は第2節よりかなり短く次種との区別点である. 上翅の被毛は前種より密度が高い.雌雄の形態差については,前胸の幅が最大となるのがメスではほぼ中央なのに対し,オスではより後方になるという違いがあるもののかなり微妙である.
近似種 ハダカケシツブチョッキリ: 触角中間節第1節と第2節の長さの比,上翅の被毛の濃さ.
ヌルデケシツブチョッキリ: 触角第2節と第4節の長さの比で判別.
ホスト アキグミ
生態 アキグミの葉の基部を少し切って産卵するが,詳細は不明.
分布 本州,四国,九州,ロシア        県別分布表
備考 この種群は形態の差が小さく分類は困難である.再検討を要する.




ヌルデケシツブチョッキリAuletobius (Auletobiusfumigatus (Roelofs,1874)

体長 1.8-2.6(mm)
色彩 黒色,前肢は褐色.
夏には 上翅 : 褐色(会合部が暗色となる個体もいる), 前胸 : 褐色または黒色,
腹,頭 : 黒色の個体が現れる.
特徴 前種によく似ているが,前胸,上翅ともやや長めである.触角は細長く,第2節に比較して第4節はほぼ同じ長さである.雌雄の形態差は前種と同様であるが比較的差が大きいので,注意してみれば外見で判別できる.
近似種 ヒメクロケシツブチョッキリ: 触角第2節と第4節の長さの比で判別.
リュウキュウケシツブチョッキリ: 分布が重ならないので混同する心配はない.
ホスト ヌルデ
生態 年2回晩春,夏,成虫越冬
5月下旬頃より7月までかなりの長期にわたって見られる.ヌルデの新芽,展開し始めた葉に産卵し切り落とす.幼虫は土中で蛹化・羽化し,一部の新成虫(褐色個体)は7月下旬から8月にかけ現れヌルデを後食する.
分布 非常に広く分布するが棲息地は局地的,産地では個体数は多い.
北海道,本州,四国,九州,奄美?        県別分布表
備考 従来,コクロケシツブ A.irukutensis japonicus,チャイロケシツブ A.fumigatusA.testaceus の3種に分けられていたが1993年沢田により統合された.独立に筆者も飼育をして前2者が同一種であることを確かめた.




リュウキュウケシツブチョッキリAuletobius (Auletobiusplanifrons  Sawada,1993

体長 2.0-2.6(mm)
色彩 背:淡黄褐色,上翅会合部は暗褐色  腹:暗褐色  肢:黄褐色
特徴 上翅の暗色部は逆三角形になることが多い.体は淡色の短い毛で密に覆われる.触角第2節は比較的太く,第4節は第2節に比べてやや長い.球桿部は幅広い.
近似種 ヌルデケシツブチョッキリ(褐色個体):  ヌルデケシツツブチョッキリに比べて体毛が密で光沢がない. 
ホスト シイ(産卵するかどうかは不明)
生態 不明,年に何回か出現している.
分布 トカラ,奄美,沖縄,八重山




ミヤマケシツブチョッキリAuletobius (Auletobiussanguisorbae (Schrank,1798)

体長 2.7-3.2(mm)
色彩 黒色,やや青味がある.
特徴 前胸が幅広く上翅の幅との差が小さい.雌雄の差は極めて小さく,1個体のみの外見では判別不能.
近似種 なし
ホスト ワレモコウ
生態 年1回出現,越冬態不明.
ワレモコウのつぼみに穴をあけて産卵.産卵部下方に穴をあけ枯れ死させる.切り落とすことはしない.
分布 山地性,局所的,産地では個体数は多い.
北海道,本州,シベリア,ヨーロッパ        県別分布表




モンケシツブチョッキリAuletobius (Pseudometopumsubmaculatus (Sharp,1889)

体長 3.2-4.0(mm)
色彩 背,肢,腹部:褐色,頭,吻,胸部腹面:黒色
特徴 上翅は灰白色毛による帯状の紋がある.性差については,オスの前胸側方の丸みがやや強いこと,複眼がやや張り出す程度で1個体のみで判別するのは難しい.
近似種 なし
ホスト マンサク,イロハカエデ
生態 年1回春出現,越冬態不明.
マンサクの新芽,展開し始めた葉の基部に産卵し,産卵部下方に穴をあけ枯れ死させる.詳細は不明.
分布 山地性
本州,四国,九州        県別分布表




Pseudomesauletina

クロケシツブチョッキリPseudomesauletes (Pseudomesauletes) uniformis (Roelofs,1874)

体長 2.2-3.4(mm)
色彩 光沢のない黒色.
特徴 前5種と異なり触角は吻中央に付着する.オスには上翅末端近くに1対の小さなコブ(毛房)がある.
近似種 なし
ホスト ノイバラ,バラ,キイチゴ,サルスベリ,(アベマキ),(クヌギ)
生態 少なくとも年2化,成虫越冬? 新芽,つぼみを切って産卵.
4月初旬から現れ,バラ類の新芽やつぼみに穴をあけ産卵し,茎の部分に穴をあけ産卵部位を枯れ死させるが,積極的に切り落とすことはないようである.5月になるとサルスベリに産卵するようになる.幼虫は土中で蛹化,羽化する.秋にはコナラ,アベマキなどにも成虫が見られるが,産卵するかどうかは不明.
多治見市での観察例では,4月中下旬に個体数がピークとなる.産卵は5月下旬まで続くが,個体数は減少していく.7月頃から再び個体数が増え始め,7月下旬頃から産卵が始まるが春ほど集中しない.その後個体数は減り,9月頃からはもっぱら葉をかじるだけとなり,10月下旬から11月初旬頃までに姿を消す.
分布 極めて普通,都市の公園,庭などでも見られる.山地にはあまりいない.
全国        県別分布表
備考 バラの著名な害虫.バラの苗の移動に伴って運ばれる可能性があり,遺伝的にはかなり攪乱されているのではなかろうか.
沖縄のものは光沢が強く,従来別種 A.okinawaensis とされていたが1993年沢田により本種に統合された.
北海道,東北北部の沿海部にはハマナスにつくものがいる.若干形態が異なるが,遺伝子では大きな違いがなく別種とは言えないと思われる.




ハマキチョキリ族Byctiscini

 小型で地味な色合いを持つ種が多いチョッキリ類のなかで,大型でしかも美しい金属光沢を持ったこの仲間は比較的普通に見られる.

 丸く強く膨らむ前胸,方形に近い上翅,長く強く湾曲する吻が特徴である.雌雄の区別は容易で,オスには前胸下部に斜め前方に向かう鋭いとげ状の突起があり, 吻はメスより長くしかも湾曲が強い.(多くのチョッキリはメスの方が吻は長い.)

 習性はその名のように葉を巻いて揺籃を作る.葉柄または茎を切り葉をしおれさせて縦に巻く.小型種は1枚,大型種では数枚の葉を用いる. イタヤハマキチョッキリはカエデ類の葉をときには20枚以上も巻き込み子どものこぶしほどの大きな揺籃を作ることがあり, 遠目にもはっきりそれと分かる.

 卵は通常数個産み込まれ,幼虫は揺籃の中で成長する.食べるのは中心部のほんの一部で,幼虫同士が競合することはないようである. 終齢幼虫は揺籃から脱出し土中に入って夏を越し,秋に蛹化,羽化する.新成虫はそのまま土中で越冬し, 春に姿を現ししばらく後食したのち繁殖活動に入る.一部新成虫が秋に現れ後食していることがあるが,産卵することはないようである.

 日本には 2属 6種が分布する.


Byctiscina

イタヤハマキチョッキリByctiscus venustus (Pascoe,1875)

体長 オス:4.0-7.0,メス:4.0-6.0 (mm)
色彩 背:濃赤紫色,腹:濃紺色
特徴 上翅の点刻が強いため金属光沢はやや鈍い.標本にすると赤みが落ちて金緑色となることもある.
近似種 なし
ホスト イロハカエデ,ハナノキ,トウカエデ,ウリカエデ,ウリハダカエデ,イタヤカエデ
生態 年1回春出現,成虫越冬,揺籃
カエデ類の芽吹きと同時に現れる.(平地では4月初旬) カエデの新芽や花は赤いため体色が保護色となって意外と見つけにくい.2-3週間後食した後産卵を始める.揺籃は非常に多くの葉から作られるが,中核となるのはせいぜい2-3枚である.まず,1枚目を細く縦に巻く.次にその下半部を折り返し,その上から2枚目をしっかりと巻く.卵は1-3枚目までに産み込まれることが多い.その後さらに巻き重ねていくが,後半はかなり雑に巻き付けている.葉がほどけないように口からノリ状の物質を出して接着する.産卵数はイロハカエデで2-11個平均4.5個,ハナノキでは2-12個平均5.5個であった.新鮮な揺籃をとってきて室内で飼育すると,ほとんどの卵が終齢幼虫まで成育する.幼虫は約一月で揺籃から脱出し,土中で夏を越し秋に蛹化,羽化する.室内で飼育していると秋に地上にでてくることがあるが,野外で飼育してるとそのまま春まで出てこない.約半数の個体は越冬できずに死ぬ.自然状態では寄生,捕食などで生き残るのはもっとずっと少ないであろう.
分布 普通種(平地,山地)
北海道,本州,四国,九州        県別分布表




ドロハマキチョッキリByctiscus congener (Jekel,1860)

体長 5.0-7.0(mm)
色彩 東日本では金属光沢を持った緑色,関東の一部では濃青色.腹面は緑色
西日本では上翅に1対ないし2対のかなりはっきりした赤色紋をもつ.(ベニホシハマキチョッキリ)
中部地方北部山間部では緑色型と赤色紋型が混棲する.
特徴 前胸背板は細かく密に点刻される.上翅の点刻は粗く中央部はやや不規則.頭部複眼間に窪みがある.触角中間節第2節は第1節の0.8倍,オスでは幅より少し長く,メスではかなり長い. 個体差がかなりあり大型のものほど長くなる傾向がある.中には非常に短くトウキョウハマキチョッキリと判別できないものもいる.前胸側面,腹面の体毛は長くやや多い.オスの吻は強く湾曲する.すべての脛節端内側に小さなトゲ状突起がある.
近似種 トウキョウハマキチョッキリ:  多くの場合触角中間節第2節の長さで判別できる.
サメハダハマキチョッキリ:  前脛節端の突起の有無で判別できる.
ホスト イタドリ,ヤマブドウ,サルナシ,マンサク,ヤマハンノキ,ドロノキ,コナラ,ブナ,ハリギリ,イロハカエデ,ウリハダカエデ
生態 年1回春出現,成虫越冬,揺籃
出現初期にはマンサクやカエデ類を巻き,5月中旬頃からはもっぱらイタドリを巻く.
分布 山地では普通種,平地にもいるが多くはない.
北海道,本州,四国,九州        県別分布表
備考 原色日本甲虫図鑑 Ⅳ ではベニホシハマキチョッキリは別亜種,トウキョウハマキチョッキリ B.subauratus Voss は別種とされていたが,1993年沢田により統合された.




トウキョウハマキチョッキリByctiscus subauratus Voss,1943

体長 5.0-7.0(mm)
色彩 金属光沢を持った赤紫色.腹面は赤紫色または暗い赤緑色.色彩はイタヤハマキチョリに似る.古い標本では赤みが抜け緑がかる.
特徴 前胸背板は細かく密に点刻される.上翅の点刻は粗く中央部はやや不規則.頭部複眼間に窪みがある.前胸側面,腹面の体毛は長くやや多い.触角中間節第2節は短く第1節の0.5~0.6倍,長さと幅はほぼ同じ.オスの吻は強く湾曲する.すべての脛節端内側に小さなトゲ状突起がある.
近似種 ドロハマキチョッキリ:  多くの場合背面の色彩,触角中間節第2節の長さで判別できる.
サメハダハマキチョッキリ:  前脛節端の突起の有無で判別できる.
ホスト オヒョウ,ハルニレ
生態
分布 山地,多くはない.
本州        県別分布表
備考 1993年沢田によりドロハマキチョッキリに統合されたが,遺伝子はかなり異なっており別種とするのが妥当と思われる.




サメハダハマキチョッキリByctiscus rugosus (Gebler,1830)

体長 5.0-7.5(mm)
色彩 金属光沢を持った緑色,まれに濃紺色.
特徴 前胸背板は細かく密に点刻されややしわ状.上翅の点刻は粗く中央部はしわ状になり,乱反射のため輝いて見える.中,後脛節端内側に小さなトゲ状突起があるが,前脛節端にはない.    揺籃
近似種 ドロハマキチョッキリ,トウキョウハマキチョッキリ:  前脛節端の突起の有無で判別できる.
ホスト ドロノキ,オオバヤナギ,ポプラ,リンゴ
生態 年1回春出現,成虫越冬?,揺籃
分布 寒地性,少ない.
北海道,本州,朝鮮,中国,シベリア        県別分布表




ファウストハマキチョッキリByctiscus fausti (Sharp,1889)

体長 3.0-5.0(mm)
色彩 背:光沢の強い濃赤紫色,腹:濃紺色,九州ではほぼ黒色となるものがいる.
特徴 色彩はイタヤハマキチョッキリににるが,上翅がなめらかで光沢が強い.オスの性標の突起は小さくよく見ないと分からない.
近似種 なし
ホスト イロハカエデ,ウリカエデ,サクラ,コナラ,ミズナラ,ブナ,シデ,ミズメ,エビヅル,マンサク
生態 年1回春出現,成虫越冬,揺籃
早春から現れ様々な葉を巻く.揺籃は他種と比べてかなり小さく細い.複数個産卵する.幼虫は土中で夏を越し秋に蛹化羽化する.
分布 普通種(平地,山地)
本州,四国,九州        県別分布表




ブドウハマキチョッキリAspidobyctiscus (Aspidobyctiscus) lacunipennis (Jekel,1860)

体長 4.5-5.0(mm)
色彩 やや光沢を持った銅黒色
特徴 上翅の点刻が粗大で表面がでこぼこした感じがする.
近似種 なし
ホスト ヤマブドウ,エビヅル
生態 年2回初夏,晩夏出現,成虫越冬,揺籃
出現時期が遅く平地でも6月頃現れる.葉を1枚葉柄部分で切り縦に巻き,複数個産卵する.幼虫は土中に入り蛹化羽化する.新成虫は8月下旬頃に現れ後食した後越冬する.
分布 低地では普通種,山地にはあまりいない.
本州,四国,九州,朝鮮,中国,台湾        県別分布表