絵茶ログその4.
もう少し、何かできたのではないか。
理不尽な理由で亡くなった依頼者に対して、ジョンはいつもそう思う。
自分では最善を尽くしているつもりであっても、もっと、もっとと考えてしまう。
塞ぐのが悪いとは言わないが、このままでは仕事に支障をきたし、皆の足手纏いになりかねない。
(ちょっと、頭を冷やさなくては)
ジョンは外に出て、気を紛らわすことにした。
夜へと向かう公園は薄暗く、人は見当たらない。
ざわざわと、葉の擦れ合う音が聞こえるのみ。
自動販売機でタバコを買っていると、長身の影が差した。
「リンさんも休憩どすか?」
「・・・ええ」
リンがタバコを買うのを待つ気はなかったが、おもむろに歩いているとリンが追いついてきた。
背中合わせのベンチにそれぞれ腰掛け、姿勢を崩してタバコを取り出そうとすると、ジョンはライターを忘れたことに気づいた。
「火・・・」
言い終わる前にリンがライターを差し出した。
「どうぞ」
「あ、おおきにさんどす」
ふにゃりと笑ってジョンは自分のタバコに火を点けた。
リンもネクタイを緩め、一息つく。
それから暫くは、何を話すこともなくただ時間ばかりが過ぎていった。
タバコは短くなり、灰は地面の砂と同化していく。
浮かない気分だけがもやもやとしたまま、まるで塊があるかのようにそこに留まっていた。
ふとリンが口を開いた。
「お吸いになるのですね」
「あ・・・見た目がこんなんですよって。意外ですやろか」
自分の童顔を考えると、いくら歳相応の行動をしても、不思議に捉えられるものだ。
「いえ・・・ええ、まあ。そうですね、意外でした」
リンは俯いて少し口角を上げた。
「少し頭を冷やそうと来たんですけど、あきませんね。渋谷さんやリンさんみたいに割り切ることもできなくて・・・
自分が情けなく思いますです」
寡黙なリンに、このような弱音を吐くのが自分でも意外だった。
「月並みですが、ブラウンさんはブラウンさんにしか出来ないことがあります。そして、ブラウンさんの気持ちは他の者と比較するものではないと、私は思います」
そう述べると、また沈黙の時間が流れた。ジョンも言葉を出すことはなかった。
「・・・では」
短くなったタバコをもみ消すと、リンはベースに戻っていった。
さっきよりも、頬を撫でる風が優しい。
ジョンはリンの言葉を噛み締め、依頼者のことをまた少し思って涙を落とした。
アリーに許可頂いたので、彼女の妄想(笑)を元にぽっと頭の中に出た映像を言葉に落として見ました。
むずかし!物書きさんホントに尊敬します・・・。