過去、PTSD、不安神経症、パニック症候群など勉強してきた。頭がおかしい、心の弱い人などという言葉で済まされないように思われる。しかし、これら心の変調は意識から、脳の中からか来るのだろうか。脳と心はどのような関係だろうか。
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不安の伝達は先ずネズミがストレス(電気ショック)を感じる所から始まる。ネズミの感覚器は速やかにメッセージを脳の中央部分に送る。そこでは2つの神経通路を経由して情報処理される。その1つの経路は長く曲がりくねっている経路であり、脳が正確に情報を処理する経路である。もう一方の経路は緊急の短絡経路でアーモンドの形をした扁桃体に直接メッセージが送られる。扁桃体の特徴は体のどの組織へも緊急信号を送り、極悪人のように激しく襲いかかるか、脱兎の如く逃げ出す反応を作り出す。
この反応は正確さを追及したものでなくただ早いだけである。例えばピクニックに行ったとしよう。野道で蛇を発見してはっとしたがそれは単に棒であった場合は扁桃体の為せる業である。ニューヨーク大学の神経学者であるジョセフ・レドークス氏は扁桃体を恐怖の中心と言う。
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扁桃体は緊急信号を身体の各部に送ると同時に、扁桃体の横にある海馬にも信号を送る。海馬の役割は脳が学習したり、新しい記憶を作成する時それを助ける役割をする。ネズミの場合では電気ショックを受けた時の場所と状況を記憶させる役割をする。状況の学習はネズミのような動物でも再度ショックを受けないようにその場所を避けるのに有効である。同時にどの場所なら安全かを知るにも役立つだろう
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この時点ではもう一方の経路を経たメッセージは脳皮質に到達していて、皮質は危険が今存在していて痛みを感じていると認識する。ショックが消えると前頭葉と呼ばれる脳の前部にある脳皮質がオールクリアーメッセージを発する。即ち警報解除の信号であり、扁桃体に向けて警戒態勢解除のシグナルを発する。いや、正確には発しているはずであるが警戒態勢を敷くよりそれを解除する方が難しいようでこれが神経症の原因になっていると考えられる。でも生存の為にはそのほうが都合が良く、危機にあって安心しきっているより過剰にパニックになっていた方が安全である。
この神経回路の発見が不安の発生メカニックを理解する鍵となった。この回路理論から行くと不安は必ずしも外部要因により引き起こされるものでは無くて、むしろ警戒解除の信号を出す部分のメカニズムに異状が起きていると考えられる。丁度車が暴走して止まらなくなる時、アクセルが踏み込まれたままになっているか、あるいはブレーキが故障しているか原因が2つあるように、神経症でも脳のどの部分に問題があるか指摘するのは容易でない。神経症でもアクセルの役割をする扁桃体が過剰反応しているタイプとブレーキの役割をする前頭葉が充分作動していないタイプに分かれるであろう。
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セロトニン
セロトニンを神経の末端から放出する神経細胞の集まりは、脳幹の真中あたりにあり、丁度左右の脳幹をつなぎ合わせるように位置している。そこから突起(軸索)を伸ばして、その先は脳全体に行き渡っていることが分かった。この部分は、ギリシャ語の「縫い目」にある核という意味で、縫線核と名づけられている。 |
セロトニンの役割
自殺者の脳を調べると、セロトニンが少ないという報告がなされた。さらに、セロトニンの受容体のうちでうつ病に関係するとされる2型の受容体が自殺者の脳に多く、精神の安定に関係するという1型の受容体は自殺者の脳に少ないという報告もなされた |
ドーパミンの量が増えれば人は快感を感じ元気になる。その後の研究でノルアドレナリン神経を刺激すると、動物はやはり喜びを感じること、それも何か楽しいことを予感できるという、報酬に対する喜びを感じるらしいことが分かってきた。 |
われわれは皮膚を刺激すると痛みを感じる。この時には皮膚からの痛覚の神経刺激が脊髄に入り、脳内の視床から大脳の体性感覚野に到達する。痛みそのものはそこで感じるが、その刺激がさらに辺縁系に伝えられ、不快などの感情を生むのである。もし辺縁系がこれを不快と感じなければ、痛みそれ自体はそれほどの苦痛ではない。同じように不安もそれが意識というレベルでどのように処理され、最終的な感情になるのかが問題である。セロトニンはまさにこの最後の情報処理に関係しているのではないだろうか。
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最近、日本でもSSRIの研究が進み、発売されているSSRIはフルボキサミンで「ルボックス」「デプロメール」という商品名で販売されている。
しかし、うつ病の治療に心理療法が効果があることも確かめられている。そうなると、心理的な影響が脳の物質にどのような影響を与えるのか、物質が心に影響を与えるように、心はどのように物質に影響を与えるのかという問題がある。
このように心の問題は一つが解決されるように見えると、さらに複雑なより大きな問題に直面する。
脳の仕組みが解明されると心の働きはわかるのだろうか。脳の解明は心の解明の一幕にすぎないのかもしれない。
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薬での治療が主流のように見える今日、カウンセリングや心理療法などでも治療効果がある。また、鍼灸治療による効果も見逃せないと思う。特に東洋医学研究所の黒野保三先生はうつ病患者はもとより、神経症や自律神経失調症、不定愁訴症候群など様々な患者に対して素晴らしい効果を発揮されている。上記、「脳の仕組みが解明されると心の働きはわかるのだろうか。」という言葉は非常に重みのある言葉だと思う。そして、治療を行う人間性が相手の心を打ち、鍼治療を行った結果、何かが脳内のセロトニン等脳内の物質に影響を及ぼし、効果をあげるのではないか。 |