風紀委員は大変だ

「昨今の風紀の乱れは、許し難いものがあります!」
 事務所で断言したのは、赤いショートカットの美女、山沢麻美である。
 元々、市議会の監督官であった山沢である。それも、鴉葉などとは違い、まじめにその任務を果たしてきた。それだけに、悪司組の風紀の乱れ、それには、腹を据えかねた。
「よって、本日より一週間を、風紀強化週間とします」
 一方的な断言。
 事務所の各所から、ブーイングが上がる。
 しかし、山沢はそれらの不満を、一睨みで黙らせた。
 何しろ、悪司組の主戦力。その攻撃力、命中、回避の全てのパラメーターが高いレベルにある山沢である。その上、必殺技は攻撃力300パーセントのハイクラッシュ。大抵のキャラは、一撃で死ねる。
 その山沢が、「逆らったら殺す」そんな物騒な視線を向けてきたのだ。とても、逆らえるものではない。
「しかし、具体的にはどうするつもりだ?」
 尋ねてきたのは、岳画殺。史上最強の13才の叔母さんである。山本家の血筋を表している、二股別れの眉毛がキュートだ。
「はい、まず、殺さんにもして貰わなければならないことがあります」
 心強い賛同者を得た。そんな表情で、山沢。
「貴様は、私に甥殺しをしろと言うのか?」
 殺が、微妙に目を細めて尋ねる。
「はい? 何を言っているのですか?」
「詰まるところ、風紀の乱れは、悪司に集約されるだろう。臭いモノは、大本から断たなければ駄目、と言うことではないのか?」
 首を傾げて、問う。
 殺の言葉通り、誰が何と言おうとも、問題は悪司だろう。悪司組、女子構成員の全てと肉体関係がある悪司だ。これ以上、風紀を乱す者はまずいない。
「違います」
 しかし、きっぱりと山沢は否定した。
「悪司さんは、必要な人間です」
「うむ、それを否定するつもりはないが、それを貴様に言われると、なんだか違和感があるな」
「何しろ、悪司さんには、私の禁断症状を抑えて貰わなければなりませんし──」
 山沢は頬を染めて小声で呟き、それでも冷めた視線を集めてしまったことに気が付くと、咳払いを一つ。殺を真っ正面から見ると、まるで都合の悪いことを誤魔化すかのようにして、言った。
「そこで、殺さんにして貰いたい事というのは──」
「何だ?」
「そのスカートです!」
 きっぱりと告げる。
「私のスカートがどうかしたのか?」
 殺は不思議そうに、自分のはいている学校指定の制服、そのプリーツスカートを見る。
「短すぎます。破廉恥です」
「は?」
 殺は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。
「一寸動くだけで、パンツが見えそうなきわどい長さ。これは、非常に破廉恥です! 風紀の乱れの一つです!」
 山沢は断言した。
「……いや、しかし」
 殺は、少々戸惑い気味の声を出した。普段は無表情なまでに冷静な殺らしからぬ、戸惑いの表情だった。
「矢張り、スカートは、膝位までの長さが必要だと思います。殺さんのように短いスカートでは、駄目です、Hです!」
「いや、私の場合は、設定書にも、「パンツを見せては駄目です、NG」と書かれている。だから、いくら動いても、パンツが見えるという危険は皆無だ」
 だいたい、元々18禁ゲームである。そんなことを言っても始まらないのだが、山沢は決して認めようとはしなかった。
「それでも破廉恥です!」
 きっぱりと、断言する。
 それを言ったら、山沢の格好だって、タイトミニ。しかも、遠距離砲撃型の殺と違い、山沢は近距離格闘タイプ。殴ったり蹴ったりである。どちらが、よりパンツを見せる、あるいは見られる機会があるかと問われれば──であるのだが。
 殺は、山沢の瞳の色を見て、あきらめが入る。これは何を言っても無駄。そう言う、瞳の色だった。
「わかった、善処しよう」
「よろしい」
 殺の言葉に、山沢は満足したように頷いてみせる。
「次に──アキラさん」
「──?」
「あなたです! 不動──」
「メイだ!」
 不動明が、少々慌て気味に訂正する。
「でも、デーモン族と戦って……」
「泥悶族だ! カタカタはNGだ!」
 やっぱり、慌て気味に訂正する明。
「……それはともかく、オレの何処に問題があるんだ? スカート丈に問題はないぞ」
 今時珍しい、長いスカートの不良、それが明である。ただ、スカートには過激なまでのスリットが入っているが。
「あなたは、パンツを履くようにして下さい! 破廉恥です!」
「……誰が、ノーパンだ? オレは、ちゃんと履いている!」
 純情な不良。そんな感じの明は、顔から火を噴きそうなまでに真っ赤になって、叫ぶ。
「え? でも、ビジュアルでは、まるっきりノーパンにしか見えませんけど」
「それでも、履いているんだ!」
 切れたように、明は叫ぶ。
「それに、殺やオレの格好をどうこうするよりも、あいつらを何とかしろ! その方が、風紀の乱れとやらは、改善されるだろうが!」
 明は叫んで、事務所の外を指さした。
 そちらの方からは──
「見て見て〜」
「オレはいつも見ているぞ〜」
「あ〜ん、パンイチ〜」
 そんな声が聞こえてくる。
 山沢は、そちらを見て、沈痛な表情を作った。
「アキラさん」
「メイだ!」
「──それはともかく」
「ともかくじゃねえ」
「世の中には、言っても仕方のないこと、努力してもどうしようもないことがあるのです」
 人生の悲哀を滲ませる声で、山沢は言った。
「……なんだよそれ」
 明は、疲れ切った声で応じる。
「何を騒いでいるんだ?」
 と、そこへ、悪司が顔を出してきた。
「あ、悪司さん、今──」
「ん、山沢か。──忠誠が、下がっているな。良し、オレの部屋に来い」
「え?」
 山沢は、そのまま、悪司の部屋に連れて行かれた。
「おい、風紀の乱れとやらは?」
 明が、呆れたように呟いた。
 明らかに、これこそが、風紀の乱れの最大の原因だろう。
「気にするな」
 殺は、僅かに疲れた表情を見せ、投げやりに応じると、宿題を始めた。


 山沢麻美の風紀強化週間は、こうして失敗した。
 しかし、油断してはいけない。何時また、第二第三の風紀強化週間がやってこないとも限らないのだから。

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