リポート04,まっすぐで行こう!


 ぽかんとした顔で、令子は自分の前に座る少女を見つめた。
 いや、正確には少女と言っていいか? 見た目は、確かに少女。令子よりも年若く見えるが、そこは神様。実際は、年上、それもかなりの。人などとは比べモノにならないほどの、長い、長すぎるほどの年月を生きてきているはずだ。
「……今、何て言ったの?」
 尋ねる。
 聞き逃したわけではない。しっかりと、聞こえていた。何と言ったのか、一語たりとも誤らず、頭に入った。しかし、その内容が、どうしても理解できなかった。
「ですから、美神さんに弟子入りをさせて下さい」
 と、その少女、小竜姫は繰り返した。
 小竜姫。妙神山の管理人をしている龍神である。見た目、年若い少女に見えようが、そこは龍神。きっぱり、いかに有数のゴーストスイーパーと言えども人間の令子などよりは遙かに強い。しかも、超加速などと言う高速行動が出来る。その超加速状態にあれば、人は勿論、そこいらの魔族だって相手じゃない。……煩悩丸出しの横島のシャドウには追いつかれたことがあるが、それは希有な例外だろう。
 それが、何故、弟子入りなのか。
 訳が分からない。
「どういう冗談?」
 流石に、相手は神様である。修行などで、いろいろと世話になった。そのおかげで、いろいろ厄介事を任されもしたが。それでも神様である。お茶だって、一番良いモノを出して気を使っている。それなのに、この冗談。ちょっぴり不機嫌になって、令子は小竜姫を見つめる。
「斉天大聖様に、言われたんです」
 小竜姫は、その視線に僅かに怯えたふうにしながら、答える。
 ちなみに、斉天大聖とは、妙神山の責任者。小竜姫の師匠に当たる猿神である。分かり易い言い方をすれば、孫悟空の異名である。孫悟空と言っても、カメハメ波の方ではない。西遊記の方である。
「私の戦い方は素直すぎるから、もう少し、駆け引きなどを身につけろと。──それで、美神さんに弟子入りして、その戦い方を学んでこいと」
「成る程」
 令子は頷く。
 確かに、斉天大聖の分析は正しい。
 小竜姫は強力な龍神である。アシュタロスは別格、師匠の斉天大聖を除けば、おそらくGS美神の登場キャラ中、最強に近い実力を持っているだろう。香港編の時の雪之丞の台詞、「今の人界に、こいつほど強力な神は珍しい」は、大袈裟でも何でもない。
 が。
 それだけの実力を誇る小竜姫であるが、魔族メドーサには、良いようにやられていたりする。
 メドーサ自身も、強力な存在である。しかし、正面から戦えば、小竜姫の方が強いであろう。だが、メドーサは決して正面からは戦わない。搦め手、それが駄目ならば、近くの無関係なモノを巻き込むような戦い方で、小竜姫に実力を発揮させない。メドーサの狙いが解っていても、かばわずにいられないのが、小竜姫なのだ。斉天大聖はその辺りを評して、戦い方が素直すぎると言ったのだろう。
「──つまり、美神さんのこすい戦い方を学べってことですか?」
 口を挟んだのは、横島忠夫である。
「ええと……まあ、そう言うわけです」
 少し困った顔で、しかし否定しない小竜姫。
 こすいと言われた令子の額に怒りのマークが浮かぶ。
「止めて下さいよ。オキヌちゃんと並ぶ、GS美神の数少ない良心の小竜姫様が、美神さん張りの小ずるい戦い方をしたら……」
 げし、っと、横島沈没。
「だれが、小ずるいって?」
 自覚のないことを叫ぶ令子である。
「まあ、それはともかく……美神さん、どうするんですか?」
 場の雰囲気を取り繕うように、オキヌが話題を元に戻す。横島は床に沈没、その下にでっかくて赤い水たまりが広がっている。いくら大気圏突入を生身で行っても無事というギャグ畑のキャラクター横島でも、これ以上の追撃を食らえばヤバイ。そんな判断だ。
「まあ、小竜姫様にはお世話になっているから、引き受けるけど」
「え?」
 美神の言葉に、オキヌは耳を疑う。
「何よ、その「え?」ってのは」
「いえ」
 ぷるぷると首を振るオキヌである。
 内心では、「美神さんが、儲けにもなりそうにないことを、こんなにあっさりと頷くなんて」と疑惑の嵐が吹き荒れていたりするが、それを口に出さない分別はある。少なくとも、横島よりは自己保身の能力に長けているオキヌである。
 疑い深い視線でオキヌを見つめる美神。根が素直なオキヌなだけに、思っていることが顔に出る。令子にすれば、内心は容易に伺うことができる。しかし、横島ではないが、オキヌに非道いことをしたら、それこそ悪役である。ぐっと堪える令子だった。
「でも、最初に言っておくけど、私の指導は厳しいわよ」
「はい……覚悟しています」
 何となく歯切れの悪い小竜姫の言葉。
 令子は僅かに眉毛を微妙に動かすが、深く追求はしない。やっぱり神様、遠慮が──
 ぴぽぱぽ。
 代わりに、令子は携帯を取りだした。
「あ、社長? この間断った仕事だけど、やっぱり引き受けることにしたわ。ええ、勿論。報酬は──」
 いきなり何を?
 戸惑う小竜姫、オキヌ。横島は沈没したまま。余程、綺麗に一撃が入ったらしい。
 その前で、令子は立て続けに電話を繰り返す。
「あ、その依頼も引き受けます。──ああ、専務? この間の──」
 なにやら、上機嫌で依頼を引き受けまくる令子。
 そちらを伺い、オキヌは小声で小竜姫に話しかける。
「あの、小竜姫様、思い直した方が……」
 修行と偽って使い倒そう。そう考えているのは明白である。
「……私も、なんだか後悔しています」
 小竜姫は、目の幅涙をこぼしながら、答えた。


 そんなわけで、GS美神除霊事務所の一行プラス小竜姫は、仕事に出かけた。
 今回の依頼は、遊園地デジャブーシー。近日オープンを待っている、名前の通りデジャブーランドの海バージョンである。
「先生、すごいでござる!」
 ぱたぱたと、ズボンのお尻の部分に生えたしっぽを振りながら喜びの声をあげたのは、人狼の少女シロ。
 人を楽しませるのに、お金をケチってはならない。
 そんなモットーを持つデジャブーランドと同系列の会社の経営する遊園地。確かに、凄い。こちらは、本家と差別化するために、水物の施設が充実している。中でも売りは、大きな、大きな室内プールである。
「そうか?」
 横島が答える。
 これは、投げやりと言うよりも、まともに答える余裕が無いというのが本当だった。身の丈を越えるような大荷物を背負わされ、立って歩いている方が不思議、そんな状態なのだ。そして、これがいつもの状態だったりする。
「は〜、凄いですねえ」
 お上りさん丸出しで、相づちを打ったのは小竜姫。何しろ、妙神山はど田舎。未だにテレビは白黒だし、令子達に関わって、最近こそちょくちょく人界にもやってくるとは言え、300年ほど、妙神山に籠もりきりだった小竜姫である。全てが物珍しい。
「ガキね」
 と、主にシロを揶揄したのは、金毛白面九尾の狐の生まれ変わり、タマモ。クールな態度はいつものこと。しかし、本当はちょっぴり楽しみにしていたりする。「人間てこーゆー下らないことにかけてはサイコー!」なのだ。しかし、その矜持がシロのように無条件にはしゃぐことを許さない。自分は大人、シロのようなガキではないのだから。
「本当は、タマモも楽しみにしていたくせにで、ござる」
「私は、あんたみたいなガキとは違うのよ」
「……」
「何よ、その目」
「全長300メートルのろんぐうおーたーすらいだー」
 ぴくり。
 ほんの微かに、タマモが反応する。
「高低差50メートルのすぷらっしゅうおーたーすらいだー」
 ぴくり。
「恐怖の絶叫滑り台、すぱいらるうおーたーすらいだー」
 ぴくり。
「タマモもワクワクしてきたでござる。見える〜、見えるでござる。こうして目を閉じると、タマモのはしゃぐ姿が見えるでござる。……タマモったら子供みたいに走りまわっているでござる。そんなに走っちゃ、ああ、ほら、転んだでござる。泣かない、泣かないでござるよ」
「変なモノを見るな!」
 タマモが吼える。
 いつものようにつかみ合いの喧嘩に発展しそうなところで、令子が口を挟む。
「ほら、そこまでで止めときなさい。──だいたいシロ、遊びに来た訳じゃないんだからね」
「う〜。解っているでござるが……」
 物欲しそうに指をくわえて、上目遣いで見つめる。
 後ろで、「ガキね」とタマモが見ている。流石に、今咎められたばかり、口にはしないが。
「先生、遊びたいでござるよ」
「俺に言っても……それよりも、小竜姫様、直ぐに水着に着替えましょう。そうしましょう。何なら、お手伝いを……」
 今までの、荷物に押しつぶされそうで息も絶え絶えだったのは何処の世界の話か。横島が素早い動きで小竜姫の服を脱がせようとする。
 剛腕一閃。
「あんた、本当に仏罰食らうわよ」
 加害者令子が、地面に潰れた横島に冷たい言葉を投げ下ろす。
 そこへ。
「美神さん、お待ちしていました」
 息せき切って、施設の方から男が一人やってくる。白髪のオールバック。眼鏡に、鼻の下には髭。見た顔だ。デジャブーランドの総支配人もしている人物で、令子とは、ボガードの一件や、マジカルミステリーツアーなどでの繋がりがある。
「いや、除霊を引き受けて下さって、本当に助かりました」
「支配人さんの頼みですから」
 おほほと笑う。本当は、一度断っていたりするくせに、それをまるで伺わせない。
「他のGSにも依頼したのですが、これが話にもならなくて……」
 その辺りは、令子も承知していた。
「それでは、直ぐに現場に案内します」
 総支配人は、かなり焦っていた。もうすぐオープンを迎える。その前に、何としても問題を解決しなければならない。
「その前に、契約の確認を」
「約束通り──円、きっちり払います。だから早く」
「ありがとうございます」
 令子は、満面の笑顔で頷く。
「美神さん、敵は何なんですか?」
 荷物を担いだ横島が問う。殴られたダメージは、拭ったように消え去っている。相変わらずの人間離れした回復力である。
「群霊よ」
 令子は横島の問いに答える。
「ほら、いつか、オキヌちゃんが襲われた」
「あれっすか?」
 横島が嫌な顔をする。その時、死にかけたのだから、当然。──しかし、横島は死にかけなかった事件の方が珍しいような気もするが。
「──でも、何で一度依頼を断ったんですか? 群霊だったら、私が」
 オキヌが首を傾げて問う。
 群霊とは、そこいらの低級霊が寄り集まって、集団で行動しているモノ。数が集えば力も強くなるし、元々、寄り集まった存在だけに、一撃で退治するというのは難しい。通常は、一つ一つの低級霊をばらして除霊していく必要があり、非常に手間がかかる。
 しかし、美神除霊事務所には、オキヌがいる。オキヌの能力は死霊使い、ネクロマンサーである。アイテム、ネクロマンサーの笛を使えば、纏めて除霊出来るから、群体と言えども問題ではないはずだ。
 また、報酬にしても、相手はデジャブーランド。ケチるわけがないから、最低でも相場並、もしくはより以上の金額が保証されるはずだ。この辺りにも問題はない。
 なのに、何故、仕事の依頼を一度は断っているのか?
 危険だから。
 そんな可能性はない。
 危険を楽しむという性癖はないが、危険と金銭を天秤にかければ、金銭を取るのが令子である。少々のリスクを恐れて、儲け話をふいにするようなことは、考えられない。
「……まさか、報酬をつり上げようと、様子見をしていたんじゃ?」
「おほほほほ」
 美神は、横島の発言を誤魔化すように笑う。その足下には、マッハの早さで踏みつぶされた横島。どうやら、図星らしい。
 何しろ、ネクロマンサーがいればこそ纏めての除霊が出来るが、そうでなければやたらと退治の難しい群霊である。そして、ネクロマンサーは世界でも4人しか登録されていない。他のGSに除霊される危険もなく、結局、美神の所に泣きついてくるのは明白。そして、その頃には、除霊の報酬もつり上がっているだろうと言う計算だ。
「……そのうち、誰からも相手にされなくなりますよ」
 いつの間にか足の下から脱出した横島の発言。
 そちらを見もせずに殴りつけ、令子は誤魔化すように笑っている。
 周囲の視線が、確実に冷たくなっていた。特に、支配人からのそれは、当たり前だが、急激に温度が下がっている。
「いくらオキヌちゃんの能力があっても、群霊退治はきついのよ。今回引き受けたのは、小竜姫様が手伝ってくれることになったからで……」
「はいはい」
 横島は投げやりに応じた。
「何でも良いから、早いところ片づけましょうよ」
「何よ。そのやる気のない態度は」
「別に、俺の時給は、美神さんの貰う報酬が増えても、上がる訳じゃないですから」
 時給300円。そこいらの相場とはまるで違う。例えば、小笠原エミの部下──アシスタントの年収は2000万円。おまけに望めば住居まで用意してくれる。こちらが高すぎる訳ではなく、真っ当なのだ。
「あったり前でしょ。使ってやっているだけでも感謝しなさい」
 堂々と、悪びれずに令子が告げる。
「……まあ、良いですけど」
 と、頷いてしまうあたり、横島もどこかおかしいとしか思えない。
 それは兎も角、一行はその群霊の出没現場──屋内プールへと移動した。
 何しろ、デジャブーシーの売りの一つである。そこいらのプールなど比べモノにならないほどに、非常に豪華。客を楽しませるのに、金を惜しんではいけないのである。
 しかし、そこを見ても、シロは「すぐ泳ぎたいでござる〜」等と言ったりはしなかった。
「凄い……」
 オキヌが呟いたように、そこは、悪霊どもの巣だった。
 中央付近に、一際大きな霊──これが群霊だろう。どころか、その周囲を飛び回る多くの悪霊。
「けけけけけけ」
「ひしゃく〜、ひしゃく〜」
 と、好き勝手なことを口にしながら、悪霊は縦横に飛び回っている。そして、そのうち、中央の群霊に引き込まれるようにして融合し──更に群霊は巨大化し、より強力になっていく。
「何でまた、こんなに……」
 新築の施設である。なにやら曰くがあるわけではない。また、建築以前には、地鎮祭などをして、地を清めてもいるだろう。なのに、この状況。
 首を傾げ、オキヌが呟く。
「最近の、デザイン優先の弊害ね」
 令子はざっと、周囲を見回して呟く。
 昔の建築物は、風水やら家相やらを考えて建てられている。しかし、最近の建物は、先にデザインが来る。洒落たデザイン。しかし、その代わりに霊的な防御力が劣る。──どころか、下手なデザイン優先で建てられた建築物は、積極的に霊を呼び込むような場所となったりする。
「ほら、ここ──」
 と、令子は屋内プールの看取り図を示し、言った。
「この部分が、霊を呼び込むような形になっている。そして、プールの中央が、妙に霊的安定度が高いから、呼び込まれた霊がここに集中して、結果、混じり合って群霊になってしまう」
 と、示すが、横島、オキヌとも、首を捻っている。横島はいつものこと。決定的に、専門的な知識が欠けている。オキヌは、六道女学院で学んでいるから、横島よりはましだが、まだまだ勉強中の身である。
 令子はため息を零し、これ以上の説明は無駄だと諦める。
「──で、どうするんですか?」
 横島が、尋ねてくる。尋ねてはいるが、どうするか、それは既に推測が付いているに違いない。
「小竜姫様、お願いします」
 ほらやっぱり。
 と、令子の言葉を聞いた横島が諦めたように頷く。
「私ですか?」
 小竜姫が、驚いたように尋ねる。
「そうよ。ちゃっちゃとやってしまって。──その間に、私は霊の入り口を塞ぐから」
「はあ」
 乗り気でない小竜姫。本気で自分を使い倒すつもりだったのかと、恐れ戦いているふうにも見える。
「迷える霊を導くのは、神様の仕事でしょ。それに、これが修行よ!」
 堂々と、全く悪びれることなく、令子は言った。
「修行ですか?」
「そう、修行よ」
 令子は、しっかりと頷く。
「最初に言ったでしょ、私の修行は厳しいって」
「……はあ」
 どこか諦観したように、小竜姫は頷いた。


「いや〜、ぼろもうけね〜」
 と、事務所の自分の席に座り、お金を数えて上機嫌の令子。
 あの後、令子はもの凄い勢いで仕事をこなしていった。こなしまくった。今日一日で、一月分くらいの稼ぎを出したのではないか。それほどのこなしぶりだ。
 しかも、経費は殆どゼロ。
 通常、除霊にはお札やらを使用する。そして、このお札のコストが馬鹿にならない。中には、5円で買えるようなお札もあるが、やはり、威力は値段に比例する。使い減りをしない神通棍や、横島やオキヌ、シロ、タマモを使うにしても、矢張り、アイテム抜きは厳しい。横島の文殊はオールマイティで非常に便利だが、代わりに、生成に非常な時間がかかる。いざというとき、あるいは大仕事のために、幾つかのストックを準備しておきたい。それを考えると、常に使えるわけではないのだ。
 しかし今回は、使い減りのしない、しかも、非常に強力な助っ人がいたため、お札の使用頻度も非常に低くすることが出来た。
 つまり、稼ぎが非常に大きい。
 令子はうはうはである。
「……」
 そして、その使い減りのしない、非常に強力な助っ人、小竜姫は、力無く、事務所のソファーに伸びている。
 いくら強力な龍神とは言え、その力は無尽蔵ではない。人よりは高いレベルに存在するとは言え、力を使い続ければ疲れるし、消耗もするのである。逆の視点で見れば、小竜姫が疲れ果てるほどにこき使ったという事でもある。
「大丈夫ですか? 小竜姫様?」
「……なんとか」
 心配して声をかけるオキヌに、疲れまくった声で応じる小竜姫である。
「さ〜て、次の仕事は──」
 令子に、人並みの気遣いを要求するのは、無駄かも知れない。一通りお金を数え終わると、早速、携帯を取り出したりなんかする。
 びくっと、目に見えて小竜姫の顔色が変わる。
 もう駄目です、へとへとです。
 と、目で訴えるが、令子は気が付かない。あるいは、気が付かない振りをした。
「……鬼や」
 ぼそりと、横島が呟く。
 非常に小さな声。しかし、自分の悪口には空恐ろしいほどの地獄耳の令子である。しっかり聞きとがめ、手にしていた携帯を横島に投げつける。
 見事に命中して沈没する横島。
「ああ〜、横島さん」
 慌て、横島を助け起こすオキヌ。
 そちら日らと視線をやり、令子は、取り繕うように言った。
「何よ、別に私は、お金儲けのために小竜姫様を使い倒しているわけじゃないのよ。これも、全ては修行の一環なのよ。凝り固まった小竜姫様の戦い方をほぐすために、あえて心を鬼にして──」
 と、なにやらもっともらしいことを口にする。
 が、誰も感銘を受けたりしなかった。
「はいはい」
 と、例の如く復活した横島が、諦観したようにいい加減に応じる。
「美神さん、いつか、仏罰当たりますよ」
 と、神道の巫女のくせに、仏教徒のようなことを口にして咎めるオキヌ。
「いくら何でも非道いと思うでござるよ」
 師匠である横島に携帯をぶつけたことか、それとも小竜姫の扱いについてであるかは判別できないが、シロもしっかり咎める視線だ。
 タマモは、無言。しかし、令子を反面教師にして、もう少しましな権力金力とのつきあい方をするようにしようと、決意しているようにも見えた。
 小竜姫も無言で、しかし力尽きたように、ソファーに平たくなった。
「な、なによ、なによ。みんなして、私を極悪な守銭奴みたいな目で見てさ」
 流石に、全員に否定的な態度をとられ、令子はいじけたように──そして、まるっきり自覚のないことを口にする。
 それでも皆の視線が変わらない事に気が付くと、令子は不機嫌に叫んだ。
「いいわよ。それじゃあ、小竜姫様には、とっておきの戦い方って奴を教えて上げるわよ!」


 場面移って妙神山。
 その修練場に、小竜姫と、更に向かい合って立つ大猿──斉天大聖の姿があった。
「それでは、修行の成果、確かめさせて貰おうか」
「……えっと、あの、また、今度にしませんか?」
 しかし、小竜姫の方は、全然やる気がなかった。腰が引けた、へっぽこな恰好である。
「何言ってんのよ! 私が授けた必殺技を使えば、大丈夫よ!」
 その背後から、無責任な声援が飛ぶ。令子である。
 わざわざ、令子らは妙神山まで、応援に来ている。やる気満々、応援にも力が入っているのは令子一人で、他の者達は、気の毒そうに小竜姫を見つめている。
 その視線が、小竜姫をますます凹ませる。矢張り、他から見ても、自分の状況は不幸らしい。それが確認できてしまい、更に気が滅入る。
「ほう、必殺技、とな?」
「いえ、そんな大したものじゃなくて……」
「ぐちゃぐちゃ言ってないで、先手必勝よ!」
 令子の声援に、小竜姫は泣き出しそうな表情になる。
「……私に汚れ役になれって言うんですか?」
「だから、小竜姫様の戦い方が、馬鹿正直すぎるのを改めるために、私の元で修行したんでしょ? 汚れも何もないわよ」
「しかし──」
 と、反論しようとする小竜姫。
 しかし、それに先んじて、斉天大聖が頷いた。
「確かに、その通りだ。お前の戦い方は、馬鹿正直で分かり易い。もう少し、駆け引きを身につければ、もう一段強くなれるはずだ」
「いえ、しかしですね」
「問答無用。──さあ、来い!」
 言って、斉天大聖は身構える。言葉通り、問答無用のようだ。
「さあ、小竜姫様、修行の成果を見せるのよ!」
 けしかける令子。
 小竜姫は、ぎゅっと目を閉じ、それから開く。覚悟を決めた悲壮な表情で、斉天大聖に向かった。
「行きます!」
「良し、来い!」
「では──」
 小竜姫は、何かを諦めた表情で、斉天大聖を攻撃した。
「必殺、目潰し──やあ!」
 叫ぶと同時に、左手に握ったモノを、斉天大聖の顔に投げつける。
 それは、目潰し用の砂だった。
「……」
「……」
 斉天大聖は無言。その顔から、パラパラと投げつけられた砂が落ちる。確かに砂は顔にかかったが、全く目つぶしになっていなかった。
 対する小竜姫も無言。砂を投げつけた恰好で、時間が止まったみたいにして動きを止めている。
 非常に嫌な沈黙が、両者の間にわだかまっていた。
「……駄目ね。わざわざ叫んで何をするか教えてしまう辺り、全然、駄目駄目ね」
「……って言うか、それ以前の問題のような気もするんですが」
 横島が、ぼそりと呟く。
「……成る程」
 重々しく、斉天大聖が呟いた。どこか、噴火直前の火山の鳴動にも似た、不穏当な響きがあった。
「あ、あの、私はこんな事をしたくなかったんですけど、美神さんが──」
 わたわたと言い訳を始める小竜姫。
「問答無用、修行の成果、見せて貰うぞ!」
「って、今のが修行の成果なんですけど──ああ、何で本気になるんですか?」
 悲鳴を上げる小竜姫の前で、斉天大聖は、大猿の本性を現していた。身の丈が大きくなり、普段着込んでいる中国人民服が消え失せる。更には、手には如意棒。この上なく、完璧にやる気満々だった。
「ああ、待ってください、お師匠様!」
 小竜姫は悲鳴を上げる。
 が、斉天大聖は、待たなかった。


「……うう、私まで汚れ役」
 ずたぼろになって、修練場に転がる小竜姫。
「もう少し、きちんと修行しろ!」
 斉天大聖は、肩を怒らせて退場していく。
「やっぱり、小竜姫様は、美神さんみたいなこすい戦い方に向いていませんよ。正直なのが一番じゃないんですか?」
 小竜姫の横に近づいた横島が、気の毒にと、声をかける。
「……私も、そう思います」
 小竜姫は呟き、意識を手放した。

 真っ直ぐで行こう。
 こんなタイトルの少女漫画があったように思う。
 確か、友達の本棚で見かけたような。
 読んでいないので、内容は知りません。

 何というか、何を書きたかったのか途中で解らなくなってしまいました。
 デジャブーシーのシロタマモのあず漫画のやりとりで、満足してしまったような。
 駄目駄目ですか?
 駄目駄目です。

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