マリア博士の科学的愛情

「タイムマシン」


(このお話の前に、拙作、アリオス・テオマンの逃亡者、第8話「パブリックエネミーナンバー3」を読まれることをお勧めします。)




 リーザス郊外のチューリップ研究所の別施設。
 宇宙ロケット、チューリップ100号発射場に、ランス、マリスがいた。
 勿論、チューリップ研究所の所長、マリア・カスタードとその助手の香澄も。

「さて──」

 マリアは、僅かにもったいぶった仕草で、ずれてもいないメガネを、右手中指で直す。
 メガネが、怪しく輝いたように見えた。

「チューリップ研究所が開発した、画期的な装置、タイムマシンの初稼働実験にようこそ」

 マリアは、自らの背後を示した。
 そこには、マリアの言うところの、「タイムマシン」が鎮座していた。

「タイムマシン。
 何という、素晴らしい発明なのでしょうか。
 これにより、過去に戻ることが可能となります。
 選択肢を誤ったと感じたら、過去に戻って選び直すという、まるでADVゲームのようなことが、可能となるのです」

「……なんだか、チューリップ100号と大差ないように見えますが」

 陶酔気味のマリアに、マリスが水を差す。

 マリスの言うように、「タイムマシン」は、チューリップ100号と、殆ど違いがないように見えた。
 鉛筆のように細い本体。
 後部には、スラスターが付いている。
 まさしく、宇宙ロケット、そんな感じである。

「全然違いますよ」

 マリアが、断言する。

「ほら、よく見てくださいよ。チューリップ100号には付いていなかった、翼が付いているでしょう」

 確かに、申し訳程度の小さな翼が付いている。
 そのサイズでは、とてもじゃないが、充分な揚力を得ることができるとは思えない。
 そんなサイズである。

「更に、天を目指すチューリップ100号と違い、これは、横向きに配置されているじゃないですか」

 それも確かに。
 地面に対して垂直方向に立てて固定されるチューリップ100号と違い、こちらは、横向き、東の方に向けて、横倒しになっている。
 しかし、その程度しか違いがないといえる。
 どう見ても、チューリップ100号の亜種でしかない。
 これをタイムマシンと言われても、強弁しているようにしか思えない。

「わかりました、詳しい解説をしましょう」

 仕方がない、と言う仕草で、マリアが告げる。

 マリアを見たマリスは、この「解説」が狙いではないか、そんな風に考えた。
 科学者、もしくは技術者と蘊蓄は、切っても切れない関係にある。
 実際、仕草は仕方がない、だが、表情がまともに裏切っている。

「みなさんは、不朽の名作、「8●日間世界一周」を読んだことがありますか?」

「無いぞ」

 即答するランス。
 まあ、至極当然のことだろう。
 読書をするランス。
 似合わないこと、甚だしい。

「まあ、ランスはどうでもいいわ」

「なんだと!」

「はい、ランスはちょっと黙っていて」

「むむむむ、なんか、むかつくな」

 マリアはランスを無視して、マリスに向かう。
 プレゼンテーション、これは、財布の紐を握っている人間に対してするものである。
 世界王、ランス。
 しかし、財政一切を取り仕切っているのは、マリスである。
 その事を知らぬ者はいない。

「さて、この「8●日間世界一周」で証明されているように、東回りで世界を一周すると、一日得をします。
 主人公は、81日間かけて世界一周をしましたが、これが東回りであったために、一日、時間を戻ったことになりました。
 本人の体感日数は81日でしたが、現実には80日で世界一周となり、賭けに勝利しました。
 ──つまり、重要なのは、ここ、東回りで世界一周をすると、一日、つまり24時間、時間を逆行することが可能という点です」

 マリアは、自信たっぷりに言った。

 マリスは、眉をひそめた。
 どこか、非常に間違っているような気がしたのだ。

「しかし、81日に対して80日、これでは、逆行とまで言うのは難しいでしょう。
 ──そこで、このタイムマシンの出番となるのです」

 背後の「タイムマシン」を示す。

「いいですか、一周すると、一日、得をする。
 と言うことは、一日以内の時間で一周することができれば、その分だけ、時間が戻ることになります。
 このタイムマシンは、計算上、6時間で世界を一周できるスペックを持っています。
 つまり、18時間、時間を戻ることが可能と言うこと。
 たったの18時間と馬鹿にしてはいけません。
 良いですか、これは、一周することによって戻すことの可能な時間です。
 更に一周すれば、36時間、もう一週で54時間──どうです? 素晴らしいでしょう」

「なるほど、それを使えば、ホーネットちゃんが処女の内に助けることも可能になるわけだな」

 ランスが、頷く。

 何というか、本当にタイムマシンを使うならば、もう少し有意義な使い方があるだろう、そんな顔のマリス。
 まあ、ホーネットを助けることに意味がない、とまでは言わないが。

「理論上は、可能ですね」

 マリアが、頷く。

 マリスは、未だに、どこか非常に間違っていると感じていた。
 残念なことに、マリスは強いて分類すれば文系の人間である。
 政治、経済などには強すぎるほどに強い──と言うか、彼女以上の人材はどこにも存在しないのだが、科学理論とか言ったものは非常に疎い。
 だから、どこが違うとか、どこがおかしいとか言うつっこみができない。

 助けを求めるように、もう一人の理系人間、香澄の方を見る。
 しかし、残念なことに、香澄はマリアの説明に頷いている。
 チューリップ研究所の所長と副所長。
 良いコンビである。
 マリスの味方はして貰えそうにない。

「ただ、残念なことに、現在のチューリップ研究所の予算では、二号機以降の建造計画がまるで立たない状況です。
 ──と言うわけで、予算のアップを」

「却下」

 即答するマリス。

「うう……」

 実験以外の重要な目的、それが達成されず、マリアは少しだけ落ち込む。
 しかし、本命はあくまで実験である、そう思い直して素早く立ち直る。

「それでは、実際に試してみましょう」

「本当に、成功するのですか?」

 マリスの疑惑に、マリアはにやりと笑った。
 右手の中指で、メガネの位置をくいっと直し、告げる。

「お任せください。その為の、チューリップ研究所です」

 そして、マリアは「タイムマシン」に乗り込む。

「本当に、時間を戻ることができるのですか?」

 それでも信用できないマリスは、香澄に尋ねてみた。

「はい、これは、他にも「スー●ーマン」でも証明された技術です。
 彼は、同様の方法でもって時をさかのぼり、ピンチのヒロインを助けています」

「……そうですか」

 未だ、納得できないマリスである。

「それでは、実験を開始します。
 パイロット、こちら、ミッションディレクターの香澄、感度はどうですか?」

『オーケイ、こちら、パイロット、マリア。
 感度良好、各システム異常なし』

「カウントダウン、Tマイナス200よりスタート」

『了解』

「酸素逃がし弁封鎖。アンビリカルブリッジ、離脱します」

『酸素逃がし弁封鎖確認──』

 なんと説明されようとも、これはチューリップ100号を寝かせただけのものに過ぎない。
 それを証明するかのように、発射までの手順はまるで同じだった。

 手順は、同じ──

 手順は同じ……

 そこで、マリスははっと思い当たる。
 手順が同じならば──結果は?

 リーザスの空を彩るロケット花火。
 それが、チューリップ100号の評価である。
 つまり。

「発射!」

 しかし、一足遅く、タイムマシンのブースターに火が入る。
 轟音と閃光を放って、離床するタイムマシン。

 そして──

「三番ブースターに燃焼異常発生。
 二番ブースター失火しました」

 真っ直ぐに東の空へ向けて進んでいたタイムマシンが、目に見えてバランスを崩す。
 非常に、見慣れた光景が繰り広げられた。

 これは、既視感とも言えないだろう。
 全く、おなじみの展開だ。
 錐もみ、進路を強引に変えられ、タイムマシンは、爆発した。



 その日の内に、マリス・アマリリスの名で、タイムマシンの開発凍結命令が下された。

終わり


後書き、もしくは言い訳

似非科学は大好きです。
あえて、SFではなく、似非科学。
胡散臭さ一杯の似非科学。
このお話で、少しでも胡散臭さを感じていただければ、幸いです。
ただ、take4は厳密には理系の人間ではないため、間違い勘違い思い違いが色々あると思われます。
ぬるい目で見守ってください。
 
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