その一「三匹の子豚」


 昔、昔、あるところに、三匹の子豚の姉妹が住んでいました。
 姉妹の父親は、裕福で、何不自由なく暮らしていました。
 しかし、姉妹がお年頃になった頃、バブルは崩壊して、父親はリストラの憂き目にあってしまいました。
 裕福な生活から、貧困真っ逆様です。
 困り果て、少しでも口減らしをしようとした父親は、姉妹にこう言いました。

「お前達は、もう一人前の大人だ。これからは、自分の力で生きて行きなさい」

 要するに、出ていけ、と言う訳です。
 姉妹は、途方に暮れました。
 しかし、父親の決意は堅く、姉妹が何を言っても、耳を貸そうとしません。
 話し合いは平行線をたどり、遂に、姉妹は諦めて、長年暮らした家から出ていくことになりました。

 
 姉妹の、末っ子、三女の名前は、アールコートと言いました。
 気弱でラブリーな女の子です。
 アールコートは、まずは、家を建てることにしました。
 渡る世間は鬼ばかり。
 世間の荒波に揉まれる前に、堅固な家を建て、本拠地を築く。
 それが、アールコートの方針でした。

「くすん……まずは、しっかりとした家を……何があっても安全なおうちを造らなくちゃ」

 元々、石橋を叩いて、叩いて、叩いて、叩いて、更に叩いて結局渡らないような性格のアールコートです。
 不慮の事態に備えて、かなりの金額を貯金していました。
 今となっては幸いです。
 そのお金を使って、アールコートは家を建てました。
 難攻不落。
 コンセプトはこれです。
 その為、壁面は怪しい空色の髪の毛に眼鏡の科学者から購入した、NATO軍で採用されている、爆発に非常に強い複合金属――チョバムプレートで、更に窓ガラスもワイヤー入りの強化ガラスを選びました。
 更に、家の周囲には鉄条網を張り巡らし、その外周には武田騎馬軍団もいちころな馬防柵も建設しました。
 各種、警報装置も設置しました。
 感圧式、赤外線式――エトセトラ、エトセトラ。
 もう、殆ど変質狂とまで思えるほどの、完璧なおうちの出来上がりです。

「くすん……まだ、ちょっと不安だけど……」

 それでも、アールコートは不安でした。
 しかし、お金は有限で、これ以上の使用は、生活も苦しくなってしまいます。
 泣く泣く満足することにしたアールコートは、その家で暮らすことにしました。



 はてさて、アールコートがおうちを建てて、一安心して眠りについた頃、狼がやってきました。
 狼は、収まりの悪い髪の毛に、鳶色の瞳。
 そして、何より意地悪そうに歪められた口元が特徴的でした。

「がはははははははは。美人三姉妹が暮らしているというのは、この辺りか?」

 狼は腰に手を当てて胸を張る、いわゆる力道山のポーズで高笑いをして、周囲を見回しました。
 のどかな田園風景。
 その中に、見事に浮きまくっている鉄灰色の要塞。
 おどろおどろしいまでのミスマッチです。
 とにかくアールコートの家は、目立ちまくりです。

「あれが、そうか。待ってろよ、子豚ちゃん。がはははははははは」

 普通のセールスマンならば、チャイムを押すのを躊躇うでしょう。
 アールコートの家は、そう言うおうちです。
 でも、この狼は違います。
 狼にとって、家などはどうでも良いのです。
 そこに美人がいるとなれば、たとえ火の中水の中。
 どれほどの艱難辛苦が待ち受けていようとも、目的達成のための努力を厭わない。
 それが、この狼です。

 狼は躊躇いもなく、そのおうちの前にやってきました。

「がははははははははは。いきなり、ランスアターック!」

 狼、いきなりの攻撃です。
 ノックとか、チャイムとか、最初から考えていません。
 無理矢理押し入って、いひひひ。
 そんなことを考えている様子です。

 しかし、チョバムプレートは、そんな狼の必殺技を、完全に防ぎきりました。
 耐爆、耐圧構造のおうちは、伊達ではなかったのです。

「むっか〜! 生意気な」

 狼は、いきり立ちます。
 腹いせに、壁をけっ飛ばしました。
 そんなことをすれば、当然、足が痛くなります。
 片足でジャンプをするというまぬけを晒した後、狼は玄関のチャイムを鳴らしました。
 最初に、これをするべきです。
 とにかく、狼はチャイムを鳴らします。
 本来、ぴんぽ〜んと鳴るはずのチャイムが、ピポピポピポピポピポ〜ンと聞こえるほどの性急さです。

「……くすん。……怖い」

 おうちの中では、アールコートが頭に大きなクッションを被って震えていました。

「ここを開けろ〜! 開けないと、非道いぞ〜!」

 狼ががなり立てます。

「今開けるならば、非道いことはしないでおいてやるぞ!」

 そんなことを信じる人間は――子豚はいません。

 しかし、アールコートはものすごく気弱でした。

「……くすん。……本当に?」

 これまでのピンポン攻撃だけで、既に充分以上、消耗してしまったのです。
 ですから、アールコートは、狼の、本来全く信用できない言葉に、縋り付いてしまいました。

「おう!」

「……くすん。……非道い事しない?」

「おう!」

 そして、扉を開いてしまったのです。

「がはははははははははは」

「きゃあ」

 狼は、勿論約束なんて守りません。
 無理矢理、アールコートのおうちに押し入ってできました。
 ついでに、アールコートの体の中にも、押し入ってしまいました。

 哀れ、三女のアールコートは、狼に食べられてしまいました。



 次女の名前はラファリアと言いました。
 草色でぽわぽわした髪の毛の女の子です。
 ちょっと、意地悪な感じが魅力です。

「ふん。アールコートは無様ね。所詮、私に敵わないわ」

 ちょっと、ラファリアはアールコートに隔意を持っていました。
 何かと自分よりも人気があって、何かと自分の一歩先を行くアールコートに、ライバル意識を持っていたのです。
 そして、努力をしても、その差が埋まるどころか、更に開くとあっては、恨もうとも言うものです。
 逆恨みとも言いますが。

「とにかく、折角、頑丈な家を建てたのに、自分で扉を開いて、どうするつもりよ」

 さんざんけなしたラファリアは、自分の家を見上げました。

 ラファリアのおうちは、木のおうちです。
 特殊装甲は一切使っていない、ただの、木のおうちです。

 しかし、彼女は自信たっぷりでした。

「ハードウェアに頼るのは、無能の証拠よ。何しろ、難攻不落と称された城塞ですら、落ちなかったものは存在しない。ジェリコの壁しかり、アルカトラズ要塞しかり」

 ぐっと、拳を握りしめます。
 浪費癖があるため、アールコートほどの貯金がなかったためではない。
 自分にそう言い聞かせて家を見つめます。

「本当に頭のいい人間――子豚は、ソフトウェアの部分に気を使うものよ! そう、即ち、人間――狼心理に基づいて、防御方法を考えるのよ!」

 確かに、アールコートは鉄壁の防御を誇るおうちを建てながら、心理戦に負けたのですから、この考えは間違いではないかも知れません。
 そして、ラファリアには、一つの策がありました。
 それは――

「空城の計」

 です。

 古くは三国志で孔明が使ったとされる、作戦です。
 防衛部隊の殆どいないお城での防衛を余儀なくされたときに、普通ならば堅く閉ざすはずの城門を全て開け放ち、敵を迎えた、という作戦です。
 敵は、開け放たれた城門に不審を感じ、躊躇しました。
 何か、罠があるのではないかと勘ぐったのです。
 結果、敵はありもしない罠に怯え、撤退してしまいました。
 そう言う故事。

 それに、ラファリアは倣ったのです。

「がはははははははははは」

 遠くから、狼の笑い声が聞こえてきました。

 それを耳にしたラファリアは、慌てて全ての扉、窓を開け放ちました。
 そして、自身はこっそりと隠れました。
 空城の計作戦、開始です。

 このまま行けば、開け放たれた扉を不審に思った狼は、罠の存在を勘ぐって勝手に撤退するはず。

 ラファリアはそう考え、ほくそ笑みました。
 自分は、やっぱりアールコートよりも頭がいい。
 そう思うことは、彼女にとってこの上ない喜びでした。

 ――が。

 ご存じの通り、この狼は、そんな風に頭を使うタイプの狼ではありません。

 ラファリアの計略は、ある程度、考えすぎるタイプの頭のいい相手には通用するかも知れませんが、猪突馬鹿にはまるで役に立たないのです。
 却って、「開いててラッキー」とか思われてしまうのがオチなのです。

「うむ、グッドだ」

 案の定、この狼はそう呟くと、ラファリアのおうちに入ってきました。
 そして、自分の計略が敗れたことに慌てるラファリアの中にも、入ってしまいました。

 哀れ、次女のラファリアも、狼に食べられてしまいました。



 三女に引き続き、次女も食べてしまった狼は、更に長女のおうちを目指しました。
 上手いこと二人を食べてしまって、最早絶好調です。
 誰も、この狼を止めることは出来ない。
 そう思われました。

 長女のおうちは、藁のおうちでした。
 防御力皆無です。

「がははははははははははははは」

 これは、押し入るのも簡単と、狼は高笑いを上げます。
 そして、いきなりダッシュでそのおうちに飛び込みました。

「お、来たな」

 その家の主、長女のミリは、その狼を見て、にやりと笑いました。



 ……哀れ、狼は、長女のミリに食べられてしまいました。


 めでたし、めでたし。



今回の教訓
「美味しい話には、オチがある!」




後書き、と言うか言い訳

 こうした、何も考えていない話は、非常に書くのが楽です。
 何も考えていないので、こんなもんです。
 ぬるい目で見ていただけると、幸いです


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