4,見当かなみの欺瞞


 誰が悪いのか?


 暗闇の中、自身の膝を抱えた格好で、かなみは自問した。
 勿論、悪い人間はランスだ。


 ランスが悪い。
 ランスが、全ての原因だ。
 ランスが逐電。
 それが、根本原因。
 一片の疑いもなく。
 欠片の間違いもなく。
 悪いのは、ランスだ。

 そうよ、何と言っても、ランスが悪い。

 ランスがリーザスにいれば、戦争なんて、起こらなかったんだから。
 ランスがいないから、リーザス同士で戦うなんて、馬鹿なモノが起こったんだもん。

 それに、ランスがいなくなったせいで、他にも──


 かなみは、思う。


 ランスがいなくなったせいで、アールコートちゃんはずーっと落ち込んでいる。
 あの子、ランスの何処が良いのか──
 私には全然!
 欠片も!
 完膚無きまでに!
 理解できないけど、間違いなく、ランスに惚れているし。
 ランスがいるから、頑張ろう、そう言う具合に、アールコートちゃんはこれまでやってきた。
 元々、アールコートちゃんは、戦争向きの性格をしていない。
 ランスの為に、ランスの為だけに、頑張ってきた。
 そのランスがいなくなった。
 しかも、自分を置いて。
 それが、アールコートちゃんには、大きなショックだった。
 可哀想なくらいに落ち込んで、今も、立ち直れないでいる。
 そう、全てはランスが悪いんだ。

 アールコートちゃんだけじゃない。
 バレス将軍だって、そうだ。
 バレス将軍、ハウレーンさんが失踪してしまった上に、今度は敬愛していた──
 これも、とても考えがたい、だって、ランスなんだよ?
 でも、確かにバレス将軍が敬愛していた、主君であるランスの失踪。
 もう、見事なくらいに老け込んじゃって。
 なんだか、バレス将軍、小さくなってしまったような気がする。
 これも、みんなランスが悪い。

 全て、ランスのせい。
 マリス様も、あの日以来、お酒ばかり飲んでいる。
 あの、怜悧なマリス様が。
 ただ、日がな一日、お酒を飲み続けて。
 他には、何もしない。
 一日中、部屋に閉じこもって。
 虚ろな視線を宙にさまよわせて。
 私の知っているマリス様は、あの日に死んでしまった。
 そう思えてしまうくらいの、変わり様だ。
 あれもこれも、みんなランスのせいだ。

 戦争のほうも、こちらのリーザス軍は負け越している。
 これも、ランスが悪い。
 そりゃあ、ランスがいたからって、勝てたとも思えないけど。
 だって、ランスだもん。
 たいして、能力があるわけじゃないし。
 自分で戦う分には、確かに強いことは認めるけど。
 部下を率いる、なんて戦争で、ランスの能力なんて、大したものじゃない。
 ランスに出来るのは、突撃と撤退。
 エクス将軍のように細かな作戦なんて、立てる訳じゃないし。
 まあ、逃げ足の早さは認めても良いけど。
 はっきり言って、指揮官のランスは、大したものじゃない。
 でも、突き詰めれば、この戦争は、ランスがいないせいで起きた訳だし。
 ほら、やっぱりランスが悪い。

 メナドも、ランスがいなくなって、調子が狂っている。
 表には出さないよ。
 メナドは、明るく振る舞っている。
 でも、私はメナドとつき合いが長いからわかるんだ。
 メナドは、間違いなく、無理をしているよ。
 本当は、落ち込みたいのに、そうでないふりをしている。
 無理して、明るく振る舞って、少しでも周囲を盛り上げようとしている。
 ランスがいなくなって、何とも沈滞している雰囲気を吹き飛ばそうと、明るくしている。
 無理矢理に。
 自分のことは、後回しにして。
 絶対に、無理をしている。
 痛々しいくらいだ。
 これも、みんなランスのせい。

 他の人たちもそうだ。
 リック将軍も、レイラさんも。
 エクス将軍も。
 五十六さんも。
 あれもこれも、全部ひっくるめて、悪いのはランスだ。
 もう、断言しちゃう。
 諸悪の根元。
 それは、ランスだ。

 そう、ランス。
 ランスが悪い。
 誰が何と言おうとも、悪いのはランスなんだ。
 みんなが落ち込んでいるのも。
 リーザス軍が負け続きなのも。
 郵便ポストが赤いのも。
 全部、ひっくるめて、ランスが悪い。

 そう、ランスが……


 かなみは、抱えた膝に、顔を埋めた。
 その体が、細かく震え始める。


 嘘だ。
 私は、嘘をついている。
 本当に悪いのは、ランスなんかじゃない。

 本当に悪いのは、私。
 私のせいなんだ。

 私が、リア様の暗殺を防げなかったせい。
 そのせいで、今、こんな状況になってしまった。
 私さえしっかりしていれば、こんな事にはならなかったんだ。

 わたしの、せい、なんだ……

 あの時。
 ほんの一瞬で良いから早く。
 リア様と、あの侍女の間に体を割り込ませることが出来ていたならば。
 ううん。
 それ以前に、あの侍女の、挙動不審さを、一時でも早く気が付くことが出来ていたならば。
 リア様を殺されてから、あの侍女の言動がおかしくなっていたなんて気が付くなんて。
 忍者──
 ううん。
 リア様の影の護衛、失格だ。


 リーザス統一戦争で、それなりに手柄も立てて。
 忍者としては一流。
 なんて評価を貰って。
 私は、知らない間に調子づいていたんだ。
 それほど、大した能力なんて持っていないのに、いい気になって。
 その、奢りの代償が……


 かなみは、我慢しきれずに、嗚咽を漏らし始めた。


 ランス。
 ランスの馬鹿。
 馬鹿ランス。

 ねえ、ランス。
 今、一体何処にいるのよ。
 何処で、何をしているのよ。
 こちらは、大変なことになっているんだよ。

 お願いだから、帰ってきてよ。
 少しくらいなら、意地悪されても我慢するから。
 だから、戻ってきてよ。

 それで、いつもの調子で、がははは〜って馬鹿笑いして。
 何とかしてよ。
 お願いだから。
 ランス。

 ランス!


 暗闇で膝をかかえるかなみの慟哭に、答える者はいない……

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