夢幻のリヴァイアス
「パーティだと?」
訊き返してくるエアーズ・ブルーに相葉昂冶が答える。
「ああ、みんなずっと抑圧されてたから。ブリッジ側に抱いている不信感をぬぐうチャンスかと。どうかな?」
「勝手にしろ」
こうして、パーティーの開催が決定された。
仲間に声をかけて、パーティーの準備を精力的に行う昴冶。
そして、パーティーが始まる。
「なんだ。これは?」
パーティー会場に続く通路。そこをたまたま通りかかった相葉祐希は呆れた声で呟く。
パーティーが始まるまで、まだ充分以上の時間があるはずだ。それなのに、通路には溢れかえらんばかりの人数が行列している。行列最先端付近の人間は、徹夜でもして並んでいるのか、テントや寝袋も見える。異様に殺気立った雰囲気もある。おまけに、変に酸っぱい臭いまでする。
「あれ、祐希」
声をかけられてそちらを見ると、カレン・ルシオラがにこやかな表情で手を振っている。
「祐希も参加する――」
「くだらねえ」
「わけないか」
カレンが苦笑する。
一瞬、祐希の発言に殺気立った視線を向けた行列の者達だが、一睨みされると黙る。
「クズ野郎が」
「ほらほら、喧嘩を売らない」
実際にひとつ年上だが、お姉さんぶったカレンの口調に、祐希の口元が不機嫌に歪む。普通の人間――例えば昴冶などがこの表情を見たら、思わず防御行動を取ろうとする表情だが、カレンはこなれた表情で平然と見ている。やんちゃな弟を見守る姉のような余裕のある態度だ。
「祐希も一緒に並ぼう。ほら、ここに入ればいいから」
「なんで俺が」
文句を言いながらも、祐希はカレンに腕を引かれ、列に入ってしまう。
横入りに顔を顰めたり声を出して不満を表そうとした者も、祐希の一睨みで黙らされる。
「大体、何でこんなに並んでいるんだ?」
こいつら、正気か。そんなニュアンスをたっぷり滲ませた口調で祐希が尋ねる。
「馬鹿ね。お気に入りのサークルの本をゲットするために決まっているでしょ。人気のあるところなんて、一瞬で完売よ」
「サークル? 本?」
要領を得ない表情で祐希が聞き返す。
「パーティーじゃないのか?」
「パ−ティーよ。パーティー」
何処か浮かれた表情のカレン。
何が楽しいのかわからない祐希は、不機嫌な表情のままだ。
「着ぐるみ連中が増えているような気もするが――あれは何だ。仮装パーティーなのか?」
「祐希……」
カレンが呆れたように首を振る。
「本当に何にも知らないのね。あれは、仮装じゃなくて、コスプレって言うの」
「コスプレ?」
まだ、疑問が解決しないような表情の祐希。
しかし、カレンは自分の腕時計を見て、表情を引き締める。
「そんな事よりも、もうすぐ時間よ。――さあ、行くわよ。準備は良い?」
「なにがだ?」
祐希が呟いた瞬間、パーティー会場の入り口の扉が開いた。
そして、直後に人の流れが起きる。前の人間を突き飛ばすような勢いで、入り口に殺到する人の波。祐希の横にいたカレンも、殺気だった表情でその流れに乗り、それどころか流れを押しのけるような勢いで、瞬く間に祐希の視界から消え失せる。
「――な?」
心の準備をしていなかった分、反応が遅れた祐希はなす術も無く、流れのままに一気に押し流される。
小突かれ、押しのけられ、潰されそうになりと、もみくちゃにされながら、何とか倒れる事だけは回避しようとする。ここで転んだら、洒落にならない事は、考えるまでもない。足が床についているのか疑問の格好で人の波に運ばれながら、祐希は実行委員長の顔を思い浮かべ、忌々しげに呟いた。
「あの野郎。何を考えてやがる」
パーティー会場の喧騒も知らず、照明の落ちたブリッジで一人作業をしているユイリィ・バハナ。
「参加しないのか?」
不意に声をかけられて、振り向くと、そこにはブルーが立っていた。
「そんな気分じゃないの」
そう答えるユイリィに無言でブルーが近付くと、乱暴に手を伸ばしてユイリィの髪留めを外す。
「は?」
いきなりの行動に戸惑いの声を上げるユイリィ。
無言で見つめるブルー。
しばし、2人は見詰め合う。
「・・・・・・」
先に沈黙に耐え切れなくなったユイリィが口を開いた瞬間、
「これを着て、パーティーに出ろ」
ブルーが言葉をかぶせるように服を投げ渡す。
「私は――」
「命令だ」
再び、反論しようとするユイリィの言葉を封じるブルー。
「強引ね」
呟き、渡された服を見るユイリィ。
次の瞬間に、その頬が引きつる。矢鱈露出度が高い癖に妙に少女趣味なひらひらの付いた、およそ実用的とは思えない服だったのだ。
「なによこれ」
「魔法少女○○ちゃんのコスチュームだ」
ブルーはにこりともしないで言った。
「これ、わたしが選んだの」
ニコニコと満面の笑顔で、和泉こずえが尾瀬イクミに本を押しつける。
「もう、充分に頂いております」
既に両手一杯に本を抱えたイクミは、多少辟易した表情で拒もうとするが、こずえは取り合わない。
「もっと読んでよ。イクミ×こずえのラブラブ本」
「こう言う、不健康で甘いもんばっかり読んでいるから、体脂肪率が――」
こずえがイクミの足を踵で思い切り踏みつけ、踏みにじり、イクミは最後まで口にする事が出来なかった。
ブリッジの艦長席に、足を投げ出して座っているブルー。
その頬にはくっきりと赤い手形がついていたりする。バンダナをアイマスクの代用にして、目元を隠しているが、その目元から一筋、涙が零れ落ちる。どうやら、そうとう痛かったらしい。
その背後から足音が響き、ブルーは振り返る。
「ご免、留守番押しつけちゃって」
紙袋を抱えた昴冶がゆっくりとブルーの脇までやってくる。
「暇潰し、持って来たんだ。俺の幼馴染の作ったやつだから、内容の保障はしないけど」
ブルーは無造作に袋の中から本を取り出す。
「変わってるな、お前」
「そうかな、普通だよ」
昴冶が応じる。
「本当に変わっている」
昴冶はブルーの声の調子が変わったことに、全く気が付かず、気楽な表情をしている。
ブルーはゆっくりと、懐に手を突っ込むと、短針銃を取り出した。
「……全く変わっている」
ブルーはちらと本の表紙に視線を向け、もう一度呟いた。
本の表紙には上半身裸のブルーにしな垂れかかる、矢張り上半身裸の昴冶が描かれていた。
会場の隅っこで、祐希はジュースを飲みつつ、不機嫌な表情で騒ぎを見るとは無しに見つめている。何処か、その格好が全体的によれたように見える。実際、重い疲労感を感じて居た。
何処に行っていたのか、会場入りして以来別行動をしていたカレンが、祐希に本を投げ渡して隣に座る。
「いい本でしょ。私が選んだの」
表紙を眺め、露骨に祐希が顔を顰める。
なにやらラブラブな感じで並ぶ祐希とカレンが表紙だ。
「ね、読んでみてよ」
「そんな気分じゃねぇよ」
にべも無く本を返す祐希。露骨に疲れた表情を浮かべる。
「なんなんだよ。この馬鹿騒ぎは――正気とは思えねぇ」
会場に、胡散臭い視線をめぐらせる。そして、興味が無い事を態度で示すようにカレンに背を向けて横になってしまう。
会場では、賑やかな騒ぎが続いている。
奇妙な――それこそ正気とは思えない格好をしたツヴァイの主席の女が、カメラを手にした連中に囲まれてポーズを取り、開け放しの笑顔を振り撒いている。能無し揃いのツヴァイの中ではまだましな方だと思って居たが、実はそうでは無いらしい。
前合わせの何処か病院服に似た上衣を着た娘――あいつの彼女だ――が、かぶり物をかぶって、宗教臭い踊りを踊っている。周りに居るのは、信者だろうか。なにやら、ヤバげな勢力がこっそり出来ているようだ。
全く、どいつもこいつも狂っている。
「お祭よ。お祭。楽しまなくちゃ」
カレンが気楽に言う。この状況に、全く疑問を感じていない。
ちらとそちらに視線を向ける祐希。カレンの脇に置かれた紙袋が目に止まる。許容量一杯に詰め込んだらしく、袋は膨れ上がり、口からも溢れ出しそうだ。
「あ、あははは〜。これは、わたしの個人的な趣味。祐希が見ても、面白くないよ。きっと」
何も口にした訳でもないのに、敏感に祐希の視線に気が付いたらしい。両手を顔の前でひらひら振って応じるカレン。
その表情に、胡散臭い物を見つけた祐希は、体を起こす。
「見せてみろ」
「駄目だって。これは、男の子の見るものじゃないから――」
慌てるカレンは、ますます祐希に怪しく映る。
「いいから見せろ」
乱暴に引ったくり、袋から無造作につかみ出す。そして数ページを流し見した祐希の表情が引きつっていく。
「あちゃ〜」
もう、どうしようもないと言う表情で、カレンは天を仰ぐ。
「何だ。これは」
「ええと、女性向創作。昴冶×祐希」
「あの野郎。ふざけんな!」
祐希は素早く立ち上がると、会場に向かって駆け込んで行った。
「あ〜あ」
カレンはその背中を見送って、お手上げだと言う表情で嘆息した。
「なんなんだよ。もう」
ぼろぼろになってふらつきながら昴冶が会場に戻ってくる。
「俺が、何したって言うんだよ。何で俺がブルーにどつかれなきゃならないんだよ」
愚痴をもらしながら、会場を見回す。
そして、一番見たくない物を発見してしまった。
祐希が、えらい勢いでこちらに突進してきている。兄である昴冶でなくとも一目でわかる。あの表情は、本気で怒っている。
「何で、俺がお前とラブラブになってんだよ!?」
叫びとほぼ同時に拳が飛んできている。
「勝手にするな!」
「またかよ! なんなんだよ。おまえは!」
「答えろ! 何で俺がお前とラブラブなんだよ!」
「俺がやったんじゃない。勝手にやられたんだ!」
「断れよ!」
「だから、知らないうちに勝手にやられたって言ってるだろ!」
「知るかよ!」
祐希は拳を振り上げた。
「うわ〜」
イクミの拳が唸り、それをまともに受けた男が吹っ飛んでいく。盛大に机を巻き込み、崩れ落ちる。
そちらには構わず、イクミの拳は次の対象を捕らえている。
崩れかかるその男の襟首を捕まえ、持ち上げると壁に押しつける。
「どうして、お前達は傷つける? どうして、お前達はちゃんとしないんだ?」
前後にその男をゆすぶりながら、更に詰問する。
「ただの、創作じゃ無いか」
弱々しく応じる男を、イクミは睨みつける。
「あ〜? ちゃんと答えろ!」
その勢いに押された男が、喉の奥で怯えの声を上げて、身体を縮める。
「もうしないよ」
「だれが信じる! お前達は、すぐに裏切る! どうして、当然のことができないんだ?」
「ひ〜」
「イクミ、私を守って……」
そのイクミの後ろで、髪の毛を下ろしたこずえが呟いている。
「なんなんだよ。俺が何をしたって言うんだよ」
ようやく祐希から開放された昴冶。更にぼろぼろになった身体を引きずりながら、会場をうろつく。
その目が、当然の事ながら、騒ぎを繰り広げているイクミを見つける。その片手には一冊の本が丸めて握り締められている。内容は考えなくとも解かる。恐らく、和泉のいじめられるものだろう。
「いやだな。なんか」
呟きながらも、放っておく事は出来ずに、イクミに近付く。
「イクミ」
肩を怒らせて、すれ違うイクミを呼び止める。更に手を伸ばして肩を捕まえる。
「触るな!」
振り払うイクミ。
放っておいたほうが良いだろう、と言う保身の感情が芽生えるが押し殺し、昴冶は再び声をかける。
「待てよ、イクミ。考えろ。俺達になにができた? 正直、考えても見なかっただろう。何も出来なかったんだ」
「何とかするんだよ!」
イクミが怒鳴りつける。
「お前の正論は痛すぎるんだよ」
拳を握り締めるイクミ。
またかよ。
内心、身を竦める昴冶。
しかし、イクミは自分を押さえると昴冶に背を向ける。
「お前の正論じゃ、逢仙は守れねぇな。死ぬ気で守れ。それができないなら、祐希に預けろ!」
「なんだよ、それ」
「言ったからな!」
そう言い捨てて、イクミが立ち去る。
防御のポーズで身を固めていた昴冶は大きく息を吐き、身体から力を抜く。
「良かった。殴られなかった」
安堵の息を漏らす。しかし、昴冶の判断は早すぎた。
いきなり、リヴィアスが揺れる。
周囲で悲鳴が上がり、それが収まらないうちに放送が入る。
「俺は、操船科第二種、尾瀬イクミ――今、俺はヴァイタル・ガーダーを占拠した。今の揺れは、ヴァイタル・ガーダーがリヴァイアスを押さえて起きた物だ。良いか、今から、リヴィアス内の一切の男性向け創作行為を禁ずる。傷つけるな! ちゃんとしろ! あたりまえの事をしろ!」
「マジかよ」
昴冶は、呆然と呟いた。
茫然自失の数秒。
我に返った昴冶は助けを求めて周囲を見回し――そして発見した。
「ネ、ネーヤ」
まるで無様に溺れているかのようなぎこちない動きで、ネーヤに近付く。
「ネーヤ、助けてくれ。何とかしてくれ。イクミを止めてくれ」
「コージ」
ネーヤの口調のトーンはいつもと変わらないぎこちない物だが、何かぞくりとする物を感じて、昴冶は顔を引きつらせる。立て続けにひどい目にあってきたせいで、危険に対する感覚が鋭くなっているのかもしれない。
実際、ネーヤの表情は、元々硬質な印象のものなのだが、常以上に冷たく見える。
「あれ、どうかしたのかな?」
その雰囲気を嫌い、おどけて見せる昴冶。
彷徨わせた視線が、ネーヤのヒールの下に踏みにじられている物を捕らえる。
蒼のインプルスの回転衝角に吶喊されるネーヤ。深紅のディカスティアのエイステラールに緊縛されるネーヤ。スペース烏賊の触手攻撃を受けているネーヤ。オーソドックスに灰のゲシュペンストのスフィクスに組み敷かれているネーヤの姿が描かれている、18禁男性向け創作。
それを見て取った昴冶は頬を引きつらせ、投げやりに呟いた。
「なんなんだよ。もう」
次の瞬間、黒のリヴィアスはゲドゥルトに突っ込んで爆発四散した。
「――は!」
昴冶は焦りまくった表情で身を起こし――そして気がつく。
昴冶の向こう側のマットの上には、アイマスクをして目元を隠し、幸せそうな口元をして眠るイクミの姿がある。
ここは、平和なリヴァイアスの中だ。
ペンダントのように首にかけた通信機が、煩わしい。パーティ準備の疲労から、着替えもせずに眠ってしまったらしい。
「――夢か」
内容は良く覚えていないが、なにやら矢鱈とひどい夢を見たような気がする。ほっとした声で呟き、昴冶は心を決めた。
普通のパーティーにしよう。
(夢幻のリヴァイアス 完)
あとがき、と言うか言い訳。
take4は、田舎生まれの田舎育ちであるため、コミケとかに行ったことがありません。
ですから、コミケなどの実際とは違う部分が多々あると思われます。
その辺りは、おおらかな目で見守っていただけると幸いです。
後、この段階(シアー11 まつりのあと)の時には、祐希とカレンは知り合いではありませんが、既に知り合いとして書いています。
理由は、take4がカレンスキーだからです。
すみません。
おおらかな目で見守って下さい。
戻る