魔法を高レベルで使えると、非常に便利である。
逃走資金も準備出来たし、美少女のメイドさんもゲットした。
もはやここにいる必要はなく、マサムネは退場する事にした。
さて、何処に行くか。
流石にアラニア国内にいるのはまずいだろう。他の国、フレイム、ヴァリス、カノン、モス、マーモ、何処にすべきか。
フレイムはそこに住んでいた二部族の内、風の民が大陸の方で剣闘士やっていた男を王に抱いて、もう一方の部族、炎の民を駆逐したところ。一応、勝負は付いたのだが、未だ混乱が残っている。
ヴァリスは、正直近づきたくない。正義の神様をあがめる国。怖気がする。正義、神様、どちらも多くの人を殺す原因だ。それが二つも結びついている。最悪だ。キチガイどもの巣窟に違いない。そうでなくともマサムネは泥棒。避けるが吉だろう。
カノン。ここはマーモに占領されている。マーモの占領統治は最悪らしいから、やめておいた方が良い。
モス。ここも内乱中。戦争は正直ごめんである。だから、避けた方が良い。
マーモ。言うに及ばず却下。化け物どもが大量に住まう島に、わざわざ望んで行こうとは思わない。
マサムネは少し考えて結論した。
このどれでもないところ。ライデンに行こう。
ライデンは、商人による自治都市である。日本で言えば、昔の──戦国時代あたりの堺の街か。力のある豪商の合議制で街は統治されている。その為、どの国にも与せず中立を守り、ここは一応、戦乱とは無縁の場所にいる。さらに言えば、いざとなれば、ここから出ている大陸行きの船に乗って、ロードスから逃げ出すという行動オプションもとれるのが良い。アラニアは内乱中で、泥棒一人にそうそう関わっていられるとも思えないが、最悪の事態も考えておくべきだろう。どのみち、マサムネは極めつけの異邦人。ロードス在住にこだわる必要なんて、欠片もないのだから。
結論したら、即座に行動。
正直な話、この城から脱出する事は簡単である。わざわざ警護の兵が詰める、門を通る必要もない。
マサムネは高レベルの魔法を使う事ができるのだ。飛翔(フライ)の魔法で、飛んでいってしまえばいい。
宝物を詰め込んでぱんぱんになったずたぶくろは、剣と一緒に背中に背負う。メイド少女、サシカイアは抱いていく事にする。どういう具合に抱くか? 基本はお姫様だっこ、だが、空を飛ぶのにそれは姿勢的に厳しいモノがあるだろう。背中側から腰に手を回して──と言うのも考えたが、ここは向かい合って、お互いに抱き合う格好をすることにする。
サシカイアはイヤそうな顔をしたが、そこはそれ、ギアスの魔法で逆らう事はできない。諦めたように嘆息すると、マサムネの背中に手を回した。
マサムネもサシカイアの背中に手を回す。
「もっとしっかりしがみついて」
「……」
おもしろくなさそうな顔で、サシカイアが従う。
「……結構重いな」
「……」
余計な一言を口にしてしまって、ますますサシカイアが不機嫌な顔になる。
「いや、サシカイアの事じゃなくて、背中の荷物が……」
慌てて言い訳したが、後の祭りで、サシカイアの機嫌は、ちっとも良くなる様子はない。
仕方がないかと諦め、マサムネはフライの魔法で飛び上がった。
「うわ、本当に飛べるよ」
思わず驚きの声を零してしまう。
「……今更何を」
呆れたようにサシカイアがつっこむが、マサムネは興奮していて気が付かない。
まさか、自分が空を飛べるようになるとは。異世界に、来てみるモノである。──いや、この程度でこの状況を許せるわけではないが。
「……それで、何処へ行くのですか?」
「まずは南に」
フェイントである。
「その後、迂回しながら北へ。それで、ビルニの港から船でライデンへ」
流石に空を飛び続けるわけにはいかない。正直、疲れも抜けていない。だが、陸路もまずい。ロードス中、あっちもこっちも戦乱だらけ。ならば、海路の方がましだろうという判断。
「……そうですか」
サシカイアに文句はないようだと都合良く見て、マサムネはそのまま窓から飛び出した。
風を切って空を飛ぶ感覚。
「うわ〜、すげえ」
「……耳元で騒がないでください」
はしゃぐマサムネに、サシカイアが冷静につっこんだ。
そのまま、言葉通りにいったん、南へ向かう。
南に適当に進み、目に付いた村にいったん降りる。
そこで、服を購入した。
マサムネの格好は寝間着から勝手に物色して着替えたアラニア貴族の服だし、サシカイアはメイド服。これから旅をするのに、お世辞にも向いた服とは思えない。二人そろって、一般的な庶民の服に着替える。さらに、旅用のマントや、道具一式を購入。サシカイアがメイド少女じゃなくなってしまうのは痛恨だが、これは一時の事と我慢する。貴族服は売り払ったが、もちろんメイド服はそのまま所持しておく。なんだか、サシカイアの目が冷たいが、マサムネは気が付かない振りをする。
そのまま、すぐに村を出て、再び飛翔。アランの街を大きく迂回しながら、北を目指す。
途中で二回ほどフライの魔法をかけ直して飛び続け、カルナと言う小さな村の手前で降りる。すでにこの頃には日が傾き始めており、今日はこのまま、カルナの村で宿を求める事にする。
カルナは、本当に小さな村だった。宿屋などあるのか?、そう言う大きさの村だが大丈夫。
この辺りの道──白竜山脈沿いに北のマーファ神殿へ続く道は、祝福の街道と呼ばれている。マーファは、結婚を守護する神でもある。婚姻の儀式をマーファ神殿で。そう考える若者でにぎわった道なのだ。街道沿いの町や村には、そうした旅人目当ての宿屋が当たり前に存在している。
ここのところ、ロードスは戦乱だらけで旅をするのは危険な状況である。そのせいで、わざわざマーファ神殿まで出向いて、と言う若者の数は減少している。そのせいか、見つけた宿屋はどこか寂れたようにも見えた。
宿屋の女将は、宿を求めるマサムネとサシカイアを見て、うれしそうにはしゃいだ。久しぶりの客がよほどうれしいと見える。
お似合いだ、とさんざんはやし立てる女将の言葉に、マサムネは誤解を解く必要を感じず曖昧に、サシカイアは不機嫌に応じたのだが、照れていると勝手に思いこんだらしく、上機嫌で部屋に案内してくれた。
部屋は、田舎の事もありたいしたものではない。当たり前に、昨日までマサムネが利用していた王城の寝室などとは比べものにならない。──が、こちらの方がかえって落ち着くマサムネである。
部屋には、ベッドは大きなモノが一つ。
何しろ、結婚しようと言う若者達の利用を見込んだ宿屋である。そして、マサムネ、サシカイアは誤解を解く努力をしなかったから、女将は二人の関係がそう言うモノだと思っている。だから、こうした部屋に案内されるのも当たり前の事だった。
サシカイアは、表情を硬くして、マサムネを咎めるようににらみ付けている。逆らえないのは分かっている。それでも、不満に感じている、そのことだけははっきりさせておく。そう言う表情。
マサムネは、そちらを見て、そのままベッドに向かった。体を投げ出すようにベッドに寝転がる。
「今日は何もしないよ。──とにかく疲れた」
ギアスの魔法のあの痛み。その後、フライの魔法による強行軍。言葉通り、マサムネは疲れ果てていた。今は、とにかく休みたい。
「……今日は?」
サシカイアが聞きとがめた言葉が届く頃には、マサムネは眠りについていた。
翌日、マサムネが起きると、すでにサシカイアも起きていた。
マサムネはベッドから降りると、体の調子を確かめる。うん、大丈夫。体の疲れはとれている。
宿屋の一階へ下り、朝食を取る。質素でシンプルな食事だったが、考えてみれば久しぶりのまともな食事である。マサムネはものすごい食欲を発揮して、女将を呆れさせた。
そのまま、宿屋を辞す。帰りにまた寄りなよ、と言う女将の声に適当に手を振って、村の外、離れたところまで行って、再びフライ。一気にビルニの港町まで。
ビルニの港町は、カルナに比べれば十分に大きいが、それでもたいしたことのない街だった。おまけに、ずいぶん寂れている。
近くの人に事情を尋ねると、マーファの私略船が出没するせいで、船の行き来の数が減っているせいらしい。
「私略船か。しまったな」
マサムネはぼやく。
考えてみれば、通商破壊は戦の常道である。
「……考えていなかったのですか?」
サシカイアが冷たくつっこんでくる。
「う〜ん、知識があっても、生かせなきゃどうしようもないんだな。反省っ、っと、反省したからもう大丈夫」
「……大丈夫?」
どこが?、と言う表情をするサシカイア。行動で逆らえないから、毒を吐く事で逆らうようにしたようである。
「なんか、御主人様にする態度じゃないような気がするんだが」
「……御主人様?」
だれが?、とサシカイア。
「かわいくないなあ」
「……かわいくなくて結構です。どうせなら、その可愛くない人間に暇を出していただけるとありがたいのですが」
マサムネはサシカイアの言葉を、耳がないような顔をしてスルーする。
そんなやりとりをしつつ、港で確認すると、調度、船が一隻、ライデンへ向かうところらしい。
これはついていると早速交渉。金は十分にあるので、交渉はあっさり成立し、二人は船上の人となった。
そして、ライデンに無事到着。
途中、マーモの海賊船に出くわしたが、接近される前にマサムネの精霊魔法「シンク」によって、浮力を奪われて沈没。あっさりしすぎるくらいあっさりと海の藻屑と化し、害はなかった。マサムネは船の乗員には褒め称えられ、サシカイアには呆れた声でつっこまれた。サシカイアも精霊魔法の使い手で、このシンクの魔法、普通は人程度の大きさのモノから浮力を奪う魔法であり、船を沈めるなどデタラメとの事だ。
そのほかには何もない航海だった。途中暇をして、ついにサシカイアに手を出したりしたが、詳しくは省く。ちなみに、意外な事に初物で、正直にマサムネは意外だと口にして、サシカイアにすごい目でにらまれた。
「いや、だから、メイドは御主人様に手を出されているモノだと相場が決まっていると、ね」
「……」
「……ごめんなさい」
無言の圧力に負けて謝罪するマサムネである。
とにかく、ライデンの街である。
ライデンの街は、流石にロードス1の商業都市という事もあり、かなり大きく、活気に溢れているように見えた。もっとも、地元の人間に聞くと、戦争のせいで普段よりも活気がないという話だが。
そのライデンで、マサムネは高級な宿屋の高級な部屋を選び、一月分の宿泊料金を先払いして拠点とした。
「このまま、怠惰な生活を送るのも良いなあ」
等と、真っ昼間からふかふかのベッドに裸のサシカイアを抱えて寝転がり、一人ごちるマサムネである。
実際、何をしようと言うビジョンはない。
取りあえず、気にくわない奴に従うのはまっぴらごめんだ。そうした理由で飛び出してきただけの話であり、何をしたい、何をしようと言う目的はない。おまけに、稼がなくても暮らしていけるだけの金もあるモノだから、自然、怠惰になる。
「……取りあえず、盗賊ギルドにつなぎを取っておいた方が良いですよ」
諦めたのか、状況に慣れてしまったのか、サシカイアが提案してくる。相変わらず、マサムネが馬鹿な事をやったり口にしたりすると、冷たい視線を向けてくるが、むやみに反抗的ではなくなっている。気が進まないが、運命共同体である。そのように考えているのかも知れない。
「盗賊ギルド?」
平たく言えば、泥棒の寄り合い所帯である。
「……情報に敏感である事は、生きていく上で重要な事です。特に、あなたのような犯罪者の場合は」
「犯罪者? 俺?」
「……自覚がないのですか?」
冷たい視線。
変な趣味はないはずだが、サシカイアのこの視線になれてしまい、逆に向けられないと寂しく感じたりもするマサムネである。
「犯罪者か〜」
マサムネは、しみじみとつぶやいた。まじめな高校生やっていたはずの自分が、異世界で犯罪者。思えば遠くへ来たモノである。
ま、それはともかく。
「共犯者」
言って、サシカイアを指さしてやる。
「……共犯者? 私が? 私は被害者です!」
「でも、傍目にはどう見えるかなあ」
「……」
不機嫌に黙るサシカイアに、マサムネは勝利感を抱く。
「ま、行ってみるかな」
マサムネは起きあがり、ベッドから降りる。
「サシカイアも一緒に来るように」
言ってマサムネが示したメイド服に、サシカイアは絶望的な表情を浮かべた。