果てさて、これからどうするべきであるか。
前述のようにマサムネに明確なビジョンはない。おまけに金があるモノだから、あくせく働く必要もない。
一応盗賊ギルドには話を通しておいた。大金を手にして、気が大きくなっているモノだから、規定以上の金額を支払って、盗賊ギルドに登録、何か情報が入ったら教えてもらえるようにお願いした。向こうは料金さえもらえれば問題ない。しかも、気前の良すぎる払いっぷりだったせいで、二つ返事で頷いてくれた。何か情報が入ったら、こちらから出向くまでもなく、わざわざ教えに来てくれるとの事。
その後、どうせだから装備を整えておこうと言う話になる。
ライデンはロードス1の商業都市である。また、大陸との貿易も行われている。そのため、出物も多いだろうと、武器屋巡りをする。
マサムネの武器は良い。アラニア王城からくすねてきた大剣がある。銘無しのようだが、これは魔法剣。その上、試しに幾度か振ってみたが、本来両手で扱う大剣を片手で振り回す事のできる筋力がマサムネにはある。それだけでも、十分な攻撃力だろう。
サシカイアの方は、マサムネによって武装解除され、そのままで逃げ出してきている。だから、今は武器がない。正直、武器を持たせる事に不安に感じる部分もあるが、まあいいかと、楽天的に考える事にする。
金はあるから、最高の武器を求めようと、武器屋を巡る事しばし。魔法の小剣を発見して購入。さらに、サシカイアの希望で後ろから首をくくるのにちょうど良い感じの鋼線や、スローングダガーのセットを買い求める。
その後は防具。
マサムネの場合、スキルによる制限がある為、これは慎重に選ばねばならない。結果、金属鎧は諦め、品質の良いソフトレザーの鎧を購入。その上に着込む、黒い外套も買い込む。さらに、ガードグローブという、盾のような力場を発生させる事のできる魔法の手袋があったので、これも購入する。これで、基本的に片手をあける事ができ、必要となれば盾も使える事になった。うん、便利だ。
サシカイアの方は、防具に同じくソフトレザーを購入したかったようだ。しかし、たまたま魔法のメイド服一式なんてモノをマサムネが見つけたせいで、サシカイアの意見は無視された。
「……何処の馬鹿ですか? こういうモノを作る人間は」
「いや、古代魔法王国にも、モノの道理が分かっている人間がいるね」
「……モノの道理ですか」
呆れたのか、諦めたのか、サシカイアはそれ以上言葉を発することなく、ため息をつくだけですませた。
しかし、この魔法のメイド服、その方向性はどうあれ、防具としては優秀だった。単純な防御力の話をすれば、マサムネの買った品質の良いソフトレザーの鎧より、よほど高い防御力を持っていた。その分、値段も酷く張り、ますますサシカイアがマサムネを見る視線が冷たくなったが。
「──で、武器防具一式をそろえて、何をするおつもりですか?」
冒険者でもするのですか?
と、サシカイアが尋ねてくる。
冒険者というのは、平たく言えば何でも屋である。依頼を受けて、お使いをしたり、怪物退治をしたり。依頼が無くとも、古代魔法王朝の遺跡を探索したりする。RPGで、主人公を張るような仕事である。
「う〜ん」
しかし、マサムネにはやっぱり明確なビジョンはないのであった。
「お金はまだまだ十分あるのに、危険な事はしたくないなあ」
うまいものを食べて、うまいお酒を飲んで、いい女を抱く。
取りあえず、欲求のほとんどが満たされているマサムネである。一応、武器防具をそろえたモノの、動こうという気にはなれないでいた。
「サシカイアに、何かやりたい事はない?」
「……メイドに質問しますか?」
「俺って、明確な目的がないんだよなあ」
帰還については、諦めてしまっている。下手に「知識」があるせいで、それが不可能、可能だとしても酷く難しい事が分かっている。わざわざそれを探して、世界中を巡り巡るような気にもなれないでいる。確かに、文明人のマサムネには、不便に感じる事が多いこの世界であるが、それも決定打と言えるほどの不満に感じているわけではない。戻れば戻ったで、メイドライフなんて夢の夢である事だし。
「まあ、いずれ何かの目的もできるだろうし、しばらくはのんびり暮らすさ」
「……そうですか」
サシカイア自身にも、明確な目的はない。
これまでに、サシカイアの過去、なんてモノの話も聞いた。サシカイアに隠す気が無かったようなので、別段無理矢理ではない。
それによると、サシカイアは元々孤児だったらしい。街で悪さをしながら何とか生きていたところを、アラニアの盗賊ギルドに拾われて、盗み、暗殺の技術をたたき込まれた。ついでに、素養があったようで、精霊魔法も覚えた。盗みと殺しの毎日を過ごしているところで、手駒を求めていたヘザーに買われる。そのまま、ヘザーのメイドとして働きつつ、ヘザーの政敵の何人かを暗殺したりしなかったりして過ごし、マサムネに会った。出会ってしまった。そんなところらしい。
ちなみに、メイドなのにこれまで手を出されていなかったのは、ヘザーが男色家だったせいらしい。アラニアは古い国で、貴族の中にはそうした趣味を持つ人間は少なくないとの事。
「ホモと変態が増えると、国が滅びるんだぞ」
マサムネは、自分も危なかったのだろうかと冷や汗を流しながら、コメントした。
「しかし、メイド時代はともかく、盗賊ギルドも見る目がないなあ。盗みや殺しをたたき込むより、きれいに着飾らせて街に立たせた方が、よっぽど稼いでくれそうなのに」
サシカイアの整った容姿を見てマサムネが言う。
「……子どもの頃は、やせて汚い娘でしたからね」
つまり、盗賊ギルドの人間に、見る目がなかったと言う事か。まあ、初物をいただく事ができて、ラッキーだったけど、と言うマサムネに、サシカイアはどこがラッキーですかと、不機嫌に反論した。
その後、しばらくはやっぱり怠惰に過ごす。
そして、マサムネは女遊びを覚えた。
原因は、サシカイアが女の子の日になってしまった為、マサムネが夜の街へ一人で繰り出したせいである。
サシカイアは重いらしく、部屋でうなっている。後に、這ってでもついていくべきでしたとサシカイアが言ったが、それこそ後の祭りである。
マサムネは酒場に入り、これまた最近覚えた酒を飲む。生命力抵抗値が非常に高いせいもあり、アルコールへの耐性もある。次々と店の酒を飲み干す勢いでグラスを傾け、流石に酔っぱらって大騒ぎ。
ただでさえいい加減な性格が、酒を飲んで気が大きくなっていた。調子に乗って店の女の子や他の客に大盤振る舞いのお大尽。今日は何かと小うるさいサシカイアもいないと、その後も大はしゃぎ。
気が付いたら、連れ込み宿に1ダースほどの裸の女と一緒に眠っていた。
一応、見る目までは曇らせていなかった様子で、1ダースほどの女は、美女美少女ばかりだった事に安堵し、その後、女郎屋から請求された金額に唖然とする。持ち金が足りないので、宿屋の方に来て貰う。
宿屋の部屋に帰って請求書を見せると、サシカイアの目が三角になった。
「……一体、どうやったら一晩でこんなにお金が使えるんですか」
「浴びるほどに酒を飲んで、その後、12人の女の子と乱交」
正直に答えたのだが、サシカイアの目が冷たくなるばかりだった。
サシカイアはしばらくマサムネをにらみ付け、それから、何か大事なモノを諦めたような、重くて長いため息を零した。
「……それで、これからどうするつもりですか?」
「え?」
と、何を問われたのか分からず、マサムネは首をかしげる。
「できたら、このまま怠惰で快楽に満ちた生活を、死ぬまで続けるのも良いかなあ、って思っているけど」
ますます視線が冷たくなった。
「……何処にそんなお金があるんですか?」
「え? あるでしょ?」
「……無いです。もう無いんですよ、本当にっ!」
「嘘っ」
本当だった。
一生遊んで暮らせると思っていたお金は、これまでにほとんど無くなってしまっていた。
「参ったな」
「……ええ、参りましたね」
「何でこんな事になってしまったのだろうか?」
「……何で?」
何故そんな疑問が出てくるのだ?、とサシカイアは不機嫌に高い声で訊いた。理由は明白じゃないですか。ふざけているのですか?、あんまり世の中なめてると殺しますよ。そう言う声だった。
あれだけあったお金も、今や残り僅かになっていた。幸いなのは、宿代を最初にまとめて支払っていた事。いきなり追い出されて宿無しになる心配だけは、当面、無い。
しかし、遠からずそうなる事は確実に思えた。
「仕方がない。働くか」
「……何をするつもりですか?」
「う〜ん、楽して一攫千金。そう言う仕事って無い?」
「……世の中なめてますね」
豪商の家に忍び込んで物色するか、とも思ったが、止めておく事にする。流石に、ここでも追われるのはいろいろと不味そうだから。
仕方が無いので、冒険者をする事にした。
冒険者の宿、と一般に呼ばれる、仕事斡旋所に二人して向かう。もちろん、サシカイアは完全武装のメイド服だ。
「と言うわけで親父、楽して一攫千金できるような依頼はないか?」
「おまえ、世の中なめているだろう」
店のカウンターでいきなり言い放ったマサムネに、店の親父はふざけるなと返してくる。
その後、親父は顔で壁に貼られた依頼一覧を示す。
「ふ〜ん、これが依頼か……って、安っ」
「……こんなところが相場ですよ」
「って、これ、一つ仕事をこなしたら一生遊んで暮らせる、って言うような値段設定じゃないぞ?」
「……そんな仕事、あるわけ無いじゃないですか」
「親父、もっと稼げる仕事はないのか?」
「そこにあるのが全てだ」
親父はますます不機嫌に言い返してきた。
「だいたい、お前ふざけているのか? メイドつれている冒険者なんて、俺もこの商売長いが、聞いた事も見た事もないぞ」
サシカイアが無言でうんうんと頷く。
「何事にも初めてがあるさ。そして、先人はなかなか理解されないモノでもある」
「……一生理解したくありませんね。そんなもの」
サシカイアがぼそっとつぶやく。
「それにだいたいだな」
マサムネの上から下まで値踏みするみたいに眺めて、親父は言う。
「お前、初心者だろう? 全然強そうに見えないぞ」
魔法の効果で力を得たマサムネである。体型は、こちらに呼ばれる以前と大差ない。具体的に言えば、背はあるが細く、背中に剣を背負ってなければ、戦士にも見えない。肉付きが戦士のモノではないのだ。
「俺はむちゃくちゃ強いよ。マーモ皇帝だってあっさり殺せる自信があるぞ」
「ああ、そうかい」
親父は全然信じていない口調で応じた。
「それじゃあ、ドラゴンでも殺してきたらどうだ?」
「ドラゴン?、エンシェントドラゴンか」
ロードスには5匹の古竜がいる。魔竜シューティングスター、金竜マイセン、氷竜ブラムド、水竜エイブラ、邪竜ナース。
「ああ、ドラゴンなら、倒せば一生遊んで暮らせるくらいの金は入ってくるぞ」
この5竜、古代魔法王朝時代のロードス太守の秘宝の守護者である。マイセンとブラムドのお宝は、それぞれモスとマーファ神殿がゲットしているが、他の三匹については未だに秘宝の守護者のままであるはずだ。守るお宝の額については、この二つの例もあり、相当なモノだと分かっている。下手をすると国家予算以上、マサムネががめてきたモノなど、小銭に思えるほどだと言う。
「この依頼を受けましょうっ!」
マサムネが真剣に考え始めたのを見て、慌て気味にサシカイアが依頼を一つ、取り上げる。
「え〜〜〜。こんな端?」
「……これで十分です。お願いですから、本気で考え込まないでくださいっ!」
「だって、一攫千金だぜ?」
「……死にます。そっちはまだ良いかも知れませんけど、私が死にますっ!」
「それは、やだな」
「……でしょう?」
サシカイアは安堵したように頷いた。マサムネの非常識っぷりは身近で見てきただけに、サシカイアも承知している。だが、サシカイアは腕が立つとはいえ、常識の範疇にいる。古竜に戦いを挑むなんて、まっぴらごめんである。
「仕方がない、サシカイアの為に諦めよう」
「……なんだか、恩義せがましいですね」
「サシカイアの為に諦めよう」
「……ええ、ありがとうございます」
「サシカイアの為に」
「……なんですか、しつこいですね」
「サシカイアの為に諦めるわけだから、今晩はサービスするように」
「……」