さて、莫大な財宝を、たった四人でどうやって運ぶ?


 答え。運べません。
 エイブラの呪いを解き、お宝の所有権はマサムネに移った。しかし、まだ手に入れたとするには早い。いくら莫大な財宝とはいえ、こんな、人のいない島では使いようもない。何とか、人のいる場所──ライデンに持ち帰る事ができなければ、無いのと一緒である。
 取りあえず、当座の分として財宝のいくらかをタンカレーに命じて小舟に運ばせたが、大半、いや、ほとんどは相変わらず水の中にある。4人で──と言うか、実質そう言う働きをするのはタンカレーだけなので(マサムネはするはずもないし、ベルも同様。サシカイアも、こうした時は自分がか弱い女の子であると主張する)、今回、全てを運びきるのは不可能であった。
 残りの財宝を、無防備に置いていくわけにはいかない。4人が口を開かなくとも、チャーターした船の人間もいる。それに、口は開かなくとも、ライデンに帰れば豪遊するに決まっている。そうなれば、どこでそれだけの金を得たのか、興味を引きつける事になる。そうなれば、残りの財宝を狙おうという人間が出てくるのは自明である。
 残していく財宝の守りをどうするか。頭を悩ませる時間は少しですんだ。
 エイブラが当面は引き受けてくれることになったのだ。
 エイブラは現在休眠期で、一日の大半を寝て過ごし、そうそう活発に移動したりしない。その間は宝の番人を継続する事を承諾してくれたのだ。しかし、問題もある。これまでほど敏感に宝を守る事はできなくなっているのだ。
 これまでエイブラは、ギアスの魔法によって、宝に近づく者がいれば否応なく、どんなに離れていようが熟睡していようが瞬時に気が付いていた。しかし、ギアスの魔法を解除された今、気づかず接近を許してしまう事もあるだろうとの事。そこにいる、ただそれだけ。古代竜であるから、そこにいるだけでも十分な効果は期待出来るのだが、過信はできない。
 そこで、マサムネがゴーレムを作り出して、宝の番人とした。本来ゴーレムを作るような魔法は遺失魔法に含まれて一般には伝わっていないのだが、たまたま、生け贄にされた人間の中に知っている者がいたらしい。
 調子に乗ったマサムネは、総勢20体以上のストーンゴーレムを作り出し、洞窟の入り口付近に配置。そうそう簡単な魔法に思えないのにこの数。デタラメな精神力──マジックポイントを見せつけた。
 ちなみに、ゴーレムはさして難しい命令を解さない為、下した指令は「合い言葉を言わないで洞窟に入ってきた者を問答無用で攻撃」で、合い言葉は「マサムネ様、蝶サイコー」。頭の悪い合い言葉である。
「ともかく、ライデンに帰ったら豪遊っすね。戦いも良いっすけど、豪遊も良いものっす」
 ベルはうきうきと。
 タンカレーも喜ばしそうに。
 もちろん、サシカイアもにこにこしていた。これで、自転車操業状態とはおさらばだ。
 しかし、マサムネ一人、難しい顔をして財宝を眺めていた。
「……どうかしたんですか?」
 一番はしゃいでもおかしくない人間がおとなしいので、サシカイアは不思議に思って尋ねた。思い当たる原因についても申し添える。
「……もしかして、何か拾い食いでもしたんですか?」
「お前が俺をどう思っているか、よく分かる発言だな」
「……別に隠すつもりありませんから」
 しれっと答えて、重ねて質問する。
「でかい金が手に入ったからな。なにかこれででかい事をやれないかと考えたんだ」
「……人間、安定した生活が一番ですよ。余計な事を考えないで、どこかに家を買って静かに暮らすのが良いと思います」
「駄目っすよ。そんな平和な暮らしでは人間が腐ってしまうっすよ。やっぱり、戦いと、戦いと、戦いに明け暮れる事が、豊かな人間を育てるっす」
 ベルが口を挟んでくるが、サシカイアはあっさりと流した。
「……腐れ神官の言う事は放っておいて」
「腐れっすか? それはあまりに酷い評価っす。私くらい敬虔なマイリー神官はいないっすよ」
 確かにある意味、そうかも知れないが。
「……とにかく、変な事を考えて知恵熱でも出されたら私が苦労します。そうですね、今回は特別に許可しますから、ライデンで豪遊でもして、お馬鹿な考えは忘れてください」
 何を考えているか知らないが、絶対にろくでもない事だと確信しているサシカイアである。
「そうだな、取りあえず豪遊だな」
 マサムネはあっさりと、顔をにやけさせた。
 単純な事である。
 と、サシカイアは思ったのだが、それはあまりに早すぎる判断だったと後悔する事になる。


 ライデンに戻って、一週間ばかりは豪遊をした。
 マサムネは花街に繰り出して本当に全員制覇する勢いで女を抱き倒し。
 サシカイアはベルと一緒に、いろいろ美味しいモノや普段は食べられない高級食材の食い倒れを。
 タンカレーの事はよく分からないが、彼もまた、それなりに楽しんだらしい。
 そして。
 よそでアレだけ女を抱いているのだから、こっちの事は忘れて放っておいてくれればいいのに、と言うのはサシカイアの願いだが、マサムネの方には忘れるつもりはないらしい。常宿にしている最高級の宿屋の最高級の一室で、ベルも一緒に何戦かやらかした後、マサムネが言った。
「英気も養ったし、そろそろ本格的に行動するぞ」
「……はい?」
 微睡みかけていたサシカイアは、適当に応じる。
「今度はシューティングスターのお宝もいただく」
「……はいぃ?」
 マサムネの発言に、眠気は一気にすっ飛んでしまった。
「……な、何考えているんですか? もう、十分じゃないですか。はっきり言ってアレだけの財宝があれば、一生遊んで暮らせますよ? もう我々は、人生の成功者です。これ以上危険を冒す必要なんて、何処にもないじゃないですか」
「こんなぐだぐだな生活を続けていると、人間が駄目になる」
「……どの口がそう言う事を言いますかね」
 サシカイアは、とっくの昔に人間駄目駄目になっているマサムネを鯖目で見た。
「そうっす。人生は戦いが無いと駄目っすよ」
 ベルが我が意を得たりと、握り拳で力説する。
「そんな事無いです。平和な人生が一番です」
「いや、平和は駄目だ。──だいたい、お前ら、なんか太ったぞ」
「……ぐ」
「……む」
 と、サシカイア、ベルはそろって変な声を出した。
 この一週間ろくに運動もせずに美味美食の限りを尽くした為、確かにその自覚はあった。もちろん、体型が壊滅的に崩れる、なんて言うのとは遠いが、それでも、確かに余分な肉が付いた自覚はあった。
「そうっすね。そろそろ戦わないと、駄目っす」
「……戦いはともかく、運動の必要は感じています」
 サシカイアは一応頷き、それでも反論した。
「……でも、だからと言って、何故シューティングスターなんですか?」
 エイブラと同じく古代竜だが、シューティングスターは、ロードスの五竜の中でももっとも気性が荒く、もっとも強いとされるドラゴンだ。魔竜なんて冠まで付いているくらいで、絶対に相手にしたくない筆頭だ。
「金だ。決まっているだろうが」
「……お金なら、十分にあると思いますけど。──だいたい、まだエイブラのすみかに、財宝の大半は置きっ放しのままなんですよ?」
「いくらあって困るモノじゃないだろう」
「……それは否定しませんが。でも、集めて悦に入るのは、意味がありませんよ? 目的も無しに金を集めてため込むのは、無意味です」
 サシカイアは、お金は使ってこそ価値があると思っている。むろん、明日の事も考えないで使い果たすのも問題だが。
「目的ならあるぞ」
 マサムネはにやりと笑って言った。
「俺は、自分の国を手に入れる事にした」


 マサムネの目的。
 国を手に入れる。
 何を馬鹿な事を、とサシカイアは反論したのだが、ベルの方は喜んでしまった。
「さすがは自分の勇者様っす。そうなると自分はいずれ王宮付きの司祭っすね。──くっくっく。そうなれば自分を本神殿から追い出した連中を見返して──げふんげふん」
 と言う具合に。
 そのまま二人は捕らぬ狸の皮算用、ハイテンションで騒ぎ始めてしまい、なんだかサシカイア一人取り残されてしまった。
 そして翌日、マサムネ、サシカイア、ベルの三人は、シューティングスターの住む、火竜山目指して旅立つ事になった。
 今回、タンカレーは留守番で、サシカイアは自分も留守番しますと希望したのだが、例によって却下。泣く泣く、二人に引きずられて行く事になった。
 むろん、貴重な肉体労働要員であるタンカレーを、ただ置いて行くわけではない。タンカレーには、これまでの傭兵経験を生かして、人集めを命じている。流石に四人で国盗りをしようと言うわけではないと知り、安堵が半分。本気で考えているよこいつ、と言う事で不安が半分のサシカイアであった。


 タンカレーは、マサムネの命令にまじめに従った様である。
 マサムネらがライデンに帰ってきた時には、20人ほどの人間を集めていた。その誰もが熟練の傭兵といった感じの男達だったが、マサムネはタンカレーを誉めたりせず、逆に、綺麗なお姉ちゃんが一人もいない事を厳しく責め立てた。元々、傭兵なんて仕事は男の仕事であるから、女を、等と言うのは無茶な注文である。しかしマサムネはその辺りの事情を一切合切考慮しなかった。
「……お疲れ様でした」
 だから、代わりにサシカイアがねぎらった。
 タンカレーはそれを受けてうれしそうな顔をし、それから、サシカイアの方にもねぎらい返す。
「姐さんこそ、ご苦労様っす」
「……ええ、本当にご苦労でした。しばらくダイエットの必要がないほどに痩せられましたよ」
 シューティングスターは、エイブラほど物わかりの言いドラゴンではなかった。眠りを妨げた事で、最初からけんか腰。そして、マサムネが例の調子で声をかけたモノだから、一戦やらかす事になってしまったのだ。
 マサムネの超人的な能力もあり、何とか叩きのめして屈服させる事に成功したモノの、それまでに何度命の危険を感じたか分からない。出かける前に、新たに購入したり、エイブラの財宝の中にあったりしたマジックアイテムでがちがちに武装を固めていなかったら、本当に死んでいたかも知れない。ダメージを身代わりで受けてくれるマジックアイテム、エスケープドールが壊れてしまったから、実際、一度は死ねるだけのダメージを受けた計算になる。
 それを考えれば、帰り道で例のダークエルフ、カミュがお父ちゃんにジャイアントを借り受けて襲いかかってきたくらい、問題にもならないイベントである。──もちろんその後はマサムネのお楽しみタイム、彼女は三度、泣きながら逃げていった。


 マサムネはタンカレーに文句を言ったモノの、集めた男達に気前よく金をばらまいて歓心を買い、取りあえず傭兵団をでっち上げた。金の事はもちろん、中にはヴァリスでのマサムネの戦いを目撃したモノもおり、ほとんどの者は素直にマサムネを大将とする傭兵隊に参加する事を肯定した。むろん全員が、とは行かなかったが、それでも総勢21名(サシカイアら含む)となり、初めの一歩としては充分だろう。
 傭兵団の名前は、「ヒノマル傭兵団」。ヒノマルとは一体なんなのか、マサムネ以外には誰にも分からなかったが大将の権利としてごり押しして決定。白地に赤い丸を描いた旗を用意し、傭兵団のシンボルとした。
 さらにマサムネは商人のトリスを呼び出して何事かを命じた。──トリスは部下でもないのに命じるのがマサムネである。
 そんなこんなで準備を整え。
 次いでマサムネは、戦場を求めた。