急募、古代語魔法の使い手、高給優遇、委細面談。


「使える魔法使いが欲しいよな」
「……使えなくて悪かったですね」
 サシカイアは最近、マサムネに古代語魔法を習っていた。フレイムで言っていた事を本当に始めたのだ。基本的にサシカイアに拒否権はないから、マサムネがそうすると言ったら従うしかない。まあ、手に職を付けることは良い事だと、素直にサシカイアは考え、まじめにやっている。
 しかし、両者ともに時間があんまり無い。
 マサムネはこれでも傭兵団のトップだし、暇があれば花街に出かけたり、そこいらの娘に声をかけたりと忙しい。最近は吟遊詩人の活躍もあって、英雄マサムネの人気は高く、ナンパの成功率は非常に高いらしい。ただ、もっとあのメイドさんを大切にしてあげてください、等と声をかけた女の子に説教される事もあるのが困りもの、との事。吟遊詩人達に歌わせた英雄譚の効果は抜群だ。ちなみに話題のメイドさんは、正直ほっといてくれ、と思っている。
 サシカイアの方も、実質傭兵団のナンバー2にあたり、細々とした雑用は山ほどある。なかなか二人揃って暇が合う。勉強の時間が取れるわけではない。
 元々、魔法使い──古代語魔法を使えるようになるには、酷く時間がかかる。他の精霊魔法や神聖魔法とは大きく違い、師について長い事勉強して、いろいろと覚えて行く必要があるのだ。
 例えば、精霊魔法であれば精霊の姿を見る、声を聞く。神聖魔法であれば神の声を聞く。そんな具合に、使えるようになるきっかけがあるモノだ。そして、そのレベルアップは精霊魔法だったら慣れ、そして精霊との対話で交感を深める事によってなされる。師について勉強するという事はあんまり無い。神聖魔法もほぼ同様。こちらのレベルアップは基本的に信仰の深まり。師に付く事もあるが、その場合は信仰のあり方、信者としてのあり方を学ぶ為のモノで、直接神聖魔法のレベルアップには関係してこない。あくまで間接的に、だ。
 しかし、古代語魔法は違う。こちらは純然たる技術である。唐突に古代語魔法に目覚める、なんて例はほとんど無い。例外と言えばマサムネがそうだが、これこそ例外中の例外だ。古代語魔法を習得しようと思えば、まず呪文に必要な上位魔法語を覚え、魔法を使う為に必要な呪文を覚え、更に必要な身振り手振りを覚えて、と、覚える事てんこ盛りだ。才能、努力によってその時間の短縮は出来るだろうが、いきなり難しい魔法を使えるようになれるわけではない。
「……正直、古代語魔法を舐めていました」
 マサムネに出された宿題にうんざりして、サシカイアは言ったモノだ。サシカイアはなまじ高レベルの精霊魔法の使い手だけに、古代語魔法を同じように考えていた部分があり、言葉どおり、甘く考えていた。
 押さえるべき場所さえ押させておけば、呪文や身振り手振りにもアレンジが結構効く、とはマサムネの言葉だが、ど素人のサシカイアに、その押さえるべき場所が分かるはずもなく、とにかく全て丸暗記していくしかない。これは酷く時間がかかる。
「ヒノマル傭兵団はいろいろなスキル持ちがいるけど、古代語魔法の使い手がいないんだよな」
 傭兵達の前職はいろいろである。農民だったり、水夫だったり、没落貴族の息子だったり。一覧表を作れば、にぎやかな事になるだろう。また傭兵と一言で言っても、得意としているモノはそれぞれ違う。剣を得意としている者、弓を得意としている者、潜入工作をしている者、本当に多彩だ。しかし、魔法使いは少なく、その中でも、古代語魔法の使い手は一人もいなかった。
 マサムネ自身が、強力な古代語魔法の使い手ではあるのだが、戦いとなれば基本的に剣を取って戦う。上に立つ者として、魔法使いは、かつて世界が古代魔法王国に寄って支配されていた事もあり、あんまり受けが良くないのだ。だから、戦士である事を強調する必要がある。
 しかし、古代語魔法の使い手が欲しいというマサムネの考えは当然である。
 忌み嫌われる事もあるが、感情論を廃して言うと、古代語魔法の使い手は非常に役に立つのだ。味方の武器に魔法をかける、守りの魔法をかける。そうした支援から、大規模破壊魔法による攻撃まで、いろいろと使える局面は多い。味方に一人いるだけで、ずいぶん戦力が変わってくるのだから。
 マサムネは、すぐにサシカイアの即席栽培を諦めた。
 サシカイアも、気を悪くすることなく逆に喜んだ。自分は地道にやっていきます。スパルタはイヤだ。そんな感じで。
 それでも、使える古代語魔法の使い手が欲しい事には変わらず、マサムネは盗賊ギルドや冒険者の店を通して求人を出した。
 それを見て、彼女がやってきた。
 やってきてしまった。


 求人を出して、すぐに何人かの古代語魔法の使い手が尋ねてきた。
 今やヒノマル傭兵団は有名で、そこへ所属したいという人間は少なくない。吟遊詩人達の活躍は効果的だったのだが、あんまり感謝していないサシカイアである。マサムネも自分でやった事のくせに、常宿の一階の酒場に雇われている吟遊詩人は、金をやって追い出してしまっている。確かに、アレを自分達で聞くのは非常にイたいものがある。美辞麗句も度を過ぎると駄目だと言う事だ。
 常宿の一階の酒場で、何人もの魔法使いを面接した。しかし、残念な事に、「使える」古代語魔法の使い手、と言うのはなかなか来てくれなかった。初歩の魔法をかろうじて使える。その程度の人間ばかりだ。それでも、才能があると見た人間を数人雇っているが、目的達成には遠い。
「……まあ、アラニアにあった賢者の学院が、滅ぼされちゃってますからね」
 アラニアには、効率的に魔法使いを育てる学校が、かつて存在した。ここには多くの魔法使いや魔法使いの卵達が集い、日々研鑽し、魔法の研究を続けていた。
 しかし、一人の男がこの賢者の学院を滅ぼしてしまった。
 男の名前はバグナード。現在、マーモ帝国の宮廷魔術師を束ねる黒の導師その人である。
「ああ、あのMの人な」
「……M?」
 サシカイアは首をかしげる。
「だってさ、あいつ、ギアスの痛みに耐えながら魔法を使うそうじゃないか。あの尋常じゃない痛みに」
 こくこくと、サシカイアは頷く。実際に味わっているから言える。あの痛みは尋常じゃない。そうでなければ、とっくにマサムネのそばから逃げ出している。
「だから俺は思うんだよ。奴はきっと、痛みを快感に変える事の出来る変態に違いないと」
 なんて短絡思考、とサシカイアは呆れてしまう。
「痛みを快楽に変え、もだえながら呪文を唱え、魔法を使う。邪悪ですね。即時殲滅が必要になりますね」
「そうっすね。変態は駄目っすよ」
 同席していたマリー、ベルが頷く。どうやら彼女たちの中では既に、バグナードは変態で確定らしい。
 ちなみに、この二人も吟遊詩人に歌われている。マリーは、己の信じたファリス神の正義を貫く為、ファリス神殿侍祭の座を投げ捨てて、マサムネに同行する事を望んだ、かつてのファリスの聖女、フラウスの生まれ変わりのような女性だとされている。ベルの方はそのまま、マサムネに勇者の資質を見いだし、マイリー神の啓示を受けて従者となったマイリー神官。ただ、ウォーモンガー的な部分は巧妙に隠され、マイリー神官の鑑のような人物として歌われている。
「しっかし、本当に使える魔法使いは少ないなあ。導師級、そこまで行かずとも、せめて使い魔を持てるくらいの人間が欲しいんだが」
 マサムネが、がっかりしたように呟く。導師級の人間がいれば、今は使えない魔法使い達の教育も期待出来る。導師、とは即ちそう言う意味だ。
「元々、賢者の学院崩壊の際に、多くの魔法使いが殺されていますからね。魔法使い不足は何処も一緒ですよ。フレイムなんて新興国の悲しさ。まともな宮廷魔術師すらいないのですから」
 マリーがグラスを傾けながら言う。
「……そう言えば、自由騎士パーンの仲間の魔法使い──ええと、たしかスレインさんですか? あの方はそれなりの魔法使いのようでしたが」
「あの骸骨男か?」
 マサムネが酷い事を言う。確かに、痩せていて陰気な魔法使いだったが、それは流石に言いすぎだろう。
「しきりにカシュー王が勧誘していましたね」
 頷き、マリーが告げる。確かに、サシカイアもそんな場面を見た気がする。これまで、あんまり考えていなかったが、使える魔法使いは本当に希少みたいだから、カシューも必死だろう。先の戦争で魔法使いの有用性を思い知らされた事だし、国としてのメンツもある。確かに宮廷魔術師の一人くらいは欲しい事だろう。
「あのむっつりめ。多分、あの綺麗な奥さんの方が目当てだな」
「……そう言う事を考えるのは、あなただけです」
 なのにマサムネの視点は斜め上を行っていた。サシカイアは呆れてため息を零す。
「……でも、どうしますか? これ以上待っても、あんまり良い結果が出るとは思えませんが」
「そうだなあ」
 マサムネは腕を組んで考え込んだ。
「魔法使いなんて必要ないっすよ。戦士が吶喊して吶喊して吶喊すれば、何とかなるモノっす。ならなくても、喜びの野に行くだけっすから、全然オッケーっす」
「オッケーじゃないわよ」
 いつもの様にベルが言い出すのを、マリーが疲れたように切り捨てた。
「まだ、喜びの野に行けるわけ無いじゃないの。ジハドはどうするのよ」
 問題はそれですか?、とサシカイアはぐったりする。
「……何のかの言っても、今現在、一番魔法使いを豊富に抱えている国は、マーモ帝国なんですよね」
 サシカイアは、ぽつりと言った。
 一人で賢者の学園を滅ぼしたバグナード。当然、優れた魔法使いで導師の資格も持っている。その彼が、直々に優れた魔法使いを育て上げ、今ではマーモの宮廷魔法使いは質、量ともにかなりの規模になっている。サシカイアの言うように、ロードスで一番充実しているだろう。
 マサムネがとろうとしている国。それはカノン。そのことは、ここにいる人間には知らせてある。
 カノンを取ろうとするなら、そこを占領しているマーモとの激突は不可避だ。当然、その宮廷魔法使い達も出てくるに決まっている。きつい事になるのは目に見えている。
 皆、黙り込んで考え込む。
「あの〜」
 そこへ、声がかけられた。
「こちらが、ヒノマル傭兵団さんで良いんでしょうか?」
 振り向くと、そこには魔法使いの女性が立っていた。


 顔立ちそのものは整っているのに、どこか野暮ったい女性だった。元々、魔法使いが好んで着用するローブは、野暮ったさの極みみたいなモノだが。それでもなんだか、全身から私やぼったいです。そんな雰囲気を発散しているように見えた。
 え?、と振り向いた4人、その中でもサシカイアを見て、女性は嬉しそうに、ぱん、と手を打ち合わせた。
「あ、メイドさんだ〜。じゃあ、あなた達がヒノマル傭兵団の人たちで間違いないんですよね〜」
 そう言う具合に確認されるのは非常に悲しいモノがある。サシカイアはぐったりと俯いた。
「そうですが、あなたは?」
 マリーが代表して尋ねた。
 女性が魔法使いであろうと推測は付いている。何しろ、魔法使いのローブを着ているのだ。その上、肩には使い魔らしい、鴉がとまっている。賢者の杖と呼ばれる魔法の発動体は持っていないが、代わりに分厚くて頑丈そうな本を一冊、脇に抱えている。
 何故、マサムネが声をかけなかったか。その答えは簡単だ。マサムネは、野暮ったいローブを盛大に押し上げている、この女性の胸元に注視していたから。
「私は〜、魔法使いのカルーアって言います。あの〜、こちらでは、魔法使いを募集しているんですよね〜」
「採用!」
 マサムネが即答した。
「……話も聞かずにこいつは」
 胸で決めたな。
 そう言う視線でマサムネを見ながら、サシカイアは胸の内で嘆息した。
 胸で決めたわね。
 胸で決めたっすね。
 マリー、ベルもサシカイア同様の視線で、マサムネを見ていた。
「あの〜、本当に採用して頂けるんですか?」
 なんだか、間延びした口調で話す女性である。これで呪文が唱えられるのか、と思ったが、肩の使い魔を見る限り、これまでに来たどの魔法使いよりもレベルが高い事は確かだろう。
「おう」
「……その前に、少しお話をさせてください」
 再び即答するマサムネを押さえつけ、サシカイアが変わって言った。