本当に建国しちゃいました。宣言だけだけど。


 建国宣言からこっち、忙しさは増した。
 マサムネは領主の館を接収して当座の居場所として確保した。既にそこの以前の住人はこの世界には存在しない為、どこからも文句は出なかった。
 ヒノマル傭兵団の団旗改め、ニッポン王国国旗となった白地に赤丸のヒノマル旗を館の尖塔の上に掲げる。カノンの王城を占拠するか、それとも新しい城を建てるか今は不明だが、ここがマサムネの当座の城となる。
 そして、住民達に向けて一年間の税の免除を宣言した。その間にマーモの略奪によって色々ダメージを受けた生活を立て直すようにと言う事だ。住民達は、喜んで良いのか、そうでないのか、微妙な表情をしていた。やはり、唐突な建国宣言が影響しているのだろう。
 正直、住民達の様子は予想範囲内とは言え気になる事ではあったが、取りあえず、あんまり気にしても仕方がないと思う事にする。とにかく、他にもすることはいくらでもあったから、いちいち気にしてもいられない。当座は反乱さえ起こされなければ満足と思う事にする。そして、住民達にそれだけの覇気があるようにも見えないから、大丈夫だろう。
 更に、先のこの町の領主であったマーモ騎士がため込んでいた食料やライデンから持ち込んだ食料の一部を住民にわけてやる。これは、なかなか好感触だった。住民達も、素直に喜んでいた様子である。これは、支持率アップに多少の効果があっただろう。
 他に、傭兵達──全員騎士としてヒノマル傭兵団は日輪騎士団と改名──の為の住居を建設。わざわざライデンから連れてきた大工さんを中心に、ラバダンの街──ヒノマルの街と改名──在住の大工さんをまじえて、さらには傭兵達も自ら手を貸して、手早く作業を進めていく。給金を高めに設定したせいもあって、これは大工さんに好評だった。
 ちなみに住居完成までは、騎士団のメンツは領主の館やら街の宿屋やらに分散して宿泊する。新たに騎士となった傭兵達には金を渡し、派手に使って街にばらまけと命じている。金払いの良い客は喜ばれるモノだから、これもちょっとした住民達の支持を得る為の手段だ。街の経済状況が好転すれば、マサムネ支持も高まるであろう。
 そして、娼婦達には取りあえず、領主の館の空いた部屋での営業をさせた。客の中心は騎士団のメンツ達。街の住人の利用も許可しているが、特に騎士団のモノには割引サービスをして、溜めさせないように留意する。溜め込まれて、街の住人といざこざを起こされても困る。下手に性犯罪を起こされたら、小さな気遣いなど一瞬で無にされてしまうのだ。
 吟遊詩人達には、引き続き宣伝工作をお願いする。マサムネの名声を少しでも高めておけば、これから先の支配地域の安堵が楽になるだろうから。彼らは街で、あるいはその外へ向かい、マサムネの行動を脚色して、宣伝に努めてくれた。
 その他にも、鍛冶師には武器防具の鋳造をさせる。これから先、戦闘が続く事は目に見えている。武器防具は絶対に必要になる。
 また、所有する船の内の二隻を港の防衛に残し、残りの二隻をライデンに差し戻して食糧の輸送の追加をお願いする。ツーマンセルであれば、マーモの海賊船も容易には手を出してこないだろう。漕ぎ手や船員の人数が、一隻増えたおかげで不足したが、そこはヒノマルの街は漁業の街でもあり、仕事にあぶれていた漁師を雇う事で補う事が出来た。ちなみに新しい船の名前は「ながと」となった。
 さらには、各種施設の復旧。マーモは、搾取するだけでそれを住民に還元する事はなかった。そのため、水路の一部や、城壁、港の施設など、修復を必要とする場所はいくらでもあった。力仕事はマサムネがゴーレムなどの魔法人形を作って対応、それでは対応出来ない細かな部分、あるいは技術を必要とする部分を本職の人間に任せた。これも中心となったのはライデンから連れてきた者達だが、ヒノマルの街の者も好待遇で雇った。雇用の促進。金のばらまき。支持率アップに影響したと信じたい。
 吟遊詩人のスキルを持たない、専門の盗賊達には、密偵として各地の情報収集をさせる。情報は何をするにも絶対に必要だ。幸いなのは、マサムネはライデン盗賊ギルドと友好関係にある為、結構な数の盗賊を連れてこれた事。満足する結果を出してくれるだろう。
 他にも、様々なすることがあった。
 とにかく、忙しい。忙しくてたまらない。
 ……サシカイアが。
「……あなたは何をしているんですか?」
 だから、昼間から新しく雇った使用人──ヒノマルの街在住の者──とお楽しみだったマサムネに向ける視線が冷たくなるのも仕方のない事だろう。
 ちなみに、領主の館には、使用人を何人か雇っている。別に贅沢な暮らしをしたいと言うだけの話ではなく、これもまた雇用の促進の為の一つだ。金のある者は貯め込むばかりではなく、それを使って社会に還元する事が必要なのだ。持てる者の義務と言っても良い。
 しかし、雇った使用人の全てが若くて見栄えのいい娘ばかりなのは、もちろんマサムネの趣味だ。全員にきっちりメイド服を支給して身につけさせているのも、もちろんマサムネの趣味だ。しかも、一週間とたたないうちに、全員に手を付けている。部下には性犯罪を犯す事を厳しく禁じ、もし罪を犯した場合は即座に打ち首と告げておいて、自分はこれだ。全く、いい身分だ。
「別に無理矢理じゃないぞ。同意の上だ」
「……どうだか」
 ちょっと強く迫れば、断れないに決まっているのだ。それを同意の上と言うのは、卑怯と言えるだろう。まあ、地位権力を嵩に着て手を付ける例なんて世界に溢れかえっているし、手を付けられる事で不自由なく暮らせる事を喜ぶ女性も少なくないから、強硬に咎め立てするほどの事ではないのだが。
「妬いているのか?」
「……誰がですか?」
 絶対零度の瞳でにらみ付けるが、マサムネには効いた様子もない。サシカイアは嘆息して告げる。
「……そんな事をしている暇があるならば、働いてください。何で私ばっかり働かなくちゃいけないんですか?」
 ベルやマリーやカルーアやタンカレーだって働いている。
 ベルは騎士達に稽古を付けている。ウォーモンガーの吶喊娘に他の事が出来るとも思えないから、これはこれで良い。
 マリーはサシカイアの仕事を手伝ってくれている。マリーはファリス神殿でそれなりの地位に昇っていただけあって、書類仕事などにも慣れている。だから非常に助けになってくれている。
 カルーアは、なにやら研究を始めた。それもまあいいだろう。魔法使いなんて、そう言うモノだと思っている。それに、少なくとも遊んでいるわけではないから。
 タンカレーは職人達に混じって、騎士達の宿舎の建設や、施設の復旧やらに汗を流している。一応日輪騎士団の騎士団長となったのだが、タンカレーは腰が軽い、軽すぎる。団長として軽すぎるのはちょっと問題かも知れないが、人手が足りないのだから、当座はそれでも良いと思う事にする。
 他の騎士にしろ、連れてきた職人にしろ、何らかの仕事を割り振り、みんなまじめに働いている。
 なのに、マサムネだけは気楽に遊んでいる。
 サシカイアがマサムネの名前で命じてきた全ての行動は、ここに至る以前、先にライデンの街で決めた計画をなぞっているだけに過ぎない。しかし、実務を全て自分が面倒見る事になるなど、その計画にはなかった。
 何にせよ、人がまじめに働いている横で遊んでいるのを見るのは耐え難い。許し難い事だ。
「取りあえず、お前の仕事が楽になるように、ライデンの盗賊ギルドに密偵の元締めになれるような人物を送って欲しいとお願いしたぞ」
 ライデンとここヒノマルの街では、気楽に連絡を取るという距離ではないのだが、その辺り、魔法を使ったのだろう。
「……あなたは、何をするのですか?」
「トリスの奴には、大陸との貿易を始めるように命令したぞ。金はいくらあっても良いからな。特に、税の免除をしている以上、他に稼ぐ手段の確保は必要だ」
「……あなたは、何をするのですか?」
「ここいら一帯を飛行(フライ)の魔法で飛び回って、地形の確認をしてきたぞ。マーモ軍と戦う時の為に、地形の把握は必要不可欠だからな。別に、仕事がイヤで逃げ出していた訳じゃないぞ」
「……あなたは、何をするのですか?」
「エッチでもするか?」
「……もっとまじめに働きなさい!」
 サシカイアはぶち切れて叫んだ。
 何の為、誰の為にこんな苦労をしているのか。全てはマサムネが王様になるなどと馬鹿な事を言い出し、実際に行動を開始したせいである。なのに何故自分はほとんど何もしないで遊んでいるのか。
 が〜〜〜、と、マシンガンのように言葉をぶつけた甲斐はあって、マサムネも多少は働く気になってくれたようだ。あくまで、多少は、だが。


「……ところで」
 領主の館の執務室で書類仕事をしながら、サシカイアはマサムネに尋ねた。
 マサムネは面倒くさそうな顔をしながらも、結構な速度で書類を片づけていた。やる気になればそれなりにやれる男なのだ。とっととやる気になって欲しい。
 マサムネは、サシカイアの言葉に手を止めて顔を上げる。
「何だ?」
「……どうして、いきなり建国宣言をしたんですか?」
 サシカイアは、疑問に感じていた事を尋ねてみる。
 元々は、ゆっくりと住民達の間でマサムネ支持率を高め、マサムネを王にと言う気運を高める。十分にその意見が増えたところで、住民の要請を受ける形で即位する。そうした形を理想としていたはずである。今回のようないきなりなやり方では、反発も招いてしまう。実際、旧ラバダンの人間はマサムネの即位宣言に歓迎よりも戸惑いの方が大きい。そうなるのは分かり切った事だったはずだ。
 変更した理由、何かの考えはあるのだろうと、サシカイアは思う。マサムネの事を馬鹿だと常々サシカイアは思っているが、それは主に素行に関した事であり、それ以外の面では、頭がよいとは言わないが、悪賢いはずだ。
 ……もし、何も考えておらず、勢いでやったという返答があったら、万難を排してでもギアスの魔法を解き、実家に帰らせて貰う。捨て子だったサシカイアに実家はないけど。
「何となくだ」
「……」
 マリーに何とかしてお願いして、ギアスの魔法を解いて貰おう。
「と言うのは冗談だ」
「……」
 サシカイアは、マサムネをじろりとにらみ付ける。もしサシカイアが邪眼の持ち主だったら、間違いなくその能力を行使しているところだ。
「先に言っていた方法を採っていて、最悪の事態を思いついた」
「……最悪の事態?」
 首をかしげる。
「レオナー王子だ」
 マサムネが言った。
「悠長に住民から即位を薦められるようになる前に、レオナー王子が帰還したりでもした日には、最悪の事になるだろう?」
「……確かに」
 サシカイアは頷く。
 その場合、王位はレオナー王子に。マサムネはそれなりに取り立てられるであろうが、目指していた王位を取る事は不可能になるだろう。王となる事を強行しても、それまでの態度とのギャップで、それまでに苦労して得た住民の支持は無に帰してしまいかねない。偉そうな事を言って、結局簒奪狙いか、と。
「それならいっそのこと、最初からぶちあげてしまった方がマシだ」
 元々王位狙いを宣言した後で支持率を高めておけば、それはレオナー王子が帰還した場合でも致命的とはならない。無論、影響は皆無といえない。しかし、軽減は出来るはずだ。ベストよりもベターを選んだ。そう言う事だろう。
 レオナー王子が、果たしてまだ生きているのか。カノンに帰ってくるのか。帰ってきたとして、のこのこ名乗り出てくるか。その辺りは不明だが、マサムネは最悪の事態を考えたという事だろう。それは悪い事ではない。世の中往々にして、最悪に事態という奴がやってくるモノだから。
 そして今回の手段を執った場合、軌道に乗るまでは大変だろうが、元々王になると宣言しているのだから、レオナーが出てきた場合のダメージも抑えられる。
「……きちんと、考えていたんですね」
「もちろんだ」
「……思っていたより、馬鹿じゃないみたいです」
「常々思っているが、お前とはしっかり話し合う必要があるな」
 マサムネはジト目でサシカイアをにらみ付け、言った。
「早速これからベッドの上で教育を──」
「……そんな事よりも、仕事をしてください」
 嘆息してサシカイアは書類仕事に戻った。


 ヒノマルの街の内政に力を入れる一方で、近在の町や村に対する攻略も平行して行っていった。
 幸いと言うべきか、マーモ軍はこの辺り、カノン東部の統治にはさして力を入れていない。マーモ軍が優先しているのは、ルード、アダン間の街道周り。カノンを南北に貫く中央部である。その他の東部や西部は搾取する為の領主と僅かな手勢を派遣しているだけの所がほとんどで、まとまった戦力はさほど無い。要所といえる場所にある程度の戦力を確保しているだけなのだ。そして、この辺りで要所といえる場所が、ここ、旧ラバダンの街で、そこのマーモ兵を壊滅させた今、近在のマーモの戦力はさして問題にならない。
 近在の様子を調べに出した密偵の報告を待って、分析。その後、占領の為の部隊を差し向ける。取りあえず胃袋にマサムネの名前を叩き込む為、余裕のある食料を持たせて送り込んだ部隊は問題なく仕事を達成。少しずつマサムネの名が広がるに連れ、特に食料をばらまかなくとも、歓呼の声が迎えてくれるようになってきた。マサムネもこれに、何度か同行して、その戦闘力を示していった。
 瞬く間に、この辺り一帯はマサムネの支配下になった。