再びフレイム入り。


 ブレードの街に、不審な7人連れが現れた。
 男一人に女6人。それだけであればおかしくない。その誰もが美人だったので、こんちくしょうと思う男は多いかも知れないが、まあ、それだけならばいい。しかし、不審な事に、このご時世に女6人の内の3人までが、メイドの格好をしていた。
 たった一人の男は黒い外套を着込み、背中には背丈から考えると大きすぎる大剣を背負っている。黒目黒髪、顔立ちは整っているのだが、性格の悪そうな目つきをしている。
 普通の格好の3人の女は、それぞれマイリーとファリスの神官、そして魔法使い。
 マイリー神官の女は、長い黒髪、眉毛が濃くてりりしい顔立ち。マイリー神のシンボルが付いた、大きな帽子をかぶり、金属鎧を着込んでいる。背中には、マイリー神官戦士のもっともポピュラーな武器、戦槌を背負い、その上に大きな丸盾を亀の甲羅のように担いでいる。
 ファリス神官の女は、蜂蜜色の髪の毛に緑の瞳。整った顔立ちには知性が表れすぎ、ともすると冷たいと言う印象を抱かせるほど。こちらも神官戦士らしく、金属鎧にメイス、小さな丸盾で武装している。
 魔法使いは、そのものズバリと言った魔法使いの格好。黒の三角帽子に黒のローブ。肩には黒の鴉がとまっている上に髪の毛も黒。見事なまでに黒ずくめだが、僅かに見えている顔などの肌は真っ白である。それもどちらかと言えば不健康な白。あんまりお日様に当たっていないんだろうな、と思わせる白さだ。しかし、美貌は他の者と変わらず。ただ、どうにも野暮ったい感じがする女性だった。
 そして、三人のメイド。
 一人は、プラチナブロンドの髪の毛を編み上げた娘。派手さはないが整った顔立ちなのはこれまでの二人と同じ。頭にはホワイトプリム、袖口がふくらみ、裾の広がったワンピースの色は黒で、その上からフリルがふんだんに使われた真っ白なエプロンを身につけている。そして、これまたフリルのふんだんに使われた白いストッキングに、黒い編み上げブーツ。もう、どこから見ても完璧なメイドさんだった。
 更にもう一人。同じくメイドの格好をした女性。こちらは緩やかに波打った燃え上がるような赤毛。そして完璧な美貌に完璧なメリハリの効いたボディライン。こんな美人がこの世に存在するのかと疑ってしまいそうな程の完璧な美女。しかし、その顔は「不機嫌」と題を付けて額縁に入れて飾っても良いくらいの不機嫌な表情に歪められている。
 そして最後の一人。やはり、メイドの衣装は変わらず。こちらはほとんど白に近い銀色の長い髪の毛。ホワイトプリムはしておらず、代わりに秀でた額にはサークレットを付けている。体型はメリハリが無いすとんとしたモノ。勝ち気そうな、幼めの顔立ちは体型と相まって、その種の趣味を持つ人間にはハァハァされること間違い無しだろう。その種族さえ気にしなければ。──肌の色は黒っぽい褐色、とがった大きな耳。この娘は、ダークエルフだった。
 そんな目立つ一行がブレードの街に入ろうとすれば、番兵に止められて誰何されるのは当然の事である。と言うか、ダークエルフを連れている時点で、そのまま拘束されても仕方がない。ダークエルフ=邪悪。それはロードスの一般的な認識である。
「ふん、俺を知らない奴が、まだブレードにいたか」
 目の前でハルバードを交差されて止められたというのに、男は全然動じずに、馬鹿にするように番兵を見た。
 番兵は、ずいぶん若い様子で、かなり緊張している。おそらく最近取り立てられたばかりの新兵だろう。
 ダークエルフと言えば、強いと相場が決まっている。その血筋により生まれつきに精霊使いとしての高い素養を持っている上に、身が非常に軽い。更に言えば、魔法抵抗力にプラス4のボーナスが付くのだ。これは凄い。
「ふん。むかつく連中だな、殺して喰らっても良いか?」
 等と赤毛の美女がどう猛な笑みを浮かべて言ったものだから、番兵達の緊張は更に増した。
「駄目だ。俺たちは話し合いに来たんだ」
 男が言うと、女性は不満そうに、それでも諦めたように一歩下がる。
「やっぱ、私が来たの、拙かったんじゃないの?」
 ダークエルフの娘が、男の外套の裾を引っ張って小声で尋ねる。こんな風に止められたのは誰のせいか。もちろんダークエルフである自分のせいだと、この娘は当たり前に認識している様子。それ故か、どうにも落ち着かない風情だ。
「構わん。新たしいメイドのお披露目だ。お前も俺の女なんだからな。こそこそしないで堂々としていろ」
「誰があんたの女よ。それに、こそこそなんてしていないわよ」
 と、男の背中に隠れている癖に、こそこそしていないと言う。
「……それより話を進めましょう。このままでは時間の無駄ですから」
 言い合いを始めた男とダークエルフ少女に小さなため息を零し、プラチナブロンドのメイド娘が提案した。
「つまり、突撃っすね?」
「違うわよ」
 その言葉を受けて、嬉しそうにマイリー娘が背中の戦槌を抜き放とうとし、その頭をファリス娘が叩いて止める。
「痛いっすね。何するんすか?」
「だから、私たちは話し合いに来たの。門番怯えさせてどうするのよ」
 番兵はこのやりとりに驚き、彼らから距離を取ってハルバードを構えている。決死の形相。例え命を落としてもここを通さない。そうした構え。
「ふふふ、やる気か? 向かってくるのであれば、殺すのもやむを得ぬよな?」
「そうっすね。敵は突撃して殲滅。これはマイリー様の教えっすよ」
「お前は人間の割に、オレと話が合いそうだ」
「そうっすか? じゃあ、あなたもマイリーの信者になるといいっすよ」
 うふふふ、と、赤毛メイドとマイリー娘が笑い合う。
「だ〜か〜ら〜、戦いに来たんじゃないって、何度もいわせないでよ」
 ファリス娘が疲れたように大きなため息を零す。
「馬鹿者、武器をおろせ! お前達はその方がどなたか知らぬのか?」
 ちょっとマジでやばくなってきたぞと言う雰囲気を、脇の詰め所から飛び出してきた二人よりも年配の番兵が止めた。
 え?、と戸惑う番兵の武器に手をかけて下に降ろさせると、年配の番兵は深々と頭を下げた。
「失礼いたしました、マサムネ様」
「マサムネ様って、あの?」
「フレイムの救世主の?」
 二人の番兵が、顔を見合わせる。
「そうだ、俺がマサムネ様だ」
 外套の男、マサムネはふんぞり返って言った。
「申し訳ありません!」
 二人はこれを受けて、米つきバッタみたいに頭を深々と下げる。
「馬鹿者どもが。お付きの方の格好を見ればこのお方が誰だか一目で分かるだろう」
 年配の番兵がしかりとばす。
 それを聞いて、銀髪メイド娘のサシカイアはため息を零した。
 相変わらず、メイドを連れている事でマサムネと認識されているようである。
「……あの、その辺りで」
 しかられまくって意気消沈する二人を見かねて、サシカイアが取りなす。
「……こちらも、名乗りもしなかったのですから、その方達だけが悪いわけではありません」
「おお、さすがは勝利のメイドと呼ばれたサシカイア様。なんてお優しい」
「……その二つ名は止めてください」
「し、失礼しました」
 言葉は柔らかだったが、サシカイアの表情に何を見たのか、三人揃って米つきバッタ再び。
「サシカイア、あんまり虐めるなよ」
 にやにやと笑ってからかうマサムネをサシカイアは火の出そうな瞳でにらみ付ける。
「そ、それで、このたびは一体どういった事情でこちらの方へ?」
「ああ、カシューに会いに来た」
 マサムネは相変わらず、フレイム国王を呼び捨てである。
 しかし、咎めるという事が頭に浮かばなかったのか、年配の番兵は深く頷いた。
「そ、それでは、すぐに城の方に知らせを」
「頼む」
 マサムネは鷹揚に頷くと、言った。
「俺たちは適当に街を一回りしてから城に行くから、歓迎の準備を整えておくように伝えておけ」
「わ、解りました」
 年配の番兵は、尻を蹴飛ばすみたいな勢いで、城目がけて走っていった。


 そのまま一行は、ブレードの街へ入った。
 ベルの希望で真っ先にマイリー神殿へ向かう。どうやら、王宮付き司祭に出世した事を、マイリー神殿の司祭やら侍祭やらに自慢がしたかったらしい。しかし、これは残念ながら空振りだった。目指すホッブ司祭もシャーリー侍祭もどこかへ出かけているとの事。しかも、ホッブ司祭はついに勇者を見つけたとの噂もあって、ベルは不機嫌になった。
「どうせ、たいしたことのない勇者っすよ。自分の勇者様以上の勇者なんて、存在するわけがないっすからね」
「……これより下の勇者こそ、存在しないと思いますが」
「これって言うな」
 等と馬鹿話をしながらブレードの街をうろつく。
 歓迎の準備をしておけとは言ったが、あんまり腹を空かして城を訪ねては足元を見られると、適当な店に入って軽く腹ごなしをする。ダークエルフのカミュはいちいち人目を引きつけてしまうが、同時に、マサムネ、サシカイアを知っている人間も結構な数いたので、大した騒ぎは起きないで済んだ。多分、メイド服を着ているのも騒ぎにならなかった理由だろう。マサムネ=メイド連れ。もはやこの図式はロードス中で当たり前になっているらしい。
 適当に入った店はオープンテラスで、外のテーブルに仲良く7人座って食事とする。
 赤毛メイド娘が生肉を注文して店員をぎょっとさせたが、その他は問題なく、軽い食事を終える。
「しかし暑いな」
 マサムネがうんざりだと、襟元を広げて風を入れながらぼやいた。黒い外套の他にも、黒いシャツを着ているので、熱を吸収してしまうのだ。
 風と炎の精霊王が解放され、これでも過ごしやすくなった方という話だが、とてもそうは思えない。以前と全然変わっていないのではないという暑さだ。
「……そうですね」
 と、応じたサシカイアは涼しげである。メイド服のワンピースは黒いのだが、魔法がかかっているせいか、あまり暑さ寒さは気にならない。さすがは高名な付与魔術師ヴァンの手による品──と褒め称える気には、あんまりなれないが。
「私も暑いっすよ」
 金属鎧など着込んでいるせいで、ベルがへばった声を出す。これも魔法の品だが、着用者の快適さを追求する類の魔法はかけられていないらしい。と言うか、普通そうだ。
「人とは軟弱なモノだな。この程度の暑さなど、問題でもない」
 赤毛のメイド娘は、平然とした顔。
「お前みたいに火山の火口で平気な奴と一緒にするな」
 マサムネは言い捨てて、それから、おや、と視線を動かした。
 そちらにサシカイアが視線を動かすと、路地の方で何か騒ぎが持ち上がっているのが見えた。
「戦いっすか?」
 ベルが今すぐにでも駆け出しそうな顔で、身を乗り出す。
「あれは、リンチでしょ」
 素っ気なく、マリーが戦いでないと否定する。
「リンチは〜、いけませんよ〜」
 いつも魔法で快適に保たれた研究室に籠もっている上、黒一色のカルーアは当然へばっており、声がいつもより間延びしている。
 マリーの言葉どおり、騒ぎは戦いと言うよりは一方的に暴力を振るっているという風。
「……風の部族に、もう一方は難民ですね」
 サシカイアは、両者の格好から、その出自を推測する。風の部族の方が、難民に一方的に暴力を振るっているという格好だ。風の部族は数も多く、武器まで持っている。対して難民の方は女子供もいる上に丸腰で数も少ない。子供をかばうようにして殴る蹴ると言った暴行を受けている。
「イジメカッコワルイっす」
 ベルが戦槌つかんで飛び出そうとするが、その襟首をマサムネが捕まえて止める。
「暑いのにいらん騒ぎを起こすな。放っておけ」
「でも、せっかくの戦いっすよ〜。暑いからこそ、戦ってスカッとしたいっすよ」
「今晩ベッドの上で俺が戦ってやるから、それで我慢しろ」
「それも確かに戦いっすね」
 けろっと、ベルが態度を変える。マイリーの教えでは、男女の関係もまた、戦いなのだ。
「……しかし、本当に難民問題は深刻になっているみたいですね」
 サシカイアは当然、余計な面倒に関わるつもりはない。だからぬるい目で一方的な暴行を加える風の部族を眺めるだけだ。
 これだけの騒ぎになっているのに、周りの者は誰も止めようとしない。風の部族と見える者達は、視線でもっとやれとけしかけている様子だし、それ以外の者達は、暗い瞳で眺めるだけ。関わって自分が的にかけられるのはごめんだとばかりに、足早に立ち去る者もいる。
「風の部族は、勇敢で正義を愛するってとかって聞いてたけど、大嘘ね」
 カミュがふん、と鼻を鳴らす。
「いちいち私たちダークエルフを悪者扱いするけど、人間だって大して変わらないじゃないの」
「まあ、それだけ、フレイムはきつい状況という事ね。エンシェントドラゴンに戦いを挑もうなんて思うくらいに」
 正気じゃないわ、と呟いて、マリーは曰くありげな視線を、赤毛メイド娘に向けた。
「いい迷惑だ」
 言葉どおりの口調、表情で赤毛メイド娘がぼやく。
 カシューは、本気でエンシェントドラゴンに挑む事を決意していた。それは、ブレードの街に入ってちょっと調べるだけで判明した。隠していないのだから当然だが。そのために、現在カシューは大規模な部隊を編成し、大型の飛び道具を集めているらしい。空を飛ぶドラゴンと戦うには、飛び道具は必須。それも、ただの弓やボウガンでは、竜の鱗は貫けない。その為、バリスタやカタパルトと言った、大型で強力なモノが必要となる。
「まあ、魔法使いがいない時点で、勝ち目なんて欠片もないけどな」
 相変わらずフレイムは宮廷魔術師募集中らしい。
 マサムネは立ち上がって勘定を済ませると、城に向かうぞ、と宣言した。