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プログラムASZ

秋…。

昨日は小雨がぱらついていたが、今日はいい天気だ。
秋といえば文化祭の季節だ。もうすぐ西音寺女学院でも文化祭が催される。
綾香から呼び出され、土曜日の昼間っから寺女(てらじょ)の校門前にいる。
「ったく、おせーなー」
ただ、立っているだけだが、さっきから下校中の女生徒(女子校だから当然だな)がクスクス笑って見ている。
オレがそちらを向くと、少しの間は静かになるが、またすぐに笑い声が聞こえてくる。
いいかげん、うっとうしさを感じていると…。
「浩之、お待たせー!」
と言って、この状況の張本人の綾香が駆け寄ってきた。
「人を呼び出しておいて、待たせんなよ」
「あら、ずいぶんお腹立ちのご様子ね」
「あったりまえだ。三十分も待ってりゃーな」
「はは、ごめん。器材の搬入が予定より遅れちゃって、こっちに来るのが遅くなっちゃったのよ」
「しょーがねーなー、貸し一つにして置く」
ふと、落ち着いて周りに注意してみると。今度は何か妙に騒がしい?
みんな、露骨に視線をこちらに向け、騒ぎ立てている。
「なあ、なんか周り中が見てる気がするんだけど?」
しかも、なにか突きささるような視線まで感じる。
「まあ、それはそうでしょうね。寺女でも美人格闘家と名高いこの私と、仲良く話している他校の男子生徒、気にするなってほうが無理でしょ」
「オレは、見世物じゃねーぞ」
「まあ、それに近いんじゃない?」
うーん、オレばっかこんな目で見られるのは何か納得がいかん。
よし、今度は綾香をうちの校門前に呼び付けてやろう。
他校の生徒にさらし者なる気分を味わうがいいわ。
オレが復しゅうの計画に没頭していると、
「じゃあ、こっち」
と言って、綾香はオレを中に招き入れた。

案内されたのは、大きな講堂だった。
さすがは、西音寺女学院。ちょっとシックな作りの大講堂だ。
来栖川グループが出資しているだけはあるな。
「ここで、出し物をやるのよ」
中に入って見ると、講堂の中には舞台道具が隅に並んでいた。
刀や着物が並んで居るところを見るとどうやら時代劇っぽいが、中には明治時代を思わせるような道具もある。
手に取ってみた。
やっぱり、竹光。だけど、結構リアル。
やはり、男子足るもの一度はチャンバラに燃えるものだろう。
オレも昔は雅史たちといっしょによくやったものだし、る○うに剣心も愛読している。
「お久しぶりです。浩之さん」
声をかけられた方を見た。
「セ、セリオ!?」
そこに立っていたのは、メイドロボのセリオだった。
「試験期間が終わって、研究所に戻ったんじゃないのか?」
「はい、試験期間後、データの抽出も終わりました」
「じゃ、なんでここに?」
その疑問に対して綾香が答えをくれた。
「あ、文化祭の出し物のサポートの為に私が借り出したのよ」
「さぽーとぉ?」
オレは何か間延びした声で聞き返してしまった。
「そっ! セリオには台本や時代考証のなんかのバックアップと殺陣(たて)のレクチャーをしてもらうわ。そのためのデータはすでに入力済みよ」
「へぇー! セリオは何でもできるんだな」
「はい、ありがとうございます」
少し、セリオが照れたような気がしたが、気のせいか?
「綾香、それでオレは何を手伝うんだ!」
「とりあえず、今日の所は大道具の移動と、殺陣の確認よ」
「たて?」
オレは聞き返した。
「そ、殺陣。知らない? アクションシーンのことよ。浩之に私の相手をしてもらおうと思ってね」
「ちょっとまて、聞いてないぞ」
オレは慌てて言い返した。
「当たり前よ、言ってないもの」
綾香は当然のように言い返してくる。
「浩之の方は、学祭は終わって暇してるんでしょ!」
「まあ、確かに暇だけどな。で、当然! 報酬は出るんだろうな?」
「報酬?」
「ボランティアじゃねーんだから、相応の報酬を用意してもらわねーとな」
「あら、意外とケチくさいのね」
「そっちこそ。来栖川のお嬢様のくせにタダで人を使おうとすんなよな」
綾香は仕方なさそーに考え込んだ。
「じゃあねぇ、私のひざまくら! これでどう?」
「だめ。それは一度報酬としてあったからな、何か別のものにしてくれ」
綾香は少し考え込んでから、
「うーん、そうね。再来週の連休に温泉旅行なんてどう? うちの別荘の近くにいい温泉があるのよ。姉さんも誘ってさ」
温泉か、悪くないな。
しかし、ここですぐに飛びついては軽く見られるかもしれない。
よーし、ここは一度しぶって。
「うーん、今一つだな」
「あら、浩之ならすぐ飛びつくと思ったのに、混浴もあるのよ」
混浴! 男のロマンを結晶化したような響きが…。
いや、ここで折れてはいかん!
似たようなセリフに何人の主人公が、
「実は水着着てました!」
というオチに騙されたことだろう。
ここは確認の意味でも…。
「どーせ、水着着て入るんだろ?」
綾香は不思議そうに聞き返してきた。
「なんで、温泉入るのに水着がいるのよ?」
「それでいいです!(即答!)」
「じゃ、決まりね」
なんか、計略にはまったような気がするが、報酬の魅力はそれを補ってあまりある。まあよしとする。
「じゃ、ここに道具を運び込むから、浩之はこっちに来て」

数十分後
「結構な量じゃねーか…」
オレは肩で息をしながら、綾香に向かって言った。
「まあね、これで大方のものは運び込んだから、今日は殺陣の説明を一通りしたらお終いだから」
綾香はあまり疲れてなさそうだ。
まあ、重たいものは大体オレとセリオが運んだんだから、当然か。
「ま、しかし、文化祭でここまでやるかね」
やけに専門的なものまで運んだ物の中にあったような気がする。
「やるからにはトコトンやりたくなちゃうのよねー。性分かしらね」
気持ちはわからんでもない。
「さっ、休憩は終わり」
オレは、さっきから疑問に思っていたことをぶつけてみた。
「そーいえば、準備だけじゃなく殺陣までオレが関わるんだ?」
「あっ、それはね。時代物をやろうって決まったんだけど、私の相手役ができる人がいなかったのよ」
綾香は肩をすくめながら答えた。
わからんでもない。エクストリームチャンプの綾香の動きについて行ける女子高生などそこいらにいるわけがない。
オレの知る限る葵ちゃんと坂下ぐらいのものだ。
「最初は、葵に声を掛けようかと思ったんだけど、身長差がね。好恵は頼んでもやってくれそうにないしね」
確かに、綾香と葵ちゃんの身長差は10センチ近くあるし、坂下はこんなこと絶対にやらないだろう。
「でね、私の相手ができて、身長でも釣り合いがとれて、いっつも暇してる浩之に白羽の矢を立てたってわけよ」
「なんか、ずいぶん毒気を含んだ白羽の矢だな」
「あはは、気のせいよ、気のせい」
綾香はとぼけた声で言う。
「まあ、引き受けちまったし、報酬は後払いだからな。最後まで付き合ってやるよ」
「ふふふ、ありがと」
笑いながら綾香がお礼を言った。
「セリオは殺陣のレクチャーなんかできんのか?」
「大丈夫よ、サテライトサービスがあるのよ。古今東西の剣術のデータは来栖川のデータベースに入っているわ」
「なるほどな、空から毒電波がビビビッってやつか」
オレはセリオから聞いた、システムの事を思い出した。
「そーゆーこと。じゃ、セリオ始めて」
「はい、綾香お嬢様」
言ったすぐに、セリオはサテライトシステムを起動したようだ。
「来栖川ホストコンピューター『雫』に接続します。剣術データダウンロード開始」
ピー、ピー、ビー。
ん、何か変な音が…。
「ブラックボックス内のプログラム『ASZ』と干渉」
セリオの様子が…。
「メインプログラムに『ASZ』が侵蝕」
なんだ。
「ガードプログラム作動」
おいおい。
「ガードプログラム大破」
なんかシャレにならない気が…。
「侵蝕率50%、60、70…」
ブウンッ!
「お、おいセリオ?」
「セリオ?」
セリオの様子がおかしい…。
「プログラム『ASZ』起動します」
セリオは、オレと綾香の声を無視し、小道具方に歩いていく。
そこに置いてあった刀を手に取り、つぶやく。
「竹光ですか? 仕方がないですね」
綾香がそのセリオに近づき声をかける。
「セリオ、ちょっとどうした…」
言葉が途切れ綾香が飛び退り、身構える。
さすがにその動きは速い!
オレも綾香との勝負の後も、練習しているがまだ綾香には及ばない。
しかし、なんで身構えるんだ?
「おい、綾香どーしたんだ?」
「わからないけど、あの距離にいたらやられると思ったのよ」
言葉の端から緊張が伝わってくる。
「いい反応ですね」
セリオが日本刀(竹光だが)を携え振り向く。
な、なんか雰囲気が違うぞ。
「どうしたんだ、セリオ?」
シュッ!
言った瞬間に、セリオが刀をオレに向かって突き出してきた。
間一髪でそれを避けることができた。
「あっ、危ねー…」
「セリオ、私の言うことが聞けないの!」
綾香はきびしい口調でセリオを制止しようとする。
「メイドロボはシステムで飼えます、人は金で飼えます、ですが壬生(みぶ)の狼を飼うことは、何人(なんぴと)にもできません」
おおよそ、セリオらしくないセリフを吐いて、左手に刀を構える。
左手にすぐにでも突き出せるように刀を持ち、体を半身に開いて重心をやや後ろに置く。
右手は、手の平を開き切っ先にそえる。
「あ、あの構えは! まさか、あの…!」


突然のセリオの暴走!セリオのシステム一体なにが?
プログラム『ASZ』とは?



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