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いいんちょ先生

≪第二章 いいんちょの決心≫



「ふぅ……、何とか人心地ついたぜ」
ヤクドシェイクを飲み干して幸せそうに言うてる、ホントにお気楽やなぁ。
「藤田くんて、ほんまお気楽な人やなぁ」
思わず口を突いてしもた。
「オイオイ、お気楽って…それじゃ何にも考えてないみたいじゃねーかよ」
面白くなさそうに言うてくる。 でもお気楽そうやしなぁ…。
私は何も答えんと、ポテトを頬張る。
「今日のいいんちょは、何か突っかかってくんなぁ……。 あっ……」
藤田くんが、急に真面目な顔しよった。 何やの、お腹でも痛うなったん? せやからシェイクを急に飲んだらあかんって言うたのに、と思うてると。
「いいんちょ…」
藤田くんが私に顔を寄せて、囁き掛けてきた。
どないしてん、急にマジになって。 チョット驚きながらも顔を近づける私。
「…いいんちょ……、今日、あの日か?」
…………………………………………は?
私はたっぷり10秒は固まってた。 その間も藤田くんは、真剣な表情で私を見つめてる。
「辛いんだったら、言ってくれりゃオレも気を使ったんだぜ? 大丈夫かよ」
「なっ!」
自分の顔が、赤うなっていくのが判る。
「結構痛いんだろ? …その、せい……」
「なっ、なっ、何ボケた事言うとるんや! このドアホ!」
言い終わる前に目と鼻の先にある、藤田くんめがけて絶叫してもうた。 何考えとんのや!? 私は真剣に考えてるのに、何を言い出すかと思えば、せ……〜〜〜っっとにもう!
「な、なんだ、違うのかよ…」
引きつった顔して、更にボケた事言うてる。 違うわ〜、アホ〜!
「何処をどう考えたら、そないなるんや! 藤田くんの事考えてたんや!」
「へっ、オレの事? 何を?」
「〜〜〜っ! 藤田くんの成績不良の事や、さっき話してたやろ! ……あっ」
気がつくと周りの注目の的になってる。 ううっ、視線が痛いわぁ。
ここもあかんわ、早々に場所変えよ。



公園。 うん、ここならええわ。
ベンチで頷くと、藤田くんの声が聞こえる。
「はー、ここなら大丈夫かな」
「……」
何も言わずにジッと見つめてやると、慌てて視線を逸らす藤田くん。
「ははっ、わりぃ」
「…乙女に向かって言う台詞やないわ、何やのあれ」
さっきは、思いきり恥ずかしかったんや反省しぃ。 ううん、猛省や!
「…でもよ、いいんちょはもう乙女じゃ……」
キッ
「……すいません」
「ふん!」
しばらくの沈黙の後、藤田くんが話しかけてきた。
「委員長もこっちで進学するんだろ?」
何気なく言ってくるけど、何となく顔が引きつってる。 まぁ、さっきの事は水に流しとこうか、でないと話が進まへんし。
「……はぁ、そのつもりや。」
「じゃあ、多少レベル落してもいいんじゃねーのか?」
「うん、まぁ。 でも今までやってきた事を無駄にするつもりはないし。 レベルを落としたとしても、せいぜいW大かK大の文系やよ」
「おいおい、それはチョット…」
言いかけのところで口を挟む。
「藤田くん言うたやない、神戸に戻るなって」
口を半開きにしたまま、私を見ている藤田くん。
「私それでもいいかなって思うてるよ。でも大学違ってもうたら、一緒にいられんようになってしまうやん。 いやや、そんなん…」
私はうつむきながらそう言うた。 今は藤田くんと離れとうない、同じ大学に行きたい。 でも今までやってきた事を、全部ドブに捨てるような真似はしとうない。
だって、そないな事したら…私のそれまでの時間は無駄になってしまう。 それだけはイヤやった。「でもなぁ、成績の奴がさぁ」
返ってくる言葉は、勘弁してくれって口調でいっぱいやった。
私は藤田くんに向き直り、キッと顔を睨んでやる。 途端に藤田くんの顔が引きつるけど、お構いなし、こうなったら最後の手段や。
「私が教えたる! みっちり仕込んだるさかい覚悟しとき!」
アッ…思わず大声で言ってもうた、周りの人もこっちを見てる…。 藤田くんも周りが気になるみたいで、視線を回りにキョロキョロ向けてる。
「そ、そんなこと言ってもよぉ」
「なんやの? 神岸さんはええのに、私やったらあかんの?」
「だから、あかりは関係ねぇーって!」
「なら、問題無いやないの」
何か自分でも、訳が判らんようになってるわ。
「って、言ったって塾があんだろう? いつ教えるんだよ?」
「放課後に決まってるやんか!」
もうかまへん! 一度ついた火は消えへんわ、お構いなしで言ってやった。
「だから、塾が…」
「かまへん、今塾は週四日や。 それを週二日にすれば何とか時間取れるわ」
「おいおい、いくらなんでもそれはやりすぎだぜ。 委員長の成績が下がったら、元も子もないじゃねえか」
驚いた顔をする藤田くん、動揺してるわ。 でも動揺するより勉強してぇな。
「私も頑張るから藤田くんも頑張ってぇな。 頑張りは同じくらいやから、私は現状維持の藤田くんは成績アップの為の」
「でも、親とかは」
「ええんや、こっちの大学に行くって言うたら、お母さんかていいって言うわ。 何より娘がこっちに居てるんやし学費も減る、納得させてみせるわ」
何となく勢いやけど、こうなったら行くとこまで行くわ。 神戸の女のど根性見せたる!
「ええね! 藤田くん!」
キッ! と藤田くんを見据えて言うと、藤田くんは私の迫力に押されてか顔を引きつらせて一言だけ答えた。
「お、おう…、わかった」



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