織部大学(仮称)創設趣旨説明書(案)
私たちの住む東濃西部地区は、約1,200年の間、陶磁器を焼き続けてきました。祖先から受け継がれ、古くからの伝統をもつ美濃焼は、私たちの地場産業です。美濃焼は桃山期に安土桃山文化の一翼を担い、近世においては日本の食生活に陶磁器を定着させるなどの役割を果たすと共に、確かな技術と秀逸なデザインによって、外貨の獲得にも貢献してきました。
その結果、現在この地方の事業所数と従業員数は他を圧倒し、美濃焼は国内シェアーの約6割を占めており、質・量ともに日本最大の生産地となっています。
また、当地区は良質な製品を安価に供給するだけではなく、人間国宝の陶芸家を何人も輩出するなど、高いレベルの情報を発信し続け、日本の文化・芸術にも大きく貢献してきました。
しかしながら、プラザ合意にもとづく円高と国内人件費の高騰、及びバブル経済の崩壊などの構造的な不況が定着する中で、美濃焼は疲弊してきました。
輸出の壊滅的な不振と国内消費マインドの減退は、企業間の過当競争を従来にも増して激化し、中小零細企業からなる産業界に低賃金・長時間労働を余儀なくし、後継者難を助長しています。さらに、陶磁器の価格破壊を意味する100円ショップの出現によって、いまや地場産業は消滅の危機にさらされています。
美濃焼が衰退してきた要因には、外的なものと内的なものがあります。外的要因は、前述の国政に起因する構造的な問題であり、一産業界の努力だけではいかんともし難いものであります。一方、内的要因には、産業のもつ構造的な問題と、市場に対する戦略的な問題があります。産業のもつ構造的問題とは、前述のような中小零細企業の不利な側面に起因する諸問題であり、市場への戦略的問題とは、この十数年来の国内外の情勢変化に対応して、適切な戦略変更が十分できなかったことに起因する諸問題であります。
西欧に対する経済的なキャッチアップを終えたいま、国民は国際化と情報化により、価値観の多様化を進めており、物質の量的な充足から、人間としての自己実現と生活の質の向上を求め始めています。
これに対し、地場の陶磁器産業では、従来から供給者側での論理で産業が構築されており、需要者側の論理に立脚した産業構造への転換や、流通機構の改革が未着手の部分として残されてきました。
このため、美濃焼を地場産業として、多治見の基幹産業として再び蘇らせるために、産業界は早急な顧客本位の立場でのパラダイムの転換と、産業の再構築を求められています。そして、そのためには産業の長期的な戦略を立案するためのシンクタンクが是非とも必要であります。
一方、多治見市は中心市街地活性化法に依拠し、「オリベストリート構想」を初めとするビジターズ産業を立ち上げるための努力を行っています。
しかし、現段階において、本構想は呼び込んだ客を回遊させるための面整備や、リピータを引き付けるシーズの量と質が不十分であり、かつ事業の規模が地場産業の規模に比較して小さいため、地場産業に対する活性化対策としては限界があり、万能とは言えません。
このような認識のもと、私たちは長期的な展望で地場産業を発展させるために、産業の戦略を研究し指導する機関として、シンクタンクとなる大学の創設を発起しました。
大学は小さく生んで大きく育てる構想のもとに、第一段階では地場産業のマーケッティングを初めとする戦略と、意匠・技術・流通などを研究し、第二段階では食を中心とした日本の文化を研究します。そして、将来は日本の文化・芸術を世界に啓蒙する情報の発信基地にしたいと考えています。
さらに、本大学は「役に立つ大学」と「人格形成」を理念とし、市民に開かれた大学を目指し、市民の自己実現と高齢者生涯学習の場の機能も持たせます。
そして、経営は、少子・高齢化による高校卒業生の減少や高齢者の増加、それらに伴って発生する余暇の利用や生涯学習などの要求に応え、社会の情勢変化に十分対応するための門戸を確保します。そのために、通信教育機関の設置や夜間・休祭日授業の拡充を図ると共に、他大学からの学部編入を容易にし、かつ広く外国人留学生を受け入れて、国際化を目指します。そして、より高い学術レベルや多様なニーズに応えるため、できるだけ早い機会に大学院を併設したいと考えています。
また、本構想は市の陶磁器意匠研究所や県のセラミックス研究所など、現存する人的・物的経営資源を最大限に活用できることが、速やかな大学創設を容易にし、かつイニシャルコストを縮減すると共に、さらに高い学術的なレベルへの到達を可能にすると期待しています。
私たちは、この地方固有の歴史と伝統のある地場産業を根底から活性化させたいと願っています。そして、多治見の基幹産業を何としても活性化させなければならないと考えています。陶磁器産業を蘇らせることは、他の都市では望んでも得ることの出来ない恵まれた産業立地条件や、人材・技術を生かすばかりではなく、優れた伝統工芸を継承・発展させるという特別な意義を持ちます。そして、大学の創設によって地域経済が活性化し、雇用が促進されるならば、多治見市は「若者の躍動する、明るく健康的なまちづくり」を進めることに、未来が開けてきます。
私たちは、「文化と芸術の香り高く活気のある多治見市」を若者と共に構築し、地域経済に貢献することを切望するものです。
以上、「織部大学(仮称)」創設の趣旨にご賛同いただき、構想実現のために、多治見市民と関係各位のご理解・ご協力を賜りますよう、切にお願いする次第であります。