LP5年。
 ランス王の手によって、大陸は統一された。
 そう、統一。本当の意味で。
 以前の聖魔教団M・M・ルーンの手による統一は、人類圏のみに限られていた。空中浮遊要塞都市である闘神都市。更には、人を凌ぐ能力を持つ、闘神を擁したM・M・ルーンですら、それが限界だった。
 人類圏統一後、ルーンは魔人領に攻め込んだ。
 しかし、あっさりと敗北。せっかくの人類圏統一が、その為に瓦解する。
 人の天敵――魔人。
 人は、彼らには決して敵わない。そうした思いを植え付けるだけの結果に終わってしまった。
 人は、彼らの気まぐれで、生かされている。
 魔王ガイの気まぐれ――人類と魔物の棲み分けにより、人は、国を作った。文化を築いた。
 しかし、それも魔王の意志次第で、即座に無と帰する。その程度の物。一度魔王がその気になれば、人は大人しく頭を垂れ、刈られるのを待つしかない。そうした、無力な存在。
 ランス王は、人類圏を統一した。しかし、その先は――ない。
 後は、魔人の顔色をうかがい――その気まぐれに期待するしかない。
 そうした、思いがあった。
 だが、ランス王はその思いを笑う。
「俺様は、最強だ。だから、負けるわけがない」
 あまりにも、過剰すぎる自信。だが――過信ではなかった。
 人類圏統一まで、破竹の勢いで駆け抜けたリーザス軍である。ランス王に従って、勝利の連続に酔った。まさしく、最強軍団だ。だが、それも、人類圏を統一した時点で終わる。魔人領は、不可侵の存在。手を出してはいけない。そうした、限界説。
 だが、人々はこのままではどうしようもないと言うことも理解していた。
 魔人領は、内乱状態にあった。
 前魔王ガイの死亡により、人類との共存を望む一派と、人類は家畜であると前々魔王ジルの時代を取り戻そうとする一派との争い。
 そして、その戦いは、人類との共存を望む一派の敗北に終わった。
 つまり、彼ら、魔人達は雪崩を打って人類圏に襲いかかるだろう。そうなれば、人は再び家畜として生きるしか無くなる。
 そうした、追いつめられた状況でもあった。
 おそらく、ランス王を除く人間の殆どが、どうせ魔人に滅ぼされるならば――窮鼠、猫を噛む――そうした、追いつめられた心理でもって、魔人領に攻め込むことを是としたであろう。
 そして、結果は――
「ランス王の最強軍団」
 この名が、偽りでないことを確認することとなった。
 魔人領に魔王不在という事情もある上、その覚醒していない魔王が味方をする。更に、敗れた人類共存派の残党の魔人が味方をするという幸運があったにしろ、人類は、魔人に勝利したのだ。
 信じがたい事に。
 だが、現実。
 こうして、魔人領を含む、初の大陸統一が成し遂げられた。


 しかし、統一の喜びに酔う暇はなかった。
 人類の前に、魔王を凌ぐ悪意の存在が現れたのだ。
 創造神「ルドラサウム」
 大陸を、人を、魔王を、魔人を――作り上げた存在。
 その、創造神が、人類の敵に回ったのだ。
 人々は、絶望する。圧倒的なまでの能力を持つ、神の軍団エンジェルナイト。神の力による、破壊。魔人を除けたことにより、人は、更に強大な敵を得てしまった。
 絶望。無力感。虚無感。諦観。
 負の感情に支配される人々の中、矢張りランス王は――ランス王だけは、諦めなかった。
 全軍を上げての、神との戦い。
 創造神というのは伊達ではなく、人の力では、神に敵う術はなかった。
 だが。
 結局の所、創造神は鎮められる。
 魔人ワーグの夢操作の力により、彼の一番の喜びである「戦争」の夢を見せられ、眠りについたのだ。
 ランス王は、またもや勝利した。
 喜びに湧く人々。勝利を記念する式典が開かれ、ようやく、安堵しながら、眠りにつくことが可能となった。
 偉大なる覇王ランス。
 彼がいれば、人類の前にどれほどの困難が立ち塞がろうとも、必ず、切り抜けることが出来る。
 最早、それは、信仰に近い思い。
 だが、ランス王は、喜びに湧く人々の前から、姿を消した。
 忽然と。


 そして、二ヶ月。
 平和となったはずの世界は、再び混乱の中にあった。
 信じがたいほど、平和は脆い。脆すぎた。
 ランス王という、抱くべき王が不在になったせいなのか、それとも、争乱は必然であったのか。
 大リーザスは割れ、併合された各国は独自の路線を取り始める。そして、その各国にも、不穏の色がまざまざと見え始めている。


 それが、今の大陸だ。


 メナド・シセイは、戦場で剣を振るう。
 彼女の、理想とする世界を目指して。
「皆、こちらに集まって!」
 迫り来る、敵の与える恐怖。それを押し殺して、メナドは味方に号令する。
(僕は、指揮官だ。指揮官が、怯えを見せちゃ、いけない)
 指揮官の怯えは、容易に部下に伝染する。部下も、メナド同様、恐怖を感じていることは間違いない。それが、踏みとどまって戦えるのは、指揮官に対する信頼故だろう。
 その指揮官が怯えを見せたら、部下は耐えることが出来なくなる。この場で、部隊が混乱するようなことになれば、一瞬で敵に飲み込まれてしまう。それは、避けなければならない。
「いいかい、これから、こちらから撃って出るよ! これで、間合いを稼いだら、この場を放棄して、後方に下がるよ!」
 ここは、既に限界だ。
 敵に陣地を明け渡しても、いったんは後方に下がる必要がある。
 断続的に兵士を投入できる敵軍に対して、こちらは戦い続けている。ここで一端引いて、立て直さなければ、どうしようもない。
 まだ、後方に用意された、防御陣地はある。そこで、再び決戦を挑む。それしか、手はない。
 メナドは、自分の周りに集まってきた味方を眺める。
 長いつき合いの、古強者の兵士。流石に、今回ばかりは勝手が違うのか、その顔にいつもの余裕は見られない。
 最近配属されたばかりの新兵。可哀想なくらいに顔が青ざめている。
 それでも、皆、メナドの指示に対して、無言で頷く。
 指揮官の命令に応え、統一された行動をとる。それこそが、生き残るために必要なこと。そう、彼らは理解している。
「それじゃあ、タイミングを合わせて――行くよ! 突撃!」
 剣を振り上げ、部隊の先頭に立って敵に向かう。
 立ち塞がる敵を打ち倒しながら、メナドは内心で叫んでいた。
(王様! 今、何処で何をしているの? お願い! ぼくたちを助けて!)

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