武力行使。
後継者争い、最後の札は切られた。
後は口ではなく、剣を持って、己の主張を押し通す。対抗勢力を叩きつぶす。そこに、妥協は存在しない。それしかない状況である。
これまで、武力行使を躊躇っていたエクスも、ラファリア側がその札を切った以上、同様の手段を選ぶことは間違いない。心理的な抵抗感など、失われているはずだった。
そうなれば、結局の所、数でこそ勝る物の、ラファリアのほうが不利であることは間違いない。
何しろ、大リーザスの常勝軍団。それを相手にするには、AL教団信徒兵の能力は足りない。これまで、反乱という形で、さんざんにリーザスを苦しめてきた。しかし、苦しめることが出来たのは、反乱だったからである。これが、まともな戦争ともなれば、リーザス軍に一日以上の圧倒的な長がある。
そこで、キンケードの考えた手段。それは、裏切りである。
幸いと言うべきか、ラファリア、キンケードの結びつきは、これまで秘密となっている。
ランス王は不在。それでも、遠慮があった。その為、二人の出会いは、全て密会だった。普段、普通に顔を会わせたときには、事務的以上の会話を交わさないようにしてきている。ばれていない、はずだった。
幸いなことに、リーザスの諜報部隊は、諜報部隊の体をなしていない。
リーザス忍軍お頭、見当かなみもまた、マリス・アマリリス同様、リア王妃暗殺事件以来、使い物になっていない状況である。何しろ、裏の要人警備の責任者である。いくら、あの暗殺を防ぐことは難しかった、とは言え、かなみは深く責任を感じていた。更に、マリスの酒への耽溺。後継者争いの発生。自分が、もう少ししっかりしていれば。そう考えることを止められない。元々、義務感が強く、そう言う具合に自分を追い込む部分の多々あるかなみである。そして、かなみが使い物にならなければ、その配下の諜報部隊もまた、きちんと機能することが出来ない。
正直、キンケードには不安もあった。ラファリアと自分の結びつきがばれているのではないか。
そんな不安を抱きつつも、キンケードは二十一派、黒白赤青4軍に合流する。
そして、自分の心配が杞憂であることを知る。
お人好しの大男、コルドバ・バーンを初めとして、知将と称されるエクスもまた、キンケードとラファリアの関係を、疑いすらしなかった。
これには、ラファリアの性格による部分が大きいだろう。
自分たちには体を提供して、後ろ盾になって貰おうとしたラファリアの事は、エクスらの記憶にも残っている。しかし、そのラファリアが、キンケードの所にも出かけていったとは、誰も考えていなかった。何度も繰り返してきたように、強烈な上昇志向を持つラファリアである。そのラファリアにとって、キンケードは取るに足らない存在のはず。とてもではないが、後ろ盾になり得ない人物。だから、両者が結びつく──男女の関係になる、等と言うことは、エクスらは初手から考えつきもしなかったのだ。
少々、複雑な思いも感じたキンケードであるが、自分の感情を度外視して見れば、それは幸いなことである。
こうして、キンケードは4軍に合流したまま、時を待つこととなった。
そして、両者の激突。
ラファリア・AL連合軍とリーザス4軍の戦い。
誰もが、リーザス4軍の勝利を疑わなかった戦い。
当初は、大方の予想通りに展開する。
圧倒的な破壊力、突進力を持つ赤の軍が突撃、蹂躙する。そして、その赤の軍が切り裂いた場所に青の軍が陣取り、ラファリア・AL連合軍を分断する。そこへ、満を持して、白黒の軍が襲いかかり、分断された部隊を各個撃破をする。それぞれの軍団の特色を生かした、統一戦争時、何度も繰り返された戦法。それだけに、問題なく展開されていく。
ラファリア・AL連合軍は、何とか踏みとどまって戦っていた。AL教団信徒兵の死を恐れない戦い。そして、その人数の多さ。それは、このころから健在である。とは言え、その数の差も、圧倒的と言うまででもない。十分に対処が可能な数だった。
このまま、リーザス4軍の勝利で戦いは終結する。
そう思われた矢先。
幾度目かの突撃を敢行する赤の軍。リーザス最高の戦士でもあるリック・アディスンに率いられた精兵は、紙でも切り裂くように、あっさりとラファリア・AL連合軍を切り裂いていく。
赤の軍の背後を守りつつ、分断を更に確実なモノにしようとして、部隊を割り込ませる、コルドバ・バーン率いる青の軍。
その青の軍の動きが、いきなり停滞した。どころか、各所に混乱が発生する。部下の統率、と言うことでは、見かけに見合わず繊細で、確実なコルドバの部隊としては、明らかにおかしな、おかしすぎる混乱。
勿論、これはキンケードの裏切りによる。
この時、キンケードによって、コルドバは背後から刺殺されている。
主将を失った青の軍。更に、キンケードに従う部隊の裏切りにより、青の軍の混乱は、一気に高まる。あっという間に、防御力の高さで知られる青の軍は解体、分裂した。
これにより、赤の軍のほうも、敵中で孤立する。
元々、この裏切り、そしてその後の混乱を待ち続けていたラファリア・AL連合軍である。この機を見逃すはずもなく、反攻に転じた。
一瞬の呆然。それから、即座に4軍首脳部は立ち直る。しかし、既に彼らの手から、勝利はこぼれ落ちていた。
必死で連携を保とうとする4軍。しかし、その内の一軍、青の軍は、既に部隊としての体をなしていなかった。キンケードを主将の仇として、むやみな突撃を開始するものの、元々、突撃よりも防御に重きを置いた部隊である。自らの長所を封じた上に、連携を欠いた青の軍は、数で勝るラファリア・AL連合軍に飲み込まれていく。
更に、その青の軍の行動が、他の3軍の行動も阻害する。勝手気ままに動く部隊。それは、味方とは言え、邪魔でしかない。
4軍が連携し、互いに補いあうことで、数で勝る敵に対抗していた。その連携が失われる。一気に、戦場の流れはひっくり返る。
どちらも、連携を欠く。そうなれば、数が物を言った。
こうして、ラファリア・AL連合軍の勝利で、戦闘は幕を閉じた。
二十一派、ラファリア派、全軍をあげての決戦の勝敗。それは、その後の流れを決定付けた。
一度の敗北、しかし、取り返しの付かないほどの被害を、二十一派は受けていた。あまたの精兵達が、戦場に散った。もはや、AL教団を取り込んだラファリア派の数に抵抗できるだけの兵力は、残されていなかった。
二十一派は、何とか二十一を初めとして、マリス・アマリリスなどの要人を確保、JAPANへと逃れることとなる。
そして、再び天神橋の袂における戦い。
これもまた、ラファリア派の、キンケードの勝利によって終わろうとしている。
二十一派は、本拠地である長崎城に逃れようとしている。そこでの籠城戦。これに、未来はない。何しろ、周囲は敵ばかりである。JAPANの土着勢力は、ラファリア派に味方することを、先を争うように通達してきている。彼らに、援軍の当てはない。援軍がない以上、籠城したとしても勝利は望めない。ただ、決定的な敗北、決着を先延ばしにすることしか出来ない。無駄なあがき、そう言う行動でしかない。
「くくくくく」
キンケードは、ほくそ笑む。
栄光の未来は、自分の手の内にある。
正統リーザス軍総大将、キンケード・ブランブラ。
かつては、望むこともできなかった栄光の地位に、自分は上り詰めた。否、更には──
「私がリーザス国王の父。悪くない。──うだつの上がらない万年副将だった自分が」
小さく、呟く。
無論、これは公表できることではない。最後まで、秘されるべき事柄だ。
何しろ、ラファリアの産む子供は、ランス王の子なのだから。
しかし、他を圧する権力と、美貌の女、ラファリア。両方を得ることが出来る。全く、人生何が幸いするかわからない。
緩む頬。それを、キンケードは慌てて引き締めた。
まだ、早い。
そう、まだ早い。
勝利は、ほぼ確定している。
しかし、最後の最後まで、油断をするべきではない。
うだつの上がらない万年副将、そんな陰口をたたかれつつも、キンケードはその地位を揺るがせたことはなかった。上を望んでいない代わりに、下に落ちる危険も犯さなかった。用心深く、用心深く。それが、キンケードの立場を守ってきた。その特性が、キンケードにこの段階での喜びを禁じさせた。
城攻め、に関して、正直、不安は感じていない。
これまで通り、力押しで構わない。
圧倒するAL教団信徒兵の兵力。これを前面に押し出していけばいい。
味方の被害は、甚大なモノになるだろう。しかし、それがAL信徒兵である限り、まるで問題とならない。
キンケードは正直、AL教団を全面的に信頼しているわけではない。両者共に、互いを利用しようとしている。そんな関係である。ならば、AL教団信徒兵の数を減らしておくことは、将来へ向けての布石ともなるだろう。
ガーウィン・トローフ将軍。AL教団テンプルナイトの長は、現在、正統リーザス赤の軍、将軍の地位にある。そして、その配下のAL教団信徒兵は、赤の軍の構成員となっている。
そして、赤の軍が先陣を切るのは、リーザスの通例である。ある以上、問題なく、AL教団信徒兵を突撃させ、使い捨てに出来ると言うことでもある。
(いくら数を減らそうとも、気にする必要のない兵隊。全く、便利な限りだ)
キンケードは、内心で呟く。
全く、今にして思えば、ALとの共闘を考えついたラファリアは、大したものだ。素直にそう思う。全く、便利な連中。おかげで、キンケードは虎の子とも言える正規兵を温存したまま、これまで戦い続けてこられた。ありがたい事である。
「補給のほうは、問題ありませんね?」
キンケードは、側近に確認した。
モノを喰わせずに戦わせる。それは、馬鹿のすることだ。当然の如く、キンケードは補給の重要さを理解している。いかにAL教団兵を使い捨てにするとは言え、餌を惜しむつもりはない。
側近の返答は、キンケードの満足出来るモノだった。
当初から、補給には気を使ってきている。
当たり前のこと。それだけに、キンケードに手抜かりはない。また、こうした地味な仕事こそ、キンケードの得意とするところだった。
「さて」
キンケードは、再び戦場を見回した。
僅かに抵抗しつつ、リーザス軍は敗走している。このまま、長崎城に入城するに任せても、構わない。
しかし、キンケードは首を振って、配下に指示する。
「レリューコフ将軍に、敗走する敵を牽制するように伝えて下さい」
ただ、闇雲に追いかけ、突撃するだけのAL教団信徒兵では、効率的に敵に被害を与えることは不可能だ。ここは、もう一撃、しておきたい。
「ああ、ただし、敵に備えが無いとも限りません。深追いは禁じるように、伝えておいて下さい」
伝令が走り去る。
それを見送ってから、キンケードはぽつりと呟く。
「もっとも、わざわざ私が指摘するまでもなく、レリューコフ将軍であれば、その程度のことは、心得ているでしょうが」
自軍の将軍で、もっとも能力的に信用できるのが、レリューコフである。と言うか、逆に、信用できるのはレリューコフしかいないとも言える。
では、忠誠のほうはどうか?
そう問われれば、こちらも忠誠心などは皆無だろう。
しかし、裏切りの心配をキンケードはしていない。レリューコフ将軍の愛娘、アミラン・バーコフの身柄を押さえている。である以上、レリューコフは、内心どう考えていても、裏切ることが出来ない。そのはずである。
(全く、ランス王のやり方は、非常に参考になりますね)
キンケードはほくそ笑む。
ついでに、アミランの扱いについても、ランス王に倣っている。
権力者。それは、全く美味しい仕事だった。
(まあ、程々にしておきませんと、ラファリアの機嫌を損ねるかも知れませんね)
ラファリアの機嫌を損ねる。それだけは、避けなければならない。つまり、ランス王のように、大々的に自分のハーレムを作り上げることは不可能と言うこと。
しかし、つまみ食い程度は可能だ。それに、キンケードにとって、まずはラファリアであることには違いない。それ以外は、まさしく、つまみ食い以上ではないのだ。さほど、これは問題とならない。
見る間に、戦場からリーザス軍は駆逐されて行った。
レリューコフは、素早く、そして確実に、敗走するリーザス軍に一撃を与えていた。キンケードの期待通り、否、期待以上に。
「さて、そろそろ、ガーウィン将軍にAL教団信徒兵を纏めるように伝えて下さい」
だらしなく、伸びきったAL教団信徒兵の隊列。それを、僅かに馬鹿にしたように見つめながら、キンケードは告げる。
「焦ることはありません。どうせ、奴らに逃げ場所は、長崎城以外にありませんからね。一旦、兵を休め、その後、長崎城へ攻め上がります。──焦ることはありません。堂々と、ゆっくりと、進軍しましょう」
勝利を確信した顔で、キンケードは命令した。
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