#09 原点


「シンちゃん!」
 殆ど涙目のユウキの叫び。
 このままでは、シンジは負ける。どころか、命の危険もある。
 シンクロ率は、高いとは言えない。だから、ある程度はフィードバックは緩和されるだろう。しかし、目を貫き、さらには脳を破壊される。それだけの痛みを感じる。ショック死しても、おかしくはない。
 だから、声高に叫ぶ。
 発令所の誰しもが、敗北を覚悟した。
 が──
「うあああああああああああああ!」
 次に聞こえてきたシンジの絶叫は、決して敗北を認めたモノではなかった。
 初号機の両足が、膝を自身の腹にくっつけるように曲げられる。足裏は、使徒の腹に。
 そして、伸ばす。
 全身の力を込め、使徒の腹を蹴飛ばして、強引に初号機は逃れる。しかし、勢い余り、初号機は短く空を飛び、背後の兵装ビルに衝突してしまう。めり込むようにして止まる初号機。
 うつむき加減になった初号機の顔、その左の眼窩から、激しく、紫がかった体液──初号機の血が吹き出る。
 何とか、とどめを刺されるのは免れた。
 しかし──まだ、動けるのか?
 まだ、戦えるのか?
「シンちゃんは?」
 動きを止めかけた発令所の面々。つくづく、戦闘に慣れていない。他の軍事組織から、学者崩れと評されるのも、これを見れば仕方がないことだろう。
 しかし、ユウキの叫びが、思考停止、行動停止を許さない。
 背中を押されるように、自身に割り当てられた仕事に戻る。
「頭部破損、損害不明!」
「制御神経断線。シンクログラフ反転、パルスが逆流しています」
「回路遮断、せき止めて!」
「駄目です、反応しません」
「モニター反応しません。パイロットの生死不明」
「初号機、完全に沈黙」
 慌ただしい叫びが交錯する。
 その中で、小さな声がした。
「……す」
 その声に気が付いたのは、当然と言うべきか、ユウキだった。
「黙って!」
 鋭い、一喝。
 発令所に、一瞬で沈黙が戻る。
 固唾を飲むこと、しばし。
 そして──
「……ろす」
 確かに、声が聞こえた。
 シンジの声だった。
 安堵の息を零す、ユウキ。体から強ばりが抜け、蹌踉めいて蹈鞴を踏む。その体を、背後から田茂地が支えた。
「ありがとうございます」
 普段の調子の声に戻り、ユウキがお礼を言う。
「いえ……シンジおぼっちゃまも、無事で何よりです。……ひいふう」
 田茂地は答え、こちらも通信に注意を向けた。
 いまや、シンジの呟きは、はっきりと意味を持った言葉として、皆の耳に響いていた。
 その声を聞いたユウキ、田茂地の顔に、不安はなかった。全てが、もはや解決する。そんな、安堵に似た表情が現れている。
「……殺す。……たたっ殺す!」
 シンジの言葉は、呟きから叫びになっていた。
 そして──
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!』
 その叫びに唱和するかのように、初号機が、吼えた。


 あいつの父ちゃん、人殺しだってよ。
 ──違う
 妻殺しだろ。母ちゃんが言ってたよ。
 ──違う。
 僕のママが言ってたよ、自分の妻を、実験動物に使って、殺したんだって。
 ──違う。
 非道い奴だ。だから、そんな子と遊んじゃいけないんだって。
 ──なんだよ、それ。僕が、何をしたって言うんだよ!


 いじめは、毎日、繰り返される。
 上履きが無くなる。
 日常茶飯事。
 ノートに落書き。
 日常茶飯事。
 誰も、一緒に遊んでくれない。
 邪魔者扱いされる。
 そんなことは、当たり前。
 誰かの財布が盗まれた。
 犯人は、碇の奴だと思います。だって、奴の父ちゃんは人殺しだから。
 犯罪者の子供は、犯罪者です。
 碇、悪いようにはしないから、先生にだけは、本当のことを話してくれ。
 ──なんだよ、それ!
 守ってくれる人間は、いなかった。
 いじめ? 碇、いじめられる人間の方にも問題があると、先生は思うぞ。
 ──なんでだよ!
 養い親、「先生」の家も、安息の場所にはほど遠い。
 全く、何を考えているかわからない子供だな。
 ──わかろうとしていないじゃないか!


 いじめが、嫌がらせから、暴力的なモノになるまで、時間は必要なかった。
 殴られる。
 先生に言うんじゃないぞ。
 蹴られる。
 これは、いじめじゃないぞ。
 そう、「てんちゅー」って言うんだ。
 お前が、悪いことをしたから、僕らが天に代わってお仕置きをしているんだ。


 少しずつ、追いつめられていった。
 そして、あの日──


 シンジは、カッターナイフを、ポケットの中で握りしめていた。
 クラスメート達が、いつものように、シンジを教室の隅に追い込み、殴る、蹴るをしている。
 そちらを、咎めるような視線で見ている者もいた。
 しかし、それはごく少数。そして、そう言った者達も、決して助けてくれない。何の役にも立たない。
 そんなことは、これまでで、良く分かっていた。
 何だよ、お前、碇の味方をするのか?
 犯罪者の味方は、犯罪者だぞ。
 そう言われ、自分がいじめられないために、目をつむる。見ない振りをする。どころか、自分が犯罪者の味方でないことを示すため、いじめに加わっても見せる。
 教師は役に立たない。
 いじめっ子達も心得たモノで、教師の前では行動しない。咎められれば、ごめんなさい、もうしませんと謝る。そうすれば、丸く収まるから。
 そして、頭を下げた分のストレスは、教師のいない場所で、シンジにぶつけられる。
 「先生」の家に帰っても、救いがない。
 ほら、これがシンちゃんの部屋よ。
 自分の部屋が欲しいって言ってただろう。
 示された、庭の外れに建てられた、没個性なプレハブ小屋。
 お前はここで暮らせ。
 お前は、自分たちの家族ではない。
 そう言っていた。
 ──このままでは、僕は殺される。
 心も、体も。
 殺される。
 その恐怖が、シンジにカッターナイフを握らせた。


 最初、その顔は呆然だった。
 自分の身に何が起きたのか、理解できない。
 そうした、痴呆じみた表情。
 次の瞬間、顔を押さえ、確認するかのように、顔から離し、広げた掌。それを彩る真っ赤な色彩。
 血。
 うわああああああああ!
 悲鳴が上がる。
 シンジは、そいつを蹴飛ばしてその場からどかせると、次の相手に向かっていた。
 豹変。殴られるままだった少年の、いきなりの豹変に、周囲の者は戸惑った。
 ルール違反を犯した者を咎めるように、顔を歪めた者もいた。
 碇、どういうつもりだよ。お前、自分が何をしたか──
 ──五月蠅い。
 横殴りに振るったカッターナイフ。
 シンジの肩を捕まえようとしたそいつの手のひらを切り裂く。
 再び、呆然。
 こちらもまた、自分の身に何が生じたか、理解していない表情。
 それから、掌を見る。
 元々、人の肉を裂くようには出来ていない、脆弱なカッターナイフ。刃は折れ、切り裂かれたそいつの掌半ばに突き刺さったままで残っていた。
 ああああああああああああ!
 ──五月蠅い。
 ──五月蠅い。
 シンジは、躊躇無く、次の相手に向かう。
 ──殺される。
 ──殺されてしまう。
 シンジの背中を押していたのは、恐怖。
 このままでは、自分は殺される。
 ──だったら。
 ──だったら……
 ──その前に、殺すしかない。
 そして──


 教室を、赤く染めて。
 切られた場所を押さえ、うめく子供。
 椅子で殴られ、ぐったりと床に倒れた子供。
 部屋の隅っこ、級友と抱き合い、怯えたようにこちらを見ている者。
 その中央で。
 荒い息を付きながら。
 右手に握りしめたままのカッターナイフは、真っ赤になって。
 自身の顔も体も、返り血で赤く染めて。
 碇シンジは、立っていた。
 ただ一人、教室の中に立っていた。
 ──何だ、こんなに簡単なことだったんだ。
 自分を殺そうとした者は、もういない。
 皆、無様に床にはいつくばっている。
 シンジに、反省の欠片もなかった。
 悪いことをしたという思いもなかった。
 これは、当然の行為。
 追いつめられた、窮余の選択。
 たった一つの、冴えたやり方が、これだった。
 これ以上の方法はなかった。
 あるというのならば、それを示して見ろ。
 僕を、納得させて見ろ。
 胸を張り、シンジは、そう思っていた。


 無論、事はそんなに簡単に収まらない。
 かつて無い、凶悪な事件。
 シンジが傷を負わせたのは、総勢で13人。
 そのうち、もっとも重傷だったのは、最初の一人。顔を縦に切り裂かれた、ちょうど、そのライン上に、目があった。左目、失明。
 他にも、数カ所を切り裂かれた者。
 顔の形が変わるまで、椅子で殴られた者。
 事なかれ主義。学校内の不祥事は、内部でけりを付ける。対外的には、無かったことにする。これが、学校という場所の基本的な体質である。とは言え、流石に事が大きすぎた。
 どうにも、収まらないのが、怪我をした生徒の親である。連日、「先生」の家に詰めかける親たち。
 学校の教師達は、この期に及んで、常のような反応をした。
 いじめがあったなどと、全く気が付きませんでした。
 誰にも感銘を与えない、常套句。
 シンジが、恒常的にいじめを受けていたと言う事情。──これは、シンジの体に刻まれていた傷や、痣によって、容易に知れた。また、未成年、どころか、民法によって、犯罪事態が無かったことにされる年齢である。が、流石に怪我人の数が多すぎた。シンジの名前こそ出ないモノの、この事件は大きく扱われた。
 親族集まっての、話し合いが行われた。
 課題は、これから先のシンジの処遇である。
 その話し合いに、ゲンドウは一度たりとも姿を現さなかった。親戚一同の憎悪は、そちらにも向けられる。
 右往左往する「先生」一家、そして親戚達。
 その騒ぎを、シンジは一歩引いた場所から、冷めた目で見つめていた。
 どうでもいい事だった。
 シンジは、自分の身を、心を守る方法を、既に理解していた。
 相手以上の、圧倒的な、容赦のない暴力。それが、自分の身を守る。
 だから、いざとなれば、また、そうすればいい。
 それだけのことだった。


 紛糾する、親族会議。
 シンジの身の振り方。結論は、容易には出ない。
 この期に及んで、シンジを引き取ろうと言い出す者はいない。
 「先生」は、真っ先にシンジを放逐することを決定していた。ゲンドウに渡されている月々の養育費。それは、惜しい。惜しいが、それではまかないきれないほどの被害を受けている。
 犯罪者の家族は、犯罪者。
 シンジが向けられ、いじめられた理由となった理論が、「先生」、そしてその家族にも向けられる。それに、耐えきれなくなった。
 引き取り手はおらず、シンジの身柄は、施設に預けられる、そう結論が出されようとしていた。
 しかし、そこで、一人の男が登場する。
 神戸山王会会長、碇ムテキ。
 裏社会に身を置く男である。親族には、当然のごとく、敬遠されていた。
 そのムテキが、シンジを引き取ると言い出したのだ。
 臭いモノには、蓋。そして、無かったことにする。そうした、保身の考えが、親戚一同の間に共通して現れる。
 暴力的な子供は、暴力の専門家に任せる。そして、自分たちは以後、関わり合いにならないようにする。結論が出るのに、時間は必要なかった。
 そして、ムテキはシンジの前に立つ。
「坊主、俺と一緒に来るか?」
 差し出された、無骨な手。
 シンジは、その手を取った。
 別段、深い考えがあったわけではない。
 身の守り方は、理解した。だから、他はどうでもいい。それだけのことだった。
 だが、それが、シンジの運命を一変させた。


 思い出す、殺意。
 自らの、原点。
 エヴァンゲリオン初号機の、血の臭いのするエントリープラグ。
 脳味噌を引っかき回されているかのような痛みに耐えながら、シンジは思い出していた。
 もっとも、基本的な行動を。
 自身の、寄って立つ根幹となるべき考えを。
 敵をどうする?
 勿論、答えは一つ。
 殺す。
 容赦なく、慈悲なく、遠慮会釈なく──
 殺す。
 相手を凌ぐ、圧倒的な暴力だけが、我が身を守る。
 そのシンジの殺意に、何かが応えた。
 希薄な何か。
 しかし、確かに。
 それは、EVA本来の意識であったかも知れない。
「敵は、殺す」
 シンジは、静かに呟いた。
 その、希薄な何かに向かって語りかけるように。
「──お前も、そう思うだろう?」
 そして、シンジは心のままに、吼えた。


「初号機、再起動!」
「自ら、顎部拘束具を引きちぎりました!」
 オペレーターの慌ただしい報告が発令所を満たしている。
 モニターに映った初号機は、ゆらりとした動きで、半ばビルにめり込んでいた体を引き剥がすと、立ち上がる。
 先刻までと同様、その動きは、速いとは言えない。しかし、先刻までとは、どこか違った。
 動きの一つ一つが、滑らかになっていた。鈍重さは消え失せ、巨大な者が動くと言うよりも、人臭さを感じさせる動きだった。
 テレメトリは、未だ沈黙している。しかし、それが無事であったならば、リツコが驚くほどのシンクロ率の向上が見られただろう。
 使徒も、何かを感じたのかも知れない。
 その虚ろな穴のように見える瞳が輝く。初号機に向けて、光線が放たれる。
 初号機は、その場で素直に光線を受けるほどお人好しではなかった。また、それを避けられないほど、鈍重でもなくなっていた。
 横に飛び退いてかわすと、一気に使徒へと向かう。
 躍動する初号機。瞬く間に、彼我の距離を詰める。
 格闘戦の間合いまでは、ほぼ、一瞬だった。獣のような動きで、使徒につかみかかろうとする初号機。しかし、再び朱金の壁が邪魔をする。
「ATフィールドがある限り、使徒には接近できない」
 リツコの呟き。
 傍目にも、初号機の動きが良くなったことは分かる。
 それは、いい。いいが、根本的な解決にはならない。
 ATフィールドには、ATフィールドを持って対抗するしかない。目には目を、歯には歯を。ハムラビ法典ではないが、それしかない。敵のATフィールドを、自身のATフィールドでもって中和、無効化する。そこで、始めてEVAと使徒は同じ地平に立って、戦闘が出来るようになる。理論上、ATフィールドを発生させることが出来る。それこそが、EVAは対使徒用の決戦兵器であるゆえんである。ATフィールドを発生できないEVAなど、まるで意味がないのだ。
 心配は無用だった。
「初号機から、ATフィールドの発生を確認」
 マヤの叫び。僅かに籠もる、歓喜。
 初号機の左腕が持ち上がる。続いて、右腕。
 へし折られた右腕。その損傷部の肉が盛り上がり、音を立てて骨折部位が接合する。
「初号機、右腕部復元」
 信じがたい。そんな声の響きで、日向マコトが報告する。
 事実、モニター上の初号機の右腕は、完全に修復されていた。損傷の跡すらない。
「そ、そんな、一瞬にして」
 リツコが、戦く。科学部主任、E計画責任者とは言え、EVAの全てを理解しているわけではない。
 初号機を、ゲンドウは口元に笑みを浮かべて見つめていた。シナリオ通り。そこに至る過程で、様々な齟齬は存在した。しかし、事、使徒との戦闘においては、自分の思惑通りに進んでいる。その事実が、ゲンドウに彼の計画が、未だに自分の掌の上にあることを、自らの掌からこぼれ落ちてはいないことを確信させた。
「初号機のATフィールド、使徒のそれを中和していきます」
「いえ、浸食ね」
 両手を朱金の壁に抉り込ませ、扉を開くように、一気に穴を開けていく初号機。確かに、リツコの言葉通り、使徒を圧倒しているように見えた。
 それを確認して、ゲンドウは口を開く。
「ふっ、勝っ……」
「勝ちましたねぇ」
 しかし、ゲンドウの決め台詞は、横からかっさらわれる。
 ユウキである。
 安堵したように胸をなで下ろし、ほっと吐息を零す。
「まだ、安心するには速いんじゃないの?」
 初号機の一挙手一挙動、全てを見逃すまい。そんな真剣な表情でモニターを注視しながら、リツコが咎める。けりが付くまで、油断するべきではない。
「大丈夫ッス」
 そのリツコに対する答えは、意外な場所から帰ってきた。
 今ひとつ影が薄い、トップ3のオペレーター、最後の一人、青葉シゲルである。
「ああなったシンジさんを止められる者は、まず、存在しません。それが、使徒だとて、同じ事ッス」
 確信に満ちた、宣言。我が事のように、胸を張っている。
「あれ? シンちゃんをご存じなんですか?」
「はい、お噂は、かねがね」
 青葉は、頷く。
「特に、「津山組三十人殺し」──たった一人、武器も持たずにイケイケの武闘派、津山組に乗り込んでいって壊滅させたのには、しびれました」
「つ、津山組?」
「三十人殺しって……」
 リツコ、マヤが、青葉の言葉に含まれていた不穏当な部分を聞きとがめる。
「あの、あの事件は、犬神スケキヨさんが犯人です。シンちゃんは、関係ありませんよ」
「あ、そうっすね。すみません、そうでした」
 失言、とばかりに青葉が謝罪する。
「そうですよ。シンちゃんの経歴は、マッシロシロスケ。見事なくらい綺麗ですから」
 ユウキが、悪びれずに口にする。尚、シンジの原点となった学校における傷害事件は、当時14才未満、年齢的に無かったことになっている。
 しかし、聞いていた者達は、素直にシンジが犯罪を一度も犯していない、等とは信じない。実際に、犯罪を起こした者に代わり、下っ端が自首をする。そうした図式が、発令所にいる全員の脳裏に描かれた。
「……ところで、あなたは、青葉シゲルさんですか? 「ギターを持った渡り鳥」の? ……ひいふう」
 田茂地が、頬を伝う汗を拭いながら、尋ねる。
「はい、そうっす!」
 青葉は、嬉しそうに起立して応えた。しっぽがあれば、犬のように振っていそうな程、嬉しそうな顔だ。
「高名な、田茂地さんに知られているなんて、感動ッス!」
「シ、シゲル、お前っていったい……」
 日向マコトが、呆れたように友人──友人だと思っていた同僚を見る。
 二人が出会ったのは、友誼を結んだのは、ネルフに就職してからである。それ以前は、別の道を進んでいた。しかし、この友人だと思っていた男がどういう道を歩んできたのか。少々、否、きっぱりと不安を感じていた。
「あの、いまは、それは後回しにしましょう。まずは、使徒さんの方を」
 ユウキの言葉に、発令所の者達は、慌てて意識をモニターの戦いに移す。
 それは、もはや一方的な戦いだった。
 中段前蹴り──と言うよりは、やくざキックで転ばされる使徒。脇腹へ、つま先を抉り込むような蹴り。ストンピング。捕まえて身を起こさせると、手近な兵装ビルへと顔を叩きつける。そのまま、下ろし金。一方的で、そしてえげつない戦いが繰り広げられている。
 最初の苦戦が嘘のようだった。
 あっという間にぼろぼろにされる使徒。
 しかし、初号機は止まらず、使徒の上に馬乗りになると、めったやたらに殴りつける。
 その拳が、胸の光球を捉えた途端、使徒は、激しく反応した。
 反応を見て、弱点と悟ったのだろう。初号機の攻撃は、そこへと集中していく。殴りつける。殴りつける。殴りつける。それでは埒があかないと見たのか、使徒の外骨格を無理矢理むしり取ると、それで殴りつける。
 光球にひびが入る。
 使徒は、これまでと見たのか、最後のあがき、逝かば諸共とばかりに自爆をするが、初号機の纏うATフィールドは、これに耐えて見せた。


 ──第三使徒、殲滅。
 ネルフは初陣を、勝利で飾った。

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