#22 パレットガンの効能


(*今回の話は、致命的な勘違いをしています。その辺り、ぬるい目で見守っていただけると幸いです)

「パレットガンですか?」
 リツコが示した、ようやくロールアウトしたEVA兵装の一つ、パレットガン。8の字型のターレット内で、弾頭を加速して打ち出す。簡単に言ってしまえば、EVA用の軽機関銃だ。それに対して、シンジの言葉は、冷め切っていた。
 リツコに渡されたスペック表を眺め、盛大に顔を顰める。
「……なにかしら」
 苦労して作り上げた武器である。シンジのその表情に、腹立たしさを感じつつも、リツコは冷静さを保って尋ねた。
「弾頭に、劣化ウランを使用。これ、正気ですか?」
 シンジが尋ねてくる。
 本気、ではなく、正気。リツコの頭を疑っている質問だった。
「何よ、あんた、何かって言うと、文句ばかり!」
 勿論、リツコもかちんときた。しかし、同席していたミサトが、先に吼えた。
 そちらに冷たい視線で一撫で、シンジは殆どミサトを無視すると、リツコに視線を移す。
「劣化ウランが、安価で硬い、と言うことは承知しています。しかし、町中──第3新東京市での戦闘を前提にしているとなれば、賛成できませんね。街が、放射能で汚染されるのは、はっきり言って、勘弁して欲しいですから」
 ウラン。放射性物質である。
「掃除のために、外国人の日雇い労働者や、駅前辺りで食い詰めている住所不定無職の人間を用意する仕事を請け負って稼ぐ、と言う手もありますけど、ここは、僕の街ですからねえ」
 原発の掃除のために、そうした人間が雇われているという噂は、リツコも聞いたことがある。何しろ、以後の保証の必要がないのだから、その類の仕事にはもってこいの、素晴らしい人材だ。非常に、効率的な判断である。──人間性云々に問題があるし、その真偽のほどは、不明だが。
 それにしても、僕の街。
 リツコは、ここに引っかかった。
 確かに、第3新東京市のアンダーグラウンドを支配していた風間組は壊滅、現在は、シンジの興した碇組が取って代わっている。
 しかし、それにしても、僕の街。
 ちょっぴり、めまいを感じるリツコである。
「そうですよねえ。後でヨード剤を配給するから、大丈夫だ、なんて言うのは勘弁して欲しいですし」
 ユウキが、のんびりと口を挟んでくる。
 ヨード剤(ヨウ化カリウムなど)は、放射性ヨウ素などを、甲状腺に溜まるのを防ぐ溶液である。電力会社や自治体に尋ねれば、入手方法が判明するだろう。もっとも、万能というわけではなく、摂取しすぎれば、今度はヨード剤自体で体をこわしてしまう。だいたい、100ミリグラムくらいが許容量だ。
「でも、秘密主義のネルフですから、ばっくれる、と言う可能性が高いですねえ。幸い、放射能は人間には感知できませんから」
 ユウキの言うように、ばっちりばっくれるつもりだった。その通り、放射能は、人は感知することが出来ない。だから、広島などでは、爆発以後に被爆した人間も多い。だいたい、下手にヨード剤などを配ったら、パニックを誘発するだけである。
「放射能障害で死者が出てもばっくれて、病院に、大量のドライアイスが運び込まれたり……」
「○○村ですね。公式発表は、『まだ生きている』。全身の細胞を放射線で破壊されても、『まだ生きている』」
「安全神話、崩壊だね」
「元々、神話ですからねえ」
 シンジ、ユウキが、以前、放射能漏れ事故を起こしたとある施設の話題で盛り上がり始める。
「ソ連の、にがヨモギとか」
「あれも、非道かったらしいですねえ」
「いい加減にしなさい!」
 吼えたのは、やっぱりミサトである。
「何かって言えば、文句ばかり。こっちは、限られた予算の中で、苦労してやりくりしているのよ。その辺りをリツコがどれだけ苦労して……」
 ミサトが、自分の苦労を理解しているとは、思っても見なかった。そんな顔のリツコである。いや、実際は、理解していないのだろう。只、シンジに反発した、と見る方が正しいように思える。
「ミサトさんは、黙っていて下さい」
 益のない話はしたくないです。そんな態度で、シンジ。
「なんですって!」
 案の定、ミサトが再び吼え始める。
「大声を出せば、恐れ入ると思っているんでしたら、間違いですよ。こっちはミサトさんなんか問題にならない人相の大人を相手にしてきていますから」
 シンジの口調は、あくまで冷めていた。
「だいたい、人類の滅亡を回避するための、正義の味方じゃないんですか? ネルフは?」
 揶揄する。
「そうですよねえ。その割に、シンちゃんを始め、第3新東京市の人間を、危険にさらす。何というか、我々は人類に含まれていないのでしょうか?」
「文句ばかり言ってないで、それなら、代替え案を示してみなさいよ!」
「それじゃあ、一つ」
 シンジは指を一本立てて、続けた。
「正直に言ってしまえば、銃は有効じゃないと、思うんですよ。前回、銃を要求したことは間違いでした」
「どう言うこと?」
 尋ねたのは、リツコである。
「ATフィールドですよ。──僕は、EVAって言うのは、もう少し広範囲にATフィールドを展開可能だと思っていました。しかし、現実には、前回、使徒のATフィールドを中和するには、格闘戦の間合いまで接近する必要がありました。その距離では、銃は使い勝手が悪いんですよ」
 格闘戦では、銃よりもナイフの方が有効だったりする。
「僕がユウキ並の銃の天才だったら、問題ないんですが、残念ながら、銃に関しては並程度ですから」
 リツコは、何となく、ユウキの方を眺めた。
「将来、数機がかりで戦闘可能となった後ならば、ともかく、現時点、単独で当たるには、銃は有効ではありません。もっとも、この銃がATフィールドをぶち抜ける、と言うならば、その限りではありませんが」
 どう見ても、せいぜい牽制用の役にしか立たないだろう。
「それじゃあ、どうしろというの?」
 EVAパイロットの言葉である。無碍には、出来ない。
 何しろ、ATフィールド、これについて、現時点で一番理解しているのはシンジだろう。先に機動に成功していたドイツの弐号機ですら、シンジが展開させたことによって得られたデータを元に、ようやく展開実験を始めたところである。まだまだ未知のモノなのだ、ATフィールドは。
「そうですね、遠距離から、ATフィールドを突破可能な銃を開発していただくのが、ベストなんですけど」
「……簡単に言ってくれるわね」
 シンジの言葉を見るに、それが、かなり難しいことであると承知しているようだ。
「幸いなことに、N2地雷で使徒の表皮を焼けることが確認されています。ATフィールドは、必ずしも絶対的な防壁ではありません」
「ATフィールドを破るだけの破壊力を得るのに、どれだけの高エネルギーが必要になってくるか、教えて欲しい?」
 リツコが尋ねてくる。
 それを開発しようとすれば、苦労するのは、リツコである。技術部主任。EVA兵装の開発もまた、リツコの仕事なのだから。
 シンジは、素直に首を振った。
「でも、あれば、便利なことは、わかりますよね」
「それはね」
 リツコは、頷いた。
 第3使徒は、遠距離攻撃用の、目から光線を持っていた。
 それに対抗できる武器は必須だろう。相手は飛び道具を持っているのに、ナイフで格闘戦を挑む。接近してしまえば、ナイフは有効である。しかし、接近するまでは? 神風アタックで勝ち続けられると思うほど、リツコは脳天気ではない。
「それと、これは、有効だからと言うわけではなくて、単に僕の趣味というか、希望なんですけど、ナイフのバランスを見直して貰えませんか?」
「──?」
「プログナイフ、投げるには、いささかバランスが悪いんですよ。スローイングナイフにして貰えたらと。あと、もう少し長めのナイフ──と言うより、長ドスを一本、欲しいなあ、と」
「バランスに関しては、考えて於くわ」
 リツコは、取りあえず、シンジの希望の二つ目は無視して告げた。長ドスを構えたEVA。想像したくない。その上、そのうち、雪駄や着流しが欲しい、腹に晒を巻いてくれ、などと言い出されたら、堪ったモノではない。
「……ともかく、現時点では、あるモノを使って貰うしかないわ。いずれ、レイが復帰すれば、二機がかりでの戦闘も可能となるし、そうなれば、一機が中和、もう一機が遠距離からの攻撃、と言うオプションもとれるようになるし」
「その場合、誰が前衛になるか、興味深いところですけど」
 シンジは、含みのある言葉を口にした。どうせ、僕だろう、そんな感じである。
 リツコは、うなずきはしなかったが、内心ではシンジの言葉を肯定していた。ゲンドウの、綾波レイに対する執着。それを考えれば、危険な場に晒されるのは、シンジの方だろう。暗い思いと共に、確信する。
「兎に角、パレットガンの射撃訓練、受けて貰うわ」
 リツコは、結論付けるように、告げた。


「目標をセンターに入れて──ぽちっとな」
 気合いの抜けること甚だしい、シンジの声である。
 シンジの姿はシミュレーションプラグの中。出来上がったばかりのプラグスーツに身を包んでいる。
 シミュレーションプラグの内壁には、EVA訓練用の仮想現実の町並み。その向こうに見える、カクカクとしたポリゴン第3使徒の姿。マギの能力を考えれば、もう少しリアルな映像が作り出せそうなモノであるが、何ともチープな姿である。
「何となく、糞ゲーの臭いがぷんぷんと」
 シンジは、ビルの影から現れた使徒に素早く手にした銃──パレットガンの銃口を向け、引き金を引く。銃口から吐き出された銃弾──勿論、本物ではなく、訓練、映像だけのモノであるが、マギが素早く計算して、その反動を伝えてくる。映像とは違い、こちらの方にはずいぶんと気を使っている様子だ。
 銃弾は、見事に使徒の胸の中央、光球に集中して命中し、爆発、四散する。あっさりしすぎているくらい、あっさりと。
「操作性は悪いし、キャラのポリゴンは粗い。──中古屋即売りゲームだなあ。でも、せっかくだから、プレイするけど」
 のほほんと、シンジ。口調は砕けているが、スコアは凄まじい勢いで伸びていく。
「まじめにやりなさい!」
 スコアはともかく、その巫山戯た態度が気に入らないのか、ミサトが怒鳴る。
 しかし、シンジはやっぱりのほほんとした態度を改めようとはしない。
「この程度のレベルなら、まじめにやろうがやるまいが、関係ないですよ。──リツコさん、難易度をもう少し上げて下さい」
「わかったわ」
 ミサトと同じく、コントロールルームにて監督していたリツコが応え、オペレーターとして参加している伊吹マヤに命じる。
 マヤが素早くキーを叩くと、訓練レベルが上昇する。具体的には、使徒の耐久度や、反応速度が上がる。更に、反撃までしてくるようになる。
 しかし、シンジは問題なくこなしていく。
「凄いですね、この数字」
 マヤが、感嘆の声をあげる。
「そうね」
 リツコも、素直に頷いた。
 最初こそ、EVA操作のタイムラグ──シンジ言うところの操作性の悪さに戸惑い、修正を必要とした様子だが、直ぐに慣れ、以後は簡単にオーダーをこなしていく。ちゃんと遮蔽物を利用しながら、右手、左手を問わず上手くパレットガンを操り、光球を中心とした場所に銃弾を集中して命中させていく。この、両手を使えるというのは、結構重要だったりする。遮蔽物が、常に都合の良い側にあるとは限らないのだ。例えば、右手しか使えない場合、遮蔽物の右側から射撃を出来れば問題ないが、左側しか使えない場合、折角遮蔽物があるのに、全身を出してしまわなければならなくなる。これでは、遮蔽物の存在価値がないのだ。
 兎に角、シンジの実力は、お世辞抜きで大したものである。ネルフ内の荒事の専門家である保安部員、その辺りと比べても、遜色無い。いや、勝っているのかも知れない。兎に角、シンジは銃器の扱いに、慣れすぎるほどに慣れている、そう見えた。
「……でも、シンジ君、銃を使うのはあまり得意じゃないそうよ」
 リツコは、シンジに先に知らされていたことを、マヤに伝える。シンジ本人は、自分の実力を並と、表現していた。しかし、並どころではないように見える。もしかしたら、日本人の謙遜の美徳だろうか。
「これで、ですか?」
 どうやら、驚きを共有できたようだった。
 マヤは、びっくりした顔で、改めてスコアを見る。はっきり言ってしまえば、マヤの銃の実力は、全然大したものではない。一応、射撃訓練──自分の体を使った──を受けている。しかし、シンジの成績にはまるで届かないレベルだ。しかも、今のシンジは、EVAとのシンクロ率の低さのおかげで、その行動には一拍ほどの遅れがあるはずなのに、だ。
 もっとも、マヤは頭脳労働の専門家であり、射撃などは、専門外であると言う事情もあるが。元々、比べるだけ間違いなのだろう。
「……射撃は、ユウキちゃんの方が得意なんだそうよ」
「本当ですか?」
 マヤは、コントロールルームの片隅にパイプ椅子を持ち込んで座り、そこで居眠りをしているユウキを驚いたような視線で見る。
「すぴ〜」
 そのユウキの姿は、まるでそんな能力を持っているようには見えない。幸せそうに夢の世界、口の端から、よだれが垂れている。世界は平和。そんな風情である。
「保安部員の報告では、狙撃も行けるそうよ」
 顔を顰める。
 リツコの手元に届いた、風間組壊滅の顛末。遠距離から、非情とも言える狙撃を繰り返して、風間組構成員を屠っていったと言う。にわかには信じがたいが、保安部員が嘘を報告するとも思えない。それに、実際、風間組は壊滅している。見かけに騙されては行けない、これは、シンジに思い知らされているのだが、それでも、とてもそうは見えない事には違いない。
「でも、シンジ君も、充分、実戦で通用すると思いますけど」
 ちょっぴり、自信がない口調になったのは、マヤには専門外だからだ。凄いと思う。しかし、たいていの場合、マヤより凄いのだ。
 その辺りの判断を下せそうなミサトに視線を向けるが、こちらは腕を組んで、不機嫌に、睨み付けるようにしてプラグ内、鼻歌を歌いそうな顔で淡々と訓練を続けているシンジを見ている。
「……シンジ君の問題は、シンクロ率ね」
 そちらをちらと見、話しかけてもろくな事にならないと判断したリツコは、呟くようにマヤに告げる。
 シンジの能力は、優れている。戦闘能力と言うことだけでも、保安部員を凌ぐという。更に、敵を倒す、あるいは殺すことに、心理的な抵抗感が無いこと。これも、日常的な生活の中ではともかく、戦闘時に於いては、頼もしい。得体の知れない生物──そう、生物である使徒。生き物を殺す。いくら異形とは言え、そこに躊躇いを感じる者も多いだろう。しかし、シンジには、それがない。敵は、只、殺す。ぎりぎりの場面で迷いがないと言うことは、能力の有無に勝る特性だろう。
 だが、問題もある。
 リツコの口にした、シンクロ率である。
 シンジに暴露されたように、シンクロとは、EVAに封じられた、肉親との共感。親を求める心。それが、シンクロ率を高める。だが、シンジは、肉親を切り捨てている。そう見える。その為、シンクロ率は低いレベルで停滞しているし、これ以後の画期的な上昇も望めそうにない。
「……それでも、前回の15パーセントに対して、現在、20パーセント強。一応、上がってはいますよね」
 マヤが、首を傾げながら、告げる。
 リツコにも、疑問に感じられることだ。
 慣れで、シンクロ率が上がった?
 本当に、そうなのだろうか?
 何か、別の事情があるのではないか。
 いや、ただ単に、ユウキが呟いたように、外見、どう見えようとも、男の子はいつまで経ってもマザコン、そう言うことなのだろうか。
 少なくとも、起動したと言うことは、ユウキの感想は、そう的はずれでもないのだろう。
「あんた、巫山戯んじゃないわよ! まじめにやりなさい!」
 ついに、ミサトが切れたらしく、叫び始める。
 それに対して、シンジはのらりくらりとからかい、まともに相手をしない。
 そして、その事によって更にミサトが頭に血を上らせる。
 見事な、悪循環だ。シンジは、楽しんでいるようだが。
「ミサト、五月蠅いわよ。──シンジ君も、ミサトをからかうのは止めてくれる?」
 リツコはため息を零し、二人を宥めた。


 その頃の、旧風間組組長宅、現碇組本部。
 ミサトが、絶対に悪いことをして稼いでいると確信した豪華なお屋敷を、2000人の兵隊がぐるりと囲んでいた。まさしく、蟻の這い出る隙間もない。そう言う、包囲だった。
「おらぁ、出てこんかい!」
「ぶるっとるんか? あぁ!」
 閉ざされた門、その前では、柄の悪い罵声が上がっている。どころか、門めがけて、ションベンを引っかけている者もいる。挑発である。
「……」
 厳しい顔をして、彼ら2000を率いる富岳ヒャッケイは、その様子を眺めている。
「どういう、ことっすかねえ」
 挑発は、長いこと繰り返されている。しかし、リアクションは皆無である。首を傾げながら、奥野ホソミチが尋ねてくる。
「ブルって、引っ込んでいると思うか? 亀の子みたいに」
「なるほど、そう言うわけですか」
 ホソミチが、頷くのを見て、ヒャッケイは顔を顰めた。
「阿呆」
「え?」
 戸惑うホソミチ。
 それに、一語一語、はっきりと、言い聞かせるようにして、告げる。
「そう言うタマじゃ無かろう。──良し、100人ほど、突入させろ」
「いきなりッスか?」
「多分、もぬけの空だ」
 ヒャッケイは、視線を門に向ける。慌てて、修復しました。そんな様子と見える門扉は、しっかりと閉ざされている。
「……おそらく、ゲリラ戦をしかけて来るつもりだろう」
 2000対10人強では、正面から戦ったら、勝負にはならない。戦争とは、数の論理なのだ。
 ネルフを巻き込んで、抗争に持ち込む。そうすれば、勿論対抗可能となるだろうが、それも、考えがたい。いろいろと胡散臭くて、後ろ暗いところの多いネルフであるが、一応は国連所属の組織なのだ。やくざの抗争に、おいそれと関わってくるわけがない。それに、そうなった場合、ネルフの被害は大きくなる。ネルフ保安部員の質は、お世辞にも高いとは言えない。何より、実戦経験が乏しい。優れた武装を持っていても、実際のタマの取り合いの場では、右往左往するのがオチだろう。日頃の訓練の成果を、どれだけ出せるか。はっきり言って、問題にならないレベルで収まると、ヒャッケイは判断している。
 そして、派手にやれば、総司令ゲンドウの責任問題に発展する。ネルフは、使徒殲滅機関である。──内実はともかく。その使徒殲滅機関が、やくざとの抗争で被害を出す。こんな間抜けな状況を、上層部が許容するわけがないのだ。良くて、更迭は間違い無しだろう。
 無論、そうなった場合には、天野連合とて、ただでは済まない。しかし、いざとなれば、ヒャッケイが全ての責任を被って、自首するだけのことだ。全て、ヒャッケイの独断。天野連合は無関係。そう言う態度をとる。無論、背後が丸見えなのは、承知の上で、だ。それでも、一応の壁となることが出来る。そして、その壁が稼いだ時間を、あの女──辣腕才女の彼岸花マリが有効に利用して、ミナカには被害が及ばぬように片を付けるだろう。こうした場合に備えて、女をあてがい、金をあてがいして、何人もの政治家と接近している天野連合である。そして、このあてがったモノが、協力を拒んだ際の天野連合のアドバンテージとなる。これらを、公表してやる。そう告げれば、彼らは必死で協力するだろう。協力せざる、得なくなるだろう。この辺りのマリの手腕を、ヒャッケイは欠片も疑っていない。
「まずは、100人だ。置きみやげに注意させろ」
 置きみやげ。ブービートラップである。
「はい」
 もう一度繰り返したヒャッケイの命令に従い、ホソミチが指示を下す。
 100人、隊列から離れ、突入していく。
 折角修理のなった門扉は、再び破壊される。
 用心深く、しかし、速やかに、100人が屋敷の中に突入していく。その様を見れば、天野連合精鋭2000の名前は、嘘ではないことが知れるだろう。
「……しかし、ゲリラ戦か」
 ヒャッケイは、それを見つめながら、苦々しい口調で呟く。
 勿論、そうした方法を採るという考えも、持っていた。しかし、出来れば避けたいことでもあった。可能ならば、一撃して決着を付けたい。そう考えていた。何しろ、これが一番簡単だから。
 しかし、ゲリラ戦ともなれば、一撃では絶対にけりが付かないだろう。
 これは、非情に面倒くさいことである。
 果たして、碇組本部は、もぬけの空だった。
「直ぐに、この街を押さえにかかれ。──行動は、常に20人単位で。奴らが、どこから襲いかかってくるかわからない。そのつもりでいろ」
 矢継ぎ早に命令する。
 相手がゲリラ戦を挑もうというのであれば、こちらは、それに対応するように行動するまでである。いかに、気が進まなかろうが、手を抜くつもりはない。
 ゲリラ戦。相手は、この街の影に潜んで、こちらに出血を強いようとしている。影に、潜んでだ。
 ならば、その間に、こちらはこの街を実効支配してしまえばいい。そうすれば、収入をたたれ、いずれ、立ち行かなくなる。幸い、碇シンジがこの街の裏に君臨、支配して、時間はさほど経っていない。巧妙な利権の連鎖を作れているはずもないし、それほどの親派がいるとも思えない。風間組から碇組への変化よりも、風間組の上位組織である天野連合直轄地への移行の方が、容易なはずだ。
 これで良い。
 これで良いはずだ。
 しかし──
「何か、たくらんでやがるのか?」
 何か、とんでもない対抗策が用意されている。そう思えてならない、ヒャッケイだった。


(*劣化ウランは、放射性物質ではありません。しかし、これを書いた当時は、そう勘違いしていました。ぬるい目で見て下さい)

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