#48 仁義なき戦い
「日本全国、本日大停電」
こんなテロップを背後に従えて、アナウンサーがニュースを読み上げている。
ネルフによる第5使徒戦の準備は、着々と進められている。日本全国からの電力の徴収。そうなれば、勿論日本中は停電となる。いきなりの停電にパニックに陥らぬよう、先に、その事についての宣伝がなされている。テレビで、街の電光掲示板で、各自治体の広報車両で。
しかし、それだけでパニックを防げるわけでもない。
今時の日本で停電。セカンドインパクト直後ならば兎も角、今更。
間違いなく、それにつけ込んだ犯罪が各所で起きるだろう。
そんなわけで、同時に、シェルターへの避難も通告された。半ば以上、外出を禁じる戒厳令のようなモノである。取りあえず、シェルターへ押し込めてしまえば良い。使徒も来ているのだ。シェルターへの避難は、不思議なことではない。
「またかよ」
とは言え、いい加減、不満を抱く人間も多い様子で、口々に文句が零れる。
しかし、おおむね素直にシェルターへの避難の準備は進められていた。
そんな最中、準備は準備でも、違う種類の準備を進めている者達もいた。
彼らは、この日本全国大停電を、チャンスと捉えていたのだ。
階段に偽装した隠し武器庫から獲物を取り出す。
愛用の長ドスの刀身を眺め、その輝きに、うっすらとやばい笑みを浮かべる。
無造作に机の上に置かれた工具箱。その中から、拳銃を取り出す。
マガジンに、一発一発、確かめるようにして弾を装填していく。
「あの舐めきった糞ガキに、目にもの見せてやるんだ!」
「応!」
とばかりに、それが、彼らの合い言葉となっていた。
あの舐めきった糞ガキ。シンジのことである。
ここは、天野連合系列の組織の一つ。その組事務所。
そこでは、非常に物騒な光景が繰り広げられていた。ここだけではない。他の天野連合系列の組織の多くでも、同様の光景が見られるだろう。
日本全国の大停電。
使徒についての情報は、天野連合も掴んでいる。一応、一般国民には極秘。しかし、彼らは一般的とは言い難かった。伊達に、裏社会の住人ではない。そうした裏情報の収集は、お手の物である。
その使徒戦に為に、日本全国の電力を徴発する。
その程度は、容易に知ることが出来た。
そして、彼らにとって、使徒などはどうでもいいことだった。
自分たちには、自分たちの世界がある。そして、その世界で生きていけばいいのだ。
そう、シンプルに割り切っていた。
使徒は、自分たちの領分ではない。
本来は、そうであった。
しかし、相手──碇シンジにとってはそうではない。
それを考えたとき、彼らには、今回の大停電がとてつもないチャンスと見えた。
これまでは、碇シンジに先手を取られ、罠にはめられ──言いたくはないが──やられ続けてきた。掌の上で踊らされたと言っても良い。
だが、今回は、反撃をする好機だった。
使徒は、彼らにとって、関係のない世界の出来事。
しかし、EVAパイロットを兼業している碇シンジには、関係のある出来事。
向こうには自由に動けない理由があり、こちらにはない。
この好機を逃すのは罪悪であるとすら、彼らは思った。
無論、だからといって、本拠の第3新東京市に乗り込むのは論外、現実的ではない。
何しろ、あそこにはEVAがいる。しかも、臨戦態勢で。
のこのこ出かけていったら最後、使徒との戦いのついでに、ぷちっとされてしまうだろう。流石に、生身でEVAの相手は不可能だ。いや、亡き彼らの先代会長である天野ハシダテだったら、デコピン一発でEVAくらいは殲滅したかも知れないが、自分たちには無理だ。兎に角、先頃全滅した精鋭2000人の二の轍を踏むのは利口ではない。また、再度それだけの規模の被害を出したら、天野連合は組織として存続の危機に陥るやもしれない。それは、避けるべきだ。
しかし、第3新東京市以外では?
第3新東京市にはEVAがいる。
では、それ以外の場所は?
それ以外の場所には、EVAはない。しかも、第3新東京市に使徒がいる以上、よそに派遣することも不可能だろう。
つまり、本拠の第3新東京市以外の碇組傘下の組に殴り込みをかける分には、何ら問題がないのだ。
幸いなことに、日本全国大停電。警察などの治安維持組織も、彼らにばかりは構ってはいられない。こうしたとき、火事場泥棒を働く者は少なくないのだ。そちらの方の対処に手を取られ、こちらにまで構っていられなくなることは明白。
妨害なく、行動することが可能だ。
彼らのお姫様、天野連合、会長、天野ミナカも、彼らの出した上申を許可した。
そうなった以上、彼らに遠慮はなかった。
ミナカは本来、JAの完成待ちをするつもりだった。
EVAをどうにかしない限り、碇組の本拠、第3新東京市に攻め込むことは難しい。
無論、武力ばかりではなく、政治工作の方も進めているが、こちらもどうにもはかどらない状況だった。天野連合が政治家の弱みを握っているように、碇シンジもまた、政治家の弱みを握っている。その為、政治家連中は言を左右して、なかなか働いてくれない。直近には、ネルフ嫌いで有名だった首相まで、弱腰になっているようにも見える。こちらの方面では、手詰まり感があった。
仕方がないので、こちらの方は保留とした。JAの完成待ち、そして、その後、碇組の殲滅後の事後処理で、こいつらの力を借りればいい。何より、ミナカ自身、手ずからの力で、シンジをぶちのめしたいという欲求があった。
兎に角、前述のように現在は様子見、JA完成待ちをする。
それが、ミナカの──天野連合の基本方針であった。
しかし、それを承伏しがたいと言う人間も多い。
何しろ、2千人からの人間が殺されたのだ。知り合いもいれば、杯をかわした義兄弟もいる。彼らにとって、碇シンジはまさしく仇。待つ時間すら惜しい。
これまでは、暴発を避けるように通達してきたミナカである。だが、何時までも押さえられるモノでもない。現在でこそ、ミナカの高いカリスマによって押さえられているが、下手をすれば、弱腰と侮られる原因にもなる。
また、何より。
ミナカ自身も、待つことは好きではなかった。
可能であれば、即座に碇シンジを殺してやりたい。それも、自らの手で。目の前で命乞いをする碇シンジを、限りなく残虐に引き裂いてやりたい。
そうした欲求があった。
そこへ、日本全国大停電である。
この機会に、自身を含め、部下のガス抜きを兼ねて、碇組に一撃を食らわせてやろう。本拠は無理でも、その傘下の組へ。
部下達の要望を、ミナカは是とした。
前述のように、EVAはなし。碇シンジを含め、中核となる人間は第3新東京市から動けないであろうから、充分以上に勝算はあるのだ。
上記のような理由で、天野連合傘下の組織、何処彼処で、同じ様な物騒な準備の様子を見ることが出来た。
彼らは、勇み、武器を用意する。
腹にサラシを巻いて、臨戦態勢を整える。
いい気になっている碇組の連中に、自分たちの恐ろしさを思い知らせてやる。
あいつの仇をとってやる。
彼らの志気は高まっていた。
──と、そこへ。
チャイムの音が鳴った。
「……」
外に仕掛けられたカメラを通して、来客を見る。
カメラに写ったのは、宅配便会社の人間のようだ。段ボールの筒のようなモノを持っている。お届け物だ。
「──宅配便だ」
確認した男が、僅かに緊張を見せた仲間達に告げると、持っていた拳銃を無造作にズボンに突っ込むと、扉に向かった。
「ちょっと待て。今出る」
扉の向こうに声をかけながら、ドアノブを握りしめ──
「素人が。扉の正面に立つなよ」
微かに、男はこんな声を聞いたような気がしたが、定かではない。確かめることも、出来なかった。
次の瞬間、轟音と共に、組事務所の扉に穴が開いていた。
同時に、男の腹にも。
腑をまき散らし、悲鳴も上げずに倒れる男。即死だった。
扉越しのショットガンの一撃。それも、散弾ではなく、一粒弾。下手な拳銃弾など問題にならない破壊力を持つそれは、扉を紙のようにぶち抜き、その向こうの男の体を、殆ど分断していた。
「──な!?」
一瞬の戸惑い。
カメラの向こうの宅配便の人間。そう見えた男の持っていた段ボールの筒からは、うっすらと煙が上がっている。あの中に、ショットガンが仕込まれていたらしい。
男達は、戸惑いから即座に立ち直る。彼らは、こうした暴力的な事態に慣れていた。何しろ、荒事のプロだ。テクニックは兎も角、度胸、そして場数では負けていない。また、思考形態が非常にシンプルだった。
殴り込み。
ならばどうする?
反撃し、殲滅する。
殆ど脊髄反射のように、次にとる行動オプションが選択される。
元々、そう多くの選択肢を所有していないのだ。選ぶのも早い。
既に、獲物は手元にある。
それを、敵対者めがけて雨霰とぶっ放せばいい。事は、只それだけ。
しかし、ほんの一瞬の戸惑い。
その、ほんの一瞬だけで、敵対者には充分な時間だった。
窓硝子をぶち破り、何かが組事務所の中に飛び込んでくる。
「──手榴弾?」
誰かの叫び。
やくざ同士の抗争に、そんなモノを持ち出すのか?
持ち出すだろう。
何しろ、彼らの相手は、エヴァンゲリオンすら使ったのだから。
それぞれ、泡を食って手近な遮蔽物の陰に隠れる。
幸いなことに、ここは室内。隠れる場所はいくらでもある。手榴弾は意外に遮蔽物に弱い。人の体ですら、充分な遮蔽物になり、まともに食らった者は兎も角、その背後の人間に致命傷を与えることは難しいのだ。
彼らは、手榴弾の爆発、そしてその直後に飛び込んで来るであろう、襲撃者の攻撃に備えた。
しかし。
爆発──はしなかった。
代わりに、とてつもない勢いで、白い煙が吹き出して、事務所内に充満した。
その煙は、やたらと目と喉を刺激した。
催涙弾だ。
「くそがあ、窓を開けろ!」
「目が、目が!」
悲鳴、叫び。
くしゃみ、鼻水、涙をこぼしながら、男達が慌てて行動する。
その中の誰かが、兎に角煙から逃れようと、組事務所の入り口から飛び出した。
その男は、足に引っかかる、何か、紐のような感触を感じたかも知れない。
だが、それもまた、どうでもいいことだった。
それは、本当に些細な事柄。何しろ、その男の体は、至近で爆発と共にまき散らされた金属片で、体中をずたずたに切り裂かれてしまったのだから。
ご丁寧なことに、入り口には、指向性爆弾──クレイモアが仕掛けられていたのだ。
「くそお!」
爆発が、元々乏しい男達の理性を奪う。
それぞれが、てんでばらばらに銃を発砲する。
煙と涙にかすむ目で狙いも付けずにばらまかれる銃弾。それは、敵を捉えることはなく、却って、味方に怪我人を出す結果に終わった。
「こちら、アルファ・リーダー。ただ今を持って、無線封鎖を解除。とっととずらかるぞ」
混乱の中にある組事務所。
そこから、僅かに離れた場所に駐車されたワンボックスカーの中で、帆村マサカネは通信機に向かい、発信と同時に、それまで行われていた無線封鎖、その解除を知らせる。
無線封鎖。
これは、対テロ作戦では常套とでも言える方法だ。
テロリストは、まず無線を傍受しているモノである。それを考えず、無線により会話を交わしながら突入のタイミングを計ったりするのは、愚の骨頂である。高度な暗号化が施され、傍受されても、内容が理解できないようになっていたとしても、無線を傍受されること自体が、テロリスト達に敵──自分たちの存在を知らせることになってよろしくない。たいていの場合、突入前には通信量が増えるモノである。相手は、それを見てタイミングを計ることが出来る。突入されると気付かれてしまっては、手ぐすね引いて待ちかまえられることとなる。それでは、作戦の成功もおぼつかない。いらない被害を出すことになるだろう。だから、無線封鎖は対テロ作戦において、常套手段なのだ。
今回の作戦。それは、対テロ作戦とは異なる。しかし、帆村達保安部員は一応プロとして、対テロ作戦の訓練を受けている。
だから、事前の綿密な打ち合わせの後、当たり前のように無線封鎖をして、事に当たったのだ。
同時に、ユウキによる指導の賜物だろう。
プロを自認していたネルフ保安部員。しかし、本物の荒事のプロを前にしたとき、自分たちが如何に経験不足で貧弱な存在であるか、思い知らされていた。だからこそ、事に当たり、慎重に慎重を期したのだ。
「こちらの被害は?」
「アルファーワン。被害なし」
「ブラボーワン、被害なし」
「良し、即座に逃げろ。合流地点は、へのヒトマルロク」
「了解」
ワンボックスカーも、既に発進している。
何しろ、帆村達は数で劣った。一撃して即座に逃走。下手に捕捉されてしまえば、即座に包囲殲滅されてしまうだろう。
進む車の中。運転手をしていた男が、口を開いた。
「しかし、どうせなら、スタンでもぶち込んで、突入、殲滅でも良かったんだじゃないすか?」
スタンとは、スタングレネードのこと。物理的な破壊力はなく、音と閃光だけをまき散らす手榴弾のことである。バスジャック事件などの、籠城事件の突入の際に使われる特殊な手榴弾だ。音と光だけ、と侮ってはいけない。視力、聴力を奪われた人間は、たいていの場合、行動不能になってしまうモノなのだ。
どうやらこの男は、今回の襲撃成功で、気が大きくなっているらしい。
帆村は、顔を顰めた。
「足止めで充分だ」
帆村は、短く答えた。
「これだけの騒ぎを起こせば、警察がやってきて、俺達の代わりに足止めをしてくれる」
「しかし、どうせ敵ッスよ? ぶち殺した方が、この先楽になるんじゃないッスか?」
「これで終わりならな」
帆村は、首を振って応じる。
「俺達が足止めをしなくちゃならない敵の数。いちいち殺していたら、いくら何でも弾の数が足りなくなる。元々味方の数が少ないところへ持ってきて、下手に被害を出したら、先の作戦が厳しくなる。無理はしない方が良い」
「それも、そうッスね」
僅かに考え、男は納得して頷いた。
「要は足止めだ。あるいは、敵のやる気を殺ぐ。今は、それ以上は欲張るな。下手に欲張ると、死ぬぞ」
もう一言、念を押すように付け加える。
「了解ッス」
男は頷き、それから思いついたように続けた。
「しっかし、帆村さんも随分様になってきましたね。まあ、俺もそうなんすけど、最初はびびって何もできなかったもんすからね」
「……」
帆村は、その男の言葉に虚を衝かれたように黙り込んだ。
そう言えば、今の自分は全然動揺していない。緊張はしているが、びびってはいない。そんな精神状態のままで、人を殺す、あるいは、人を殺せと命令している自分がいる。
かつては、こうではなかった。
こんなはずではなかった。
「あれ? 帆村さん、どうしたんすか?」
様子の変わった帆村に、苦悩の中に叩き込んだ当の本人が、脳天気に尋ねてくる。
一体、どうしてこうなってしまったのだろうか?
何故、こんな風になってしまったのだろうか?
久方ぶりに思い出したかつての疑問が、再び帆村を捉えていた。
「蛎崎組、襲撃を受けて、現在警察の事情聴取中。今夜の行動はおそらく不可能かと思われます」
「最上組、ガスを流されて組長以下全員が喉と目をやられ、行動不能です」
次々と、天野連合本部に入ってくる報告に、ミナカは綺麗な眉を大きく怒りの形に動かした。
完璧に、先手を打たれた。
事があるのは、停電後。そう考えていた。その油断を突かれた。
「伊達組、車のタイヤを全てパンクさせられた挙げ句、ガソリンタンクに角砂糖を入れられたそうです。足を奪われました」
「そこらの車を徴発して、足の確保をするように命じなさい」
言いながら、ミナカはいらだちと共に、げんなりとする気分も味わっていた。
ガソリンタンクに角砂糖。裸足の●ンじゃあるまいし、それは一体何?
そんなところだ。
その他にも、大小さまざまな報告が入ってくる。
「武田組、組入り口に放置されていた犬の落とし物を組長が踏み付け、鬱状態になってしまったそうです」
「上杉組、執拗に繰り返された無言電話により、組員がノイローゼになりました」
「なんですの、それは!」
ミナカは、いらだちを隠そうともせず、机の天版を殴りつけながら勢い良く立ち上がる。その背後で、派手に椅子の倒れる音がした。
「やつら、巫山戯ているんですの?」
襲撃ならばよい。良くはないが、襲撃ならば、まだましだ。
しかし、こんなガキの悪戯のような事を繰り返されれば、苛立ちのみが募る。うんざりとした気分にもなる。
「常套とは言い難いモノの、一応、心理戦、でしょうね。──元々、数では劣る碇組。正面決戦では、我々に勝ち目はない。出来うる限りの足止めと、同時にこちらのやる気を殺ごうという行動でしょう」
冷静に、ミナカの腹心、マリが告げる。言いながら、倒れた椅子を直している。
ぽすんと、その椅子に倒れ込むようにしてミナカは座る。
完璧に座ってしまった目で、宙を睨み付ける。そこに、碇シンジの顔でも思い浮かべているのだろう。
ミナカはバカではない。だから、マリの言っている事は、自分でも考えついていた。しかし、感情が収まらない。あまりにも、バカにされているとしか感じられないような、巫山戯た攻撃だ。
「北条組、度胸試しのピンポンダッシュをしていた小学生を、碇組の妨害工作と誤解。その小学生を射殺してしまい、組長が逮捕されました」
そこへ、追い打ちをかけるような報告。
配下も、同様に冷静さを欠いている。
それに気が付いたミナカは、頭を振って、熱を放出しようと試みる。
幾分かは、成功したようだ。どうしようもない怒りが、頭の芯に居座っているのは感じるが。
「見事に、先手を取られましたわね」
「停電は、元々敵の選んだ手段です。それに対する対処方法も、既に出来ていたと言うことかと」
マリの言葉は天晴れなほどに冷静。当たり前のことを、当たり前に告げる。そんな感じだった。
常に冷静なマリの言葉を聞きながら、ミナカは努めて冷静になるようにと、自身に言い聞かせていた。怒りに駆られて冷静さを失えば、それは、やつらの思い通りであろう。それに思い当たった分だけ、怒りを抑える。冷静であろうとする。
ミナカは、口元に冷ややかな笑みを浮かべた。
相手が、そう来るならば、自分たちはどうするか?
自分たちの規模、相手の規模。採るべき手段。
結論は、出た。
「それでも、全ての部隊を足止めすることは不可能よね。こうなったら、構うことはないわ。少々の被害は度外視。力業で、正面から相手を叩きつぶす。少なくとも、組の一つや二つは殲滅してやるわ」
「はい」
マリは、静かに頷いた。
碇組と、天野連合では未だ、規模に大きな差が存在する。
同じ数だけの被害を受けても、天野連合にとっては小規模、しかし、碇組には大規模な被害となるだろう。
正面からのパワーゲーム。
被害が甚大になるだろう。
しかし、悪くはない。
元々の規模が違うのだから、結局、最後に立っているのは天野連合になる。
また、それが嫌だからこそ、碇組はこうした搦め手から攻めてきているのだ。
相手の嫌がることをする。
戦いの基本だ。
ならば、予定していた以上の兵力でもって、正面から押しつぶす。
邪魔をされ、足止めされた以上の兵力でもって、敵を倒す。
ミナカの指示を受け、第3新東京市以外でも、戦いに向けての準備が早急に整えられた。
結局の所、今回の両者の戦いは、痛み分けの形で収束する。
先手を取られ、やる気を殺がれていた天野連合。
しかし、それでも数が多い。
やる気はあったが、数が少ない碇組。
碇組の奮戦があり、何とか痛み分けに持ち込んだ、それが、正しいところだろうか。
結局、両者共にこれという決め手を欠き、共に大量の死者、負傷者を出し、停電前後の戦いは終わる。
結果、被害の規模は兎も角、割合では、碇組の方が大きかった。ミナカの思い通りであろう。
そして、戦いはこれで終わったわけではない。これから先も、両者の抗争は、激化の一途をたどることとなる。そうなれば、今回の被害、規模の小さい碇組には、ボディブローのようにじわじわと効いてくるはずだ。そう考え、ミナカは僅かに溜飲を下げた。
尚、蛇足であるが、碇組の若頭──いつの間にか就任──の帆村マサカネの名前は、負傷者のリストの中に見受けることが出来た。
(*注 ガソリンタンクに角砂糖を入れても、車は動かなくなりません。洒落だと思って読んで下さい)
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