#59 パンダ使い その二


 男は、ゆっくりと建物から出てくると、空を見上げた。そして、大きく深呼吸をすると、呟く。
「娑婆の空気は美味いなあ」
 それに調子を合わせ、迎えに来ていた部下が一礼する。
「おつとめ、ご苦労様です」
「……全く、嫌なおつとめだなあ」
 ため息を零した男の名前は、帆村マサカネという。彼の背後にあるのは、第3新東京市の市立病院。経営をネルフが行っている、市最大の病院である。
 退院したと思った直後、助っ人騒動に巻き込まれて再び入院する羽目になった帆村である。が、めでたく快復し、退院できるようになった。
 何で俺はこんな事をしているんだろう。
 ここの所、常に頭にあった疑問も、取りあえずは棚上げ。今は、退院できたことを喜ぼう。
 そんなことを考えながら、帆村は荷物を部下に任せ、大きく伸びをした。
 幸い、しばらくは休暇となっている。ネルフの仕事も、シンジの部下の方も。
 羽を伸ばすのも良いだろう。ゆっくりと落ち着いて、これから先のことについて、考えてみるのも良い。
 先を考えることは、入院中だって出来たが、病室で将来を考えてもろくな事が浮かばないと判断して、あえて考えないでおいた。肉体的な状態は、考えることにも影響するものだ。しかも、場所が病室では、間違いなく、暗い未来予想図しか思い浮かばないだろう。
 そう、兎に角ゆっくりと、色々考えてみよう。
 結論した帆村。
 そこへ、スキール音も高らかに、病院のロータリーに車が走り込んできた。
 一台は黒塗りの高級車。窓にはスモークが張られ、見るからにそっち系の車と見える。現実はネルフの公用車。──つまりは、矢張りそっち系と言うことだ。そして、その背後に連なるのは幌付きのトラック。その幌が風でめくれ上がると、完全装備の保安部員が見えた。
 そこはかとなく感じた嫌な予感は、次の瞬間、現実となった。
 高級車の扉が開き、シンジが降り立ったのだ。
 帆村は、休暇の終わりを感じていた。
「帆村さん、退院おめでとうございます」
 シンジは慌ただしく、退院祝いを述べると、即座に本題に入った。
「それで、申し訳ないんですけど、直ぐに仕事です。本当に心苦しいんですけど、休暇はまたの機会と言うことで」
 矢張り、休暇の終わりだった。
「……はい」
 帆村な為す術無く頷いていた。
 どうしてこんな事になってしまったのだろう。
 そんなことを、脳裏で考えながら。


「はい、我々は、謎のパンダ使いが住むという、前人未踏の樹海にやってきています」
 レポーターよろしく、ユウキが説明する。
 誰に、と突っ込む者もなく、周囲では慌ただしく、装備の確認が成されている。
「見敵必殺で良いですか?」
 帆村は何かを諦めた表情で自身の装備を確かめながら、シンジに尋ねた。
「はい、こんな事で、被害を出したくないですから、それで結構です」
 シンジは、あんまりやる気がなさそうである。
 トップは良いなあ。部下に任せることが出来るから。
 そんなことを考えながら、帆村は頷いた。
 シンジに、新しい組を立てて、そこの組長になるように言われた帆村である。それも良いかも知れない、そう思い始めていた。そうすれば、自分は現場から引いて、部下に任せてしまえるようになるのかも。そんな、淡い期待を抱いてしまう。
「さて、それではちゃっちゃと……」
 ユウキがシンジに代わって指示を出しかけたとき、出し抜けに大声が響き渡った。
「はんたーい! はんたーいッス!」
 女の子の大きな声だった。
「なんだか、既視感が……」
「偶然ですねえ。私も、どこかで聞いたような気がしています」
 シンジ、ユウキが顔を見合わせる。
 叫びは、更に続いていた。
「はんたーい! パンダをいじめるネルフは出て行けッス! 希少動物は勿論、愛らしいパンダをいじめるのはんたーいッス!」
 シンジ、ユウキが揃って声の聞こえてきた方に視線を向けると、そこには「反対!」と書かれたプラカードを構えた、見覚えのある少女の姿があった。
「あれ、どうしてここに?」
 戸惑い気味に呟いたシンジの視線と、少女の視線がぶつかり合った。
 目に見えて、少女の顔色が変わる。
「お、おまえは悪の手先、女の敵の碇シンジ! どうしてここにいるっすか!?」
「どうしてここにいるのかって言うのは、こっちの台詞だけど」
 シンジは戸惑い気味に尋ねた。
 この少女は、以前に泡のお風呂に沈んでしまっていた。そして、二度と浮かび上がることもない。そのはずだった。こんな所で反対運動をしていられるはずがないのだ。
「これはやばいッス! ここは、戦略的に撤退ッス!」
 慌てて、一目散に逃げ出そうとする少女だったが、その肩を後ろから、がっし、と誰かが掴まえた。
「この子が何故ここにいるかと問われれば、オレが逃がしてしまったからと答えよう」
 と、その誰か、女性が代わりにシンジの疑問に答えてきた。
「ひ〜、あなたは!」
 更に、少女の顔色が変わる。必死で逃れようとするが、細腕に関わらず、その女性の戒めは強力で、びくともしない。
「メグ姉」
 シンジは、その女性、マーガレットを呼ばわった。
「いや、いい加減諦めたと思って油断していた。すまんすまん」
 マーガレットはちっとも悪いと思っていない口調で謝ると、少女の方を見つめた。それは、蛇がカエルを見つめる視線だった。
「大丈夫、今度は二度と逃げ出そうなんて思わないように、徹底的に仕込むから」
「ひ〜、遠慮するっすよ!」
「いいから、いいから」
「ひ〜〜、助けてくっれす〜!」
 少女の悲鳴は尾を引きながら、遠くへ連れ去られていった。
 しばらく、全員は無言で立ちつくしていた。
「ええと、こほん」
 そこへユウキが咳払いをして、皆の注目を集める。
「さて、それでは、探索を始めましょう!」
 そして、何事もなかったかの様に命令した。


 森の中、一人の少女が異変に気が付いた。
 自分たちに残された最後の楽園を侵そうという者達が接近している。女性は、その事に敏感に気が付いていた。──もっとも、敏感でなくとも、結構な騒ぎが起きていたから気が付いていただろうが。
 それは兎も角、女性は自分を守る忠実な騎士──6匹のパンダを見回した。
「かだふぃ、かすとろ、ふせいん、じょんいる、ぶっしゅ2、ぷ〜ちん」
 それは、6匹のパンダの名前。一匹ずつ、顔を見つめながら名前を口にすると、女性は縋るような目をしたまま、言った。
「お願い」
「がお〜」
 パンダたちは口々に女性の言葉に応える叫びをあげ、行動を開始した。


 帆村マサカネは、油断無く森の中を進んでいた。
 相手は、パンダ。
 聞かされた時、侮る気持ちが芽生えた。しかし、それもユウキに窘められて、即座に消えた。
 野生動物。その能力は人に勝る。はっきり言ってしまえば、人間の運動能力は、家猫にすら劣る。それが、道具を使用することで、地球の支配者の地位をえた。しかし、生物として持っているスペックは、道具に頼ることで更に低下している。決して油断は出来ない。
 更に言えば、このパンダ、ゲヒルンによって手を加えられているという。
 赤木リツコに尋ねたところ、記録をひっくり返して調べてくれた。
 ゲヒルン。ネルフの前身。丁度、セカンドインパクト後辺りで、人工進化研究所が改組したもの。
 セカンドインパクト後。それは、非常な混乱期。その混乱の最中では、人には言えないような研究も多く行われてきたという。多くの研究は、被験体、あるいは被験者共々闇から闇へ。記録には残っていない。しかし、幸いと言っていいか、このパンダについては記録が残っていた。
 「シンクロシステムの実験体」
 それが、パンダたちの正体だった。
 赤木ナオコ、碇ユイ、惣流キョウコ・ツェッペリンの三人の科学者によって、EVAのシンクロシステムを構築するための経験値の積み上げを目的として改造された検体。一人の女性──名前は真田デンパ──とパンダの間の精神交感を高め、パンダ使いとしての能力を加味した。そう言う存在。必要材料は砂糖、長葱、人参、椎茸、牛蒡、洗濯ばさみ、と、そこまでは記録されていたが、それをどうやって、どのようにすればパンダと人間のシンクロが可能となるのかは、赤木リツコを始め、誰にも理解できなかった。おそらく、世界中でも理解できる者はいないだろう。ゲヒルンの誇った東方の三賢者。その天才は伊達ではなかった。
 書類では、真田デンパを始め、パンダたちは廃棄処分となっていたが、どうやら逃げ出していたらしい。三人が三人とも、研究に関しては確かに天才的な才能を所有していたが、それ以外の部分ではかなりいい加減だったと言うから、それもありだろう、とはリツコの言葉である。
 更に──とリツコは続けた。
 パンダ自体にも、何らかの遺伝子改造が施されている可能性があると言うこと。兎に角、徹底的に弄くらなくては気が済まない。そう言う性格の持ち主達だったと言う。何しろ、興味を感じれば、倫理感などというものはあっさりと投げ捨ててしまう人たちばかりで、未確認の噂までを含めれば、亀の改造人間を作ったり、綾波レイを作ったり、ついにはEVAまで作ってしまったような人たちだ。何でも有りだろう、とのありがたいお言葉だった。
 全く、涙が出そうだ。
 帆村は無言で、手でサインをして、部下に指示を出す。
 相手は、森の中に長いこと潜んでいた。それが、ここの所の開発によって森が削られ、人前に姿を現すことになった、そう言うことらしい。つまり、通信機などは持っていないだろうと想像できるのだが……女性の名前、デンパが無線の仕様を躊躇わせていた。もしかしたら、装置など無くても受信可能かも知れないと言う、嫌な思いを抱いてしまったのだ。その為、現在は無線封鎖状態で捜索を行っている。これは、非常に非効率だが、仕方がないと諦めていた。
「──?」
 斥候として、チームに先攻していた部下が、戸惑ったように停止のサインを送ってくる。
 帆村は緊張感を高めて手の中のショットガンを握りしめた。普段使用しているサブマシンガンでは、動物相手では力不足、とのことで、急遽用意したものである。普段と違う手触り、量感は、どうにも心細さを感じさせる。こちらの方が強力で、普段のサブマシンガンを持っていれば持っているで、やっぱり不安を感じるだろうと言うことは分かり切っていたが、それでも心細かった。
 帆村は弱気を振り捨てるように頭をふり、斥候の部下の方に視線を送る。
 そして、戸惑いの表情となった。
 茂みの向こうから、何か、巨大な玉がこちらに向かって転がってきていた。
 白を主体として、所々に黒い模様がある。
 巨大なサッカーボールか?
 などと首を傾げ、そこで、パンダの模様に頭がいく。
 パンダは、白を主体に、黒い模様がある生き物だ。
 玉は、ごろごろと斥候の方に転がっている。
 斥候も、戸惑っているようだ。
「やばい、逃げろ!」
 帆村は叫んでいた。
 斥候が、?、と首を傾げたまま、それでも帆村の言葉に反応して、玉から逃れるように移動する。
 その瞬間、玉から腕が生えた。
 腕の先には、ぎらぎらと鋭い爪が生えていた。
 そして、それは玉の回転に合わせ、鋭く世界を抉った。
「うわ!」
 斥候が、悲鳴を上げる。
 間一髪とはこのこと。
 そのまま、ぼんやり立っていたら、爪によって開きにされていたところだ。
 斥候は、開きになるのを際どく逃れた。が、そのリーチは思いの外長く、胸の辺りを切り裂かれ、悲鳴を上げて地面を転がっていた。
「──!」
 帆村は、慌てて銃を構えた。
 玉は、既に立ち上がり、パンダの姿となっていた。
 ターゲットだ。
 即座に射殺──するには、足下に転がった斥候が邪魔だった。
「隊長!」
 同様に戸惑っている部下の声。こちらも、パンダの足下の斥候を気にして、発砲を躊躇っている。
 それに合わせ、先に動いたのはパンダの方。
 その巨体が、一気に加速する。帆村の方へ。
「──!!」
 引き金を絞る暇もなく、パンダは致命的な距離へと接近していた。
 振り上げられた巨腕。その先に生えた鋭い爪。
 帆村は、それをぼんやりと見つめた。見つめることしかできなかった。
 今度は、入院では済まないかも知れない。
 そんなことを、頭の片隅で考える。
 これまでの人生が、脳裏に現れ、流れていく。
 ネルフに入社したこと。
 シンジ付きの保安部員になったこと。
 最初の出入りで入院したこと。
 マーガレットの相手をして、衰弱して入院したこと。
 退院したと思ったら、再び入院したこと。
 そして、今。
 なんだか、涙が出そうにろくでもない人生と思えた。
 神様、俺が嫌いですか?
 そんな泣き言を思い浮かべた帆村の頭上に、死に神の鎌代わりにパンダの爪は振り下ろされ──振り下ろされなかった。
「?」
 見ると、パンダの顔に、でっかい×点が貼り付いていた。
「マサさん。下がって下さい!」
 少女の叫びに、帆村は我に返る。我に返ると、慌ててその場から飛び退く。
 背後で炸裂音がして、パンダの体に新たな×点が貼り付いた。
 暴徒鎮圧用のゴムスタン弾。
 その正体に思い当たると同時に、声の主の正体にも気が付く。
 ユウキだった。
 腰溜めに巨大なゴムスタン弾用の銃を構えて、こちらに向けて叫んでいる。
 帆村は我に返ると、パンダの巨体めがけ、自身の持っているショットガンをぶっ放す。しかし、表面の毛で弾かれるようにして、まるで通用しているようには思えない。
「直ぐに下がって下さい。どうやら、用意した銃では通用しない様子です」
 ユウキの声が、恐慌状態に陥りかけた帆村を我に返らせる。
 勿論、ユウキのゴムスタン弾も足止め以上にはならない。それも、最初の一撃が急所の鼻面に入ったおかげで足止めだけは出来た。そんなところだ。
 ユウキは更にゴムスタン弾を命中させるが、パンダは小うるさそうに体を揺するだけだ。
「ど、どうするんですか?」
 帆村は尻をけっ飛ばすような勢いで、慌ててユウキのそばまで撤退する。
 見れば、斥候の体も、他の者が確保して、慌てて下げている。
「対戦車ライフルで殲滅──と行こうかと思ったんですけど、シンちゃんが、これなら戦力になるから、殺さずに確保しようと言い出しました」
「か、確保?」
 帆村の声は、裏返っていた。
「どうやって?」
 麻酔、と言う手段は、即座に却下だ。
 動物が出たとなれば、麻酔銃で眠らせて確保、と思いつくところだが、現実には結構難しい手段なのだ。その個体によって、大きさによって、麻酔の必要使用量は変わってくる。多すぎれば殺してしまうし、少なければ効かない。只でさえ、見極めが非常に難しい。その上、このパンダは何らかの改造を施されているに違いないのだ。有効な手段とはなりえない。
「素手で叩き伏せるそうです」
「素手?」
 帆村は素っ頓狂な声になる。
 銃を使っても不可能なのに、素手で? どうやって?
 戸惑う帆村に、ユウキはにこりと笑った。
「大丈夫ですよ。マサさんにやれとは言いませんから」
「?」
「シンちゃんが出ましたから。ほら、来ました」
「お待たせ〜」
 のんびりとした声をかけながら、茂みをかき分けてシンジが現れた。
「他はどうなりましたか?」
「一応、眠らせて確保したけど……参ったよ。予想外の被害が出ちゃって」
 頭が痛い。そんな顔で、シンジが応じる。
「まあ、今更言っても仕方のないことです。今は、あちらをお願いします」
 ユウキが言って、銃を下ろす。
 これまで、何発もゴムスタンを撃ち込まれ、いい加減に頭に来ていたらしい。
「ぎゃ〜す!」
 パンダは雄叫びをあげて、こちらに突進してきた。
 シンジは慌てず、ユウキの前に出て、僅かに腰を落として構えた。
 パンダは体当たりをして押しつぶそうとでも言うのか、もの凄い勢いで突っ込んでくる。
 その鼻面めがけ、シンジの拳が放たれた。
 パンダの突進が止まり、首が弾け飛んだ。
 帆村の目には、そう見えた。
 この一撃で、パンダの腰が落ちる。
 そこへ、シンジは踏み込んでのショートアッパー。
 パンダの巨体が、確実に宙に浮いているのを帆村は目撃した。
 着地と同時にパンダの膝が崩れ、頭が丁度いい場所に来た瞬間、シンジはおなじみのやくざキックを放った。
 首が体にめり込むような強烈な一撃。これでパンダは大地に倒れ、動かなくなった。
「……死んだんじゃないんですか?」
 この人、絶対人間じゃない。
 そんな思いを押し隠し、帆村はシンジに尋ねた。
 これを食らったのが自分だったら、最初の一撃で確実に死んでいる。確信していた。シンジによって自分がのされたときは、本当に思いきり手加減されていたのだと、自分の顔が首の上に付いていることを改めて確認しながら、帆村は倒れたパンダを見つめる。
「手加減したから、大丈夫だと思うけど。──っていうか、最初の一匹、手加減具合が解らなくて、随分苦労したから、確実を目指したつもりなんだけど」
 自信がなさそうにシンジは呟き、帆村の、これで手加減したんですか?、と言う視線を受けながらパンダのそばにしゃがみ込んだ。それから、脈なんかを確かめて、息をしていることを確かめ、頷いた。
「うん、大丈夫。生きているよ」
「そ、そうですか」
 他に答えようもなく、帆村は頷くしかなかった。
「さて、それじゃあ、帆村さん、怪我人と、こいつの確保搬送をお願いします」
「りょ、了解しました」
 帆村は、直立不動で頷いた。
 どうしてこんな事になってしまったのかは相変わらず解らないが、少なくとも、この人に逆らうのだけはやばいと、理解していた。


「ぶっしゅ2」
 女性の力無い呼び声が、森の中に響き渡った。
「かだふぃ」
 しかし、その呼び声に応えるものはいない。
「……」
 女性は、肩を落としてその場に足を止めた。
「みんな、いなくなっちゃった……」
 悲しい呟き。
「ぎゃーす」
 その呟きを否定するように、少女の腕に抱かれた子パンダ、うさまが吼える。
「ああ、ご免ね。まだ、うさまがいたよね」
「ぎゃーす」
 自分の存在を認めて貰い、満足したようにうさまが吼える。
「……でも、これからどうしよう」
 途方に暮れ、ぽつりと呟く。
「僕のために働いてくれるって言うのはどうかな?」
 その呟きに答えがあり、女性は肩を震わせ、そちらを見た。
 茂みが揺れて、姿を現したのは勿論シンジである。
「声を出してくれていたおかげで、簡単に見つかりましたねえ」
 続いて、ユウキが現れる。
「あ、あなた達は……」
 女性は、怯え、肩を竦ませる。
 しかしシンジは構わずに近づいていく。
「いや、来ないで」
「ぎゃ〜す」
 女性を守ろうというように、子パンダが吼える。
「そう言うわけにも行かなくてね。これから、君を説得させて貰うよ」
 シンジは言って、あらぬ方に向かって声をかけた。
「田茂地」
「……ひいふう。こちらに説得の用意ができておりますです、はい……ひいふう」
 脇の茂みから、田茂地が姿を現す。
 田茂地が姿を現した茂みには、布団が敷かれていた。勿論、枕元には必要なものがきちんと揃えられていた。
「子パンダの方は、私が預かりましょう」
「ああ!」
 女性が泣きそうな顔をするが、田茂地は構わずに子パンダを取り上げる。
 抗議の叫び、そして行動をとる子パンダを、問題なくいなし、田茂地が下がる。
 代わって、シンジが女性の前に立った。
「それじゃあ、説得開始〜」
 楽しそうに言うシンジの背中に、ユウキは「シンちゃんはケダモノですからねえ」と言うニュアンスたっぷりのため息をぶつけ、その場に背を向けた。


 翌日から、ジオフロントの森の中に、6匹のパンダが住み着くことになった。

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