大陸には、様々な神が存在する。
ハニー、ヨウナシ、光の神――そして、女神アリス。
その他にも、有名無名の数多の神々。
創造神ルドラサウムは、殆ど伝説の中だけの存在で、取り立てて信者を持たなかった。
しかし、女神アリスを信奉する教団、大陸全土で一番の勢力を誇る宗教団体、AL教団、その法王ムーララルーとの間には、繋がりが存在した。各国の忍者の活躍は、この事実を調べ上げ、上層部に報告した。川中島のAL教団神殿には、創造神の意を受けて派遣されるエンジェルナイトに法王が謁見するための隠し部屋が存在することを。
だが、その時点でのAL教団の弾圧は、論外だった。
大陸最大の教団であり、その信者は大陸中に存在する。無論、各国の上層部にもその信者はいるだろう。ルドラサウムとの取引も、どうやら法王ムーララルーの個人プレーであったらしいことも確認されている。何も知らない信徒に罪は無いという事情もある。
どちらにせよ、ただでさえ不安定な現状に、更なる混乱の波紋を広げるに違い無い石を投げ込むべきではない。
また、既にAL教団上層部はランス王によって牙を抜かれ、半ばリーザスの傀儡となっている。現状維持でも構わないし、解体するにしろ、拙速は避けるべきだった。
ただでさえ、信仰などと言うものは、洒落が通じない上、譲歩を求めることが難しい、極めてデリケートな問題なのだ。
取り敢えずは、様子を見る。
マリスの下した判断は、常識的であり、間違いとは言えないだろう。
しかし、部外秘であるはずの情報が、どこからともなく、民に漏れた。
上層部の思惑とは違い、民衆は拙速だった。
神に対する恐怖は悪意へを形を変え、有形無形の弾圧が、AL教団信徒に向けられる。民衆は、自ら不安を紛らわしたかっただけだろう。創造神などと言う、手の届かない存在ではなく、目に見え、そして手の届く存在を迫害、排除して、心の安定を保つ。悪意の創造神との繋がりを持つ教主に従ってきたAL教団信徒は、文字通り、打ってつけの犠牲の羊だった。
そこで、民衆も思惑違いに気付く。
この羊は、頭を垂れて、ただ刈られるだけの存在ではなく、爪や牙を持っていた。その事に気付いたときには既に手遅れ、事態は大きく変化していた。
弾圧をはね除け、AL教団使徒の反撃が始まる。神風テロ、暴動。――そして、それが明確に「反乱」と言う形を取るのに、時間は必要なかった。時を同じくして、大陸各地に燃え上がる、宗教反乱。もしくは、一揆と言ってもよいかも知れない。
AL教団信徒にしてみれば、自らを守るための、やむにやまれぬ選択。そして、一度選択したら最後、妥協の余地は存在しない。いつの間にか、これはAL教団信徒にとって、信仰の自由を守るための「聖戦」となっていたのだから。
更に、未確認ながら、重要な報告も入ってきている。
(天使の影を見たとの噂があります。彼らが、煽ったと見るべきでしょうね)
創造神は眠りについた。だが、その配下は未だに活動を続けている。
そう言うことらしい。
神の望む、混乱の世界に再び戻すために。
その反乱を鎮圧するための軍事行動。その報復のテロ。その繰り返し。救いのない血塗れの泥沼に落ち込んだような混乱の中、リーザスは最大の弱点を突かれることとなる。
リーザス最大の弱点。
それは、後継者の不在。
ランス王は、あれだけの女好きであるにも関わらず、確認されている子供は僅かに二人しかいない。
カラーの女王・パステル・カラーとの間に出来た、第一子、長女のリセット。そして、JAPANの女将・山本五十六との間の第2子、長男の二十一。僅かに、この二人である。
全く、見事な的中率の低さである。リセットが誕生する以前に、種なし疑惑が浮上したのも頷けるというものである。
そして、一番重要なことに、本妻であるリザース王妃・リア・パラパラ・リーザスとの間には、遂に子供が誕生することはなかった。
――永遠に。
世界を震撼させた大事件。
リア王妃の暗殺。
それが、反乱が各地に起こりつつも、何とか維持されてきた秩序に、とどめを刺した。
上層部の考え以上に、AL教団の張り巡らせて信徒の根は深く、広かった。
リア王妃に仕える侍女の一人が暗殺者となり、リーザスは王に続き、王妃までが存在しなくなる。
暗殺者はリア王妃殺害後、即座に自らの命を絶ったため、その背後に何者が存在したのかは、遂に不明のままとなっている。しかし、前後の状況から、AL教団関係者であることは確実と見られている。そうでないことを信じる者など、何処にも存在しないと言っても良い。
この暗殺劇に、忍者・見当かなみを始めとするリーザス忍軍、そしてレイラ・アディスン配下の王族の身辺の警護を司る親衛隊らの護衛は無力だった。
元々、暗殺は誘拐と並んで防ぐことが難しいとされる。
襲う側は、一瞬の隙をつけばいい。逆に、守る側は一瞬の油断も許されない。守る側も、人である以上、完璧は不可能。いつかは隙が出来る。暗殺者は、気長にその隙を待てばよいのだ。
また、護衛が気を抜かなくとも、隣に立つ者が暗殺者となれば、防ぐことは不可能だ。隣に立っている者が、いきなり武器を振り下ろす。それを防ぐのは不可能だろう。
更に、暗殺者は使い捨てが効く。失敗したならば、次の者を繰り出せばいい。ダース単位で暗殺者を消費したとしても、結果、目的を達成すれば、充分以上のお釣りがでる。暗殺者とターゲットの間には、それ程の重要度の差が存在する。だからこそ、わざわざ暗殺をしようと考えるのだ。
今回のリア王妃暗殺は、まさしく隣に立つ者が暗殺者となった。日常的に接していた侍女の一人。警護の目は、見事に欺かれた。
リア王妃の死。
これにより、後継者争いが勃発した。
次期カラーの女王となることが確定しており、また種族的に人とは異なるリセットは最初期に問題外とされた。
ならば、山本二十一。
こちらも、JAPANの統治者になることが決定していた。しかし、そんなことはこの際問題ではなかった。人であり、何よりランス王の長男である。順当に対抗馬無く、リーザスの王位を継ぐ。それで、後継者問題は片づく。
そのはずだった。
少なくとも、多くの将軍達はそう考えた。
だが、ここで待ったがかかる。
待ったをかけたのは、リーザス緑軍の副将をしていた女将・ラファリア・ムスカだった。そして、彼女の後ろには、リーザスの貴族が続く。
ランス王は、軍部に圧倒的な支持を得ている。何しろ、稀代の覇王。将軍達のランス王に抱く思いは、信仰に近いものがある。
これは、一度は反旗を翻したエクスも同様だった。敵わない。今では、素直にそう思っている。
だが、逆に、貴族にとってはそうではなかった。
貴族にしてみれば、ランス王は何処の馬の骨とも知れない人間だ。元々は、無頼の徒である冒険者。破落戸が、リア王妃を誑かして至高の座に着いただけのこと。ただの成り上がり者。家名すら明らかにしないような、得体の知れないならず者。そうした思いがある。
何より、ランス王は入り婿であり、リーザス王家の血を一滴たりとも引いていない。
その息子の二十一も、山本五十六というJAPANの女将との間の子供である。こちらも、リーザス王家との血の関わりがない。
そうである以上、リーザス王位を継ぐ資格はない。
また、ランス王自身が、リア王妃に対する配慮から、将来、二十一はJAPANの総督となり、代わりにリーザスの後継者になる資格がないことを宣言していたという事情もある。
これが、ラファリアを始めとする反対派の論拠だった。
対して、ラファリアを中心とする貴族達が誰を担ぎ出すか。
こちらも、誰を担ぎ出しても問題になるに違い無いと思われた。
リーザスの最大の弱点。後継者の不在。これは、文字通り後継者となるべき人物が存在しないのだ。
リア王妃が即位した時点で、その対抗馬になり得た人物は、マリスの手によって物理的に排除されている。マリスにしてみれば、若い上に女性であることから、その即位を疑問視する者も多かったリアの地歩を固めるためにとった、当然の行動。だが、これにより、リーザスには王位継承権を持つ人間が存在しなくなり、現在でもそうした人物はいない。
リア王妃の子供が誕生すれば、順当に王位継承者として認められたであろう。そうなれば、問題はなくなっていた。だが、遂に子供は産まれることはなかった。
才女マリスには珍しい不手際と言える。何事が生じるかわからないのが世の中である。リア王妃は若く、その死が随分先のことに思えたとしても、不測の事態は起こり得るのだ。そして、現実に起きてしまった。
その場合、ぽっかりと空いてしまった至高の座を巡り、自薦他薦の者が多出して、後継者争いが起こるのは、自明のことである。なのに、そうした事態に対する配慮を怠っていた。不手際では済まされない大失態である。
だが、マリスにとっては、リア亡き後の混乱など、どうでも良いことだったのかも知れない。彼女にとって、リアが全て。彼女の世界はリアが中心にして回っており、リア不在のリーザスがどうなろうとも、彼女には知ったことではなかったのかも知れない。マリスの行動の端々に、それを肯定する部分を見つけることが出来る。
更に、その証拠と言うべきか、こうした混乱を容易に収めることが可能な辣腕の、唯一の持ち主であるにも関わらず、マリスは事件以来、沈黙を守っている。リア王妃暗殺直後の一時の狂乱の後は、全てを投げ捨ててアルコールに逃避してしまったのだ。
こうなってしまえば、マリスは実状はともかく、名目上は筆頭侍女でしかない。ラファリアを始めとする貴族達にしてみれば、沈黙したマリスは、国政に関わりないどうでも良い存在と堕す。いや、その能力を考慮すれば、都合のいいことだった。
そして、ラファリアは切り札とも言える発表をする。
自分の胎内に、ランス王の子を宿していることを。
ラファリアは名門貴族の娘である。遡れば、幾ばくかは、リーザス王家の血を混じえている。貴族達にすれば、リーザス王家と関わりない山本二十一に比べれば、ラファリアは同じ貴族であり、支持しやすい。彼女であれば、貴族の利権を守ってくれるであろうと言う期待もある。更に言えば、二十一と同じく、ランス王の血も引いている。これならば軍部も文句のつけようがないだろう。そう言う態度の発表であった。
当座は、暫定的にラファリアが玉座に座り、その子供が成長後、次代の国王となる。
これが、ラファリアの――貴族達の意見。
一時の混乱。その後、軍部は結局反対する。
多くは、ラファリアの人間性に疑問を持っているという事情がある。能力は確かに高いだろう。だが、その性格に問題を感じた。
また、お腹の子供がランス王の子供であると言う証明が出来ていない。確かに、ラファリアはランス王の寵を受けていた。これは間違いない。だが、元々自らの身体を使って出世を望むような人間である。今回も、何処かで種を仕入れてきただけという可能性もあるではないか。こうした、事情。
軍部が反対に回れば、ラファリア派は辛くなる。実際の戦闘力では、軍部の方が上なのは、分かり切ったことである。元々、貴族はリア王妃即位以来、マリスの手によって大きく力を削がれていたと言うこともある。
両者の対立。緊張感が高まる中、ラファリアは状況を打破するために、禁じ手とも言える手段を選択する。多くの者は、想像だにしなかったであろう。
それは、AL教団との共闘である。
信義にももとる行為。結局、リア王妃殺害の実行犯の自害により、その背後関係は確定できなかった。とは言え、限りなく黒に近い灰色が、AL教団である。
そのAL教団と手を組む。恥も外聞もないとはこのことであり、ラファリア派は激しい非難に晒される。だが、その非難をものともせず、実戦兵力を手にしたラファリアは、実力行使にでる。
ちょうど、各地の反乱鎮圧のために各軍団がリーザス城不在の隙をつき、後継者が決定したことを無理矢理発表。同時に、密かに城下に集めていたAL教団信者がリーザス城になだれ込み、占拠する。そして、二十一派の殲滅を計ったのだ。
ここに、黒白赤青のリーザス4軍とAL教団とラファリアの連合軍の戦いが――リーザスを二つの割った戦いが勃発した。
[BACK]
[TOP]
[NEXT]