白黒赤青のリーザス4軍とAL教団と共闘するラファリア派の戦い。
AL・ラファリア連合軍が数に勝るとは言え、常勝の軍団、4軍の圧倒的勝利で終わるであろうと予想された。
AL・ラファリア連合軍は、所詮は数が多いだけの烏合の衆である。その軍団の大半を占めるAL信徒兵は、昨日まで剣すら握ったことのないような者が大半である。
対して、白黒赤青の4軍は大陸にその名を響かせた、ランス王の常勝軍団。その主力である。統一戦争で大陸中を転戦し、常に勝利と共にあった最精鋭の軍勢。多少の数の差などは問題なく跳ね返すと思われていた。
だが、戦いは、意外な結末を迎える。
即ち、4軍の敗北である。
戦闘開始からしばらくは、大方の予想通りにリーザス4軍の優勢で戦いは進んでいた。赤の軍が比類のない突破力で分断し、敵の突進は青の軍が鉄壁の防御でもって跳ね返す。黒の軍の攻守に隙の無い戦闘。派手さはないが着実に敵を倒していく白の軍。その4軍が連携して、AL・ラファリア連合軍を殲滅していく。AL・ラファリア軍は、崩壊を避けるために、必死で防御をするしかなくなり、4軍の勝利は目前と見えた。
まさしく、戦闘は予想通りの展開を見せていた。
だが、リーザス4軍は、停滞を余儀なくされる。
突如として、味方のはずの青の軍の一団が、矛を逆しまにしてリーザス4軍に襲いかかったのだ。
青の軍副将・キンケード・ブランブラ。その裏切りである。
同時に、キンケードの手によって、青の軍将軍・コルドバ・バーンが暗殺される。これにより、青の軍は崩壊した。
その隙を逃さず反撃に転じたAL・ラファリア連合軍は、狙いを誤らず、混乱する青の軍に襲いかかる。主将を喪い、副将の裏切った青の軍は、その圧倒的な兵力による攻撃を支えきることが出来ず、ほぼ一瞬で粉砕される。
黒、白、赤の軍は、必死で部隊を立て直し、戦闘を続行しようとするが、粉砕された青の軍の生き残りのてんでバラバラの行動に、動きを阻まれる。更に、青の軍生き残りの混乱は他の軍にも波及していき、浮き足立つ。
そうなれば、数がものを言う。
圧倒的な兵力に、飲み込まれるようにしてリーザス4軍は敗北した。
AL・ラファリア連合軍の大勝である。
敗北した4軍の残党は、リーザスの後継者と目した二十一の母、山本五十六の統治するJAPANに敗走。
勝利したAL・ラファリア連合軍は、国名を神聖リーザス王国と改め、ラファリアが暫定的な女王として君臨することとなった。
そのまま、豊富な兵力を自由都市群に振り向け、態度を決めかねていた各都市を一気に再占領していく。敵対勢力が大陸からJAPANに逃れたことにより、ほぼ、無人の野を行くが如き快進撃が展開された。旧リーザス、及び自治都市の殆どが、瞬く間に神聖リーザスの版図となる。
そして、現在。
神聖リーザス王国とリーザス王国という、二つのリーザスが天神橋において、戦闘を続けている。
「エクス将軍」
声と共に、本陣にメナドが現れる。
その姿を見てエクスは自分の想像以上に、自軍の限界が近いことを理解する。
全身を敵の返り血で赤く染め上げた、メナドの姿。快活な性格をしているメナドの声に覇気はなく、肩は消耗の度合いを表すかのように落ちており、顔にははっきりと疲労が見て取れる。
ランス王の多くの寵姫達。
ランス王を慕う女性達の中で、ランス王逐電後にもっとも早く精神的復調をしたのは、山本五十六と並んで、メナドである。その後、落ち込んでいる他の女性達を支え、元気付けてきた。しかし、それは無理をしていたのかも知れない。
その無理が、今、戦の疲れと同時にでてきたように見える。
気丈な赤の軍副将ではなく、寄る辺無い少女のような痛々しさが、今のメナドにあった。
(元々、最年少の将軍でしたね)
メナドの印象は一言で言えば「元気少女」である。そのメナドの現在の姿は、何よりもエクスに敗北を意識させた。
「ご苦労様です。次の出番まで、少し休んで下さい」
(務めて、冷静に)
自らに、言い聞かせる。
その甲斐はあり、何とか平静な声を出すことに成功する。
「……エクス将軍」
メナドの声は、ひび割れているかのようだ。快活さは欠片もなく、怯えを隠すこともできない。
部下の前では、気丈に振る舞っていた。振る舞うしかない。しかし、ここには彼女の上位者であるエクスしかいない。それが、メナドの気丈さの仮面を剥ぎ取ったのだろうか。
(身体もそうだが、精神の方が先に限界に近付いている?)
今回の敵。死を恐れない狂信者を相手にすれば、精神的な疲労は避けられない。リックのような、戦闘ともなれば勝手に脳内物質を分泌しまくって自動的にハイになれるような者でも無い限り、これは仕方のないことだろう。
生死を度外視して際限なく繰り返される突撃。死を恐れず、逆に望んでいるかのように、恍惚とした表情を浮かべて迫る敵兵。殉教者の愉悦。高らかに上げられている、陰鬱な唱名。
気が明るくなる要素など、欠片も存在しない。
じわじわとした、疲労の蓄積。まるで、ヤスリで少しずつ神経を削られているかのような、暗澹たる気分。休憩中の兵士が、悪夢にうなされて飛び起きるという報告が、いくつも届けられている。
昼夜を問わずに戦場に響き渡る、敵兵の祈り。
エクス自身、うんざりしている。
陰々滅々たる、唸りのようにすら聞こえる、敵兵の唱名。今までの戦とは、全く持って勝手が違う。正直、魔物の大軍を敵に回した方が、まだ気が楽である。
「もう、限界ですかね……」
自分に向けて、呟く。
「――!」
それを自分に向けた呟きととったらしく、メナドが目を見開く。
「いえ、ぼくはまだ戦えます!」
素早く、大声で叫ぶ。無理をして、顔に笑いを浮かべようとするメナドの姿が痛々しい。
(これは、負けですね)
エクスは、そのメナドの顔を見て、事実を素直に受け入れる。この戦いは自分たちの、負けだと。
(大陸一の知将。――全く、噂は当てになりませんね。僕は、所詮、この程度の者だったと言うことですか)
かつて、ランス王にも反乱して、戦いを挑んだエクスである。リーザスのこれからを、まかせることは出来ないと思ったからこその、反乱。その時も敗れた。
だが、その時の方がましだ。
その時、ランス王の配下には、バレス将軍がいた。リック将軍がいた。コルドバ将軍がいた。彼らは、ランス王にリーザスの未来を託せると考えていたのだ。
敗れても、まだ希望があった。彼ら3人の将軍が仕えることを決意した男である。自分にはわからなかったが、それだけのものがランス王にはあるのかも知れないと思うことが出来たから。リーザスの未来は、闇に閉ざされているわけではないかも知れないと、思うことが出来たから。
だが、今回は――
(救いがない)
ただ、権力を得んとするために、リア王妃殺害の最有力容疑者と手を組む人間が、リーザスの支配者になるのだ。未来を託す。そんな気にはとてもなれない。
リーザスの将軍の大半以上がこちらに付いているという事情も、敵対勢力の胡散臭さを表している。誰だって、リーザスを割るようなことは、したくはない。だが、こうなってしまった。こうするしかなかった。
「エクス将軍! ぼくは、まだ戦えます! あんな……あんな人たちには、絶対に負けません! リア様を殺して、王さまがいないのを良いことに好き勝手するような人たちに……。ぼくは……ぼくは、絶対に……」
メナドの思いも、エクスと同様の様子だ。
それだけに、やりきれない。
やりきれないが……
「メナド将軍、撤退の準備を」
「エクス将軍! ぼくは」
余程悔しいのか、メナドの目尻には、涙が浮かんでいる。
ランス王の常勝軍団。逆に言えば、負けることに慣れていない。慣れたいものでもないが。
「まだ、負けたわけではありませんよ」
メナドを宥めるように、エクスは口を開く。
(平気な顔をして嘘をつくことばかりが、得意になっていく)
それが、大陸最高と言われる知将の姿。自嘲の思いがエクスの口元を僅かに歪ませる。メナドに気付かれない程、僅かに。それ以上は、内心を表に出さない。
「……長崎城まで、引きます」
(援軍の当てのない籠城戦。……これは、絶望的ですね)
古来より、援軍の当てのない籠城戦が勝利できた例はない。籠城とは、あくまで援軍の当てがあってこそ、意味のある戦い方なのだ。
現在、山本家はJAPANの盟主である。だが、リーザスの後押しを受けてその地位に就いたということがあり、土着の勢力の中には、快く思っていない者も多い。それらの勢力は、今回の争いを幸いとばかりに、独自の動きをとっている。
消極的に、山本家に従うことにした勢力も、山本家が劣勢となれば、簡単に掌を翻すことは考えるまでもない。彼らの思考は、寄らば大樹の陰。日和見である。それだけに、神聖リーザスが優勢となれば、矛を逆しまにして、こちらに襲いかかってくるだろう。
つまり、本当に援軍の当てはないのだ。
しかし、それ以外に選択の余地がない。まさしく、絶望的だ。
「でも、エクス将軍!」
メナドも、そんなことは当然承知しているだろう。言葉が、鋭くなる。しかし、同様に、他の選択肢がないことも理解しているはずだ。
「籠城戦なんて……」
理解していることを証明するかのように、語尾が消えるように弱くなっていく。
このままでは、疲弊し、押し潰され、消えて行くしかないことも確かなのだ。仕切りなおし。それが出来るかは非常に心許ないが、それしかないのだ。
「これは、総大将の命令ですよ」
メナドを黙らせ、エクスは伝令を呼び寄せる。
感情を排し、事務的な口調で告げる。
「リック将軍、レイラ将軍にも、撤退の指示を。リック将軍には、殿軍をつとめてもらいます。撤退先は長崎城。そこで、体勢を取り戻して、再び戦いを挑みます」
伝令が立ち去るのを、エクス、メナド共に、無言で見送った。
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